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晴れた夜の星は輝く  作者: YUNO
5章 彼女は分かる
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35話 彼女と彼ら


 アイレア国の使者の名前は、ホセ・タリヌスと言った。日に焼けたような小麦色の肌に、はっきりと睫毛で縁取られたその目はとても美しく、また髪と瞳の黒が似合っていた。あの日ステラさまの誕生パーティで一度会っただけではあるが、その顔や姿はまだ覚えている。この写真のホセ・タリヌスは間違いなく、その人だろう。

 細かいプロフィールまで見てみれば、年もわたしと5つほど離れているだけで、その来歴もやはり一般人から比べれば素晴らしいものではあるが、こちらが恐れをなしてしまうほどの輝かしさは無く親しみやすいものであった。ステラさまからのコメントも今までより好感を持っていることが伺える。

 まだほんの一部のファイルにしか目を通してはいないけれど、きっとこの人以上に興味を持てる人は、とても贅沢な話だけれど無いように思えた。だからすぐにステラさまに会いに行き、その旨を伝えた。


 「そう。じゃあこの人に決めたのね?」

 「はい。お見合いという形ではなくても、もう一度話してみたいと思えるような、印象の良い方でしたから。」

 「・・・分かったわ。じゃあわたしが責任を持って連絡をつけておくわ。」

 「ご迷惑おかけします。」

 「それは全然良いのだけれど・・・・・・誰かにこの話を止められたりしなかった?」

 「え、・・・どうしてそれを?」


 そう驚きながら言うと、ステラさまはますます嬉しそうに笑った。そしてすぐに小さく「だけど辞めさせるには至らなかったのね」と小さく何かを呟いた彼女に聞き返すと、「いえ、あなたのことじゃなくて・・・」と言いかけて、口を閉じてしまった。


 「いいえ、何でもないわ。アイレア国へ連絡行って、また返ってくるのにはまだ少し時間があるわ。そのときまでに、あなたはあなたに出来るだけのことをするべきね。相手に失礼にあたらないように。」

 「はい。そこで少しお願いがあります。」





 「なるほど。それでアイレア国のマナーや歴史と政治を教えてほしいんだね?」


 そう微笑みながら言うのは、人事統括室のマーティンさんである。彼はおそらく目を通していただろう書類を一回机に戻し、わたしをソファへ座るように促した後、自分も腰を下ろした。

 彼に折り入って話をしたのは、今度の見合いのためである。相手がこのミッドチェザリア国出身の人であれば、何とか自力で話を合わせるなどの対応は出来るが、今度のそれはアイレア国出身の人である。母国語ではない言語を操るというのも不安ではあるが、さらに話が弾んで政治や歴史の話になれば、きっとわたしでは付いていけない。そのために、何とか短期間で要点を教えてもらえないかと、そう頼んでいるのだ。


 「はい。ステラさまには時間外に特別に対策教室を開くことに関して許可を頂きました。もしマーティンさんにお受けいただけるなら、残業代を支払っても良いという風におっしゃっていました。」

 「だからお前はいつの間にそんなに王女殿下と、」

 「どうですか、マーティンさん。」

 「おい、無視するな。」


 何だか低い声が聞こえる気がするけれど、そんなことに構っていられない。何とか受けてもらえないかと意思を込めて見上げれば、マーティンさんは少し迷ったような顔をくずして、にっこり笑った。


 「うん。じゃあ、俺に出来る範囲で良ければ。」

 「ありがとうございます!」


 そう言うと、マーティンさんはますます目元を柔らかくして、やさしく頷いてくれた。横目に室長を確認すると、まさかマーティンさんが承諾するとは思っていなかったのか、驚きを隠さずにまじまじと彼を見ている。


 「ただ、俺だけでこれを全部教えるのはさすがに厳しいかな。特に政治問題は、僕よりもオスカーが適任だと思うよ。」


 そうやってちらりと室長の方へ視線を映すマーティンさんに驚いたのは、わたしだけではなかった。室長はマーティンさんを信じられないといったように見たあと、考える様子もなく言い放った。


 「俺はやらない。」

 「別に無償でやるわけじゃないんだし、可愛い部下を助けると思えばいいんじゃないか?」

 「あ、マーティンさん、いいですよ、別に。」

 「そういう訳にもいかないよ。・・・あ、もしかしてオスカー、政治分野は自信ない?」


 それは傍目から見ても、挑発だと分かった。

 特にそこまでして室長に政治の教えを請いたいとは思っていなかったのだけれど、マーティンさんは室長を信頼しているようだ。わざとプライドを刺激するようなことを言って、室長の肯定を得ようとしているのは明らかだった。

 まさかわたしにも分かるような挑発に室長がのるはずはないだろう。と、そう思っていたのだが。



 「・・・・・・そこまで言うならやってやってもいい。二度とそんな事を言えないようにしてやる。」

 「はいはい、悪かったよ。よかったね、アリシアちゃん。」

 「あ、はい・・・。よろしくお願いします。」


 ものすごく不機嫌そうな室長は、それでも特別教室について承諾した。その事実にびっくりしてしまったけれど、マーティンさんはまるで室長がそう言うのを分かっていたように満足そうに笑った。それをちらりと見てしまった室長は、またまた眉間の皺を深くして、「所用だ」と言って部屋を出て行ってしまった。



 「・・・どうして室長はこのお話を受けてくださったんでしょうか。」

 「さあ、どうしてだろうね?」



 そう言うマーティンさんは、まるで分からないとでも言うように首を傾けたけれど、その表情はまるで答えを知っているかのようににこやかだった。


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