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晴れた夜の星は輝く  作者: YUNO
閑話
41/77

あの人の企み


 「それでね、兄さまったらあれから2時間も説教するのよ?」


 そうやって愚痴をこぼしながらも、その表情は今までよりも穏やかで、とても幸せそうに笑っているのは、この国の王女、ステラ殿下である。先日の誕生パーティを終えて、正式にヒルスレイヴ国のエリック王子との婚約が発表され、何か彼女の胸につかえていた問題も、どうやらそれと同時期に解消されたらしい。

 それがどんな問題であったかは、おそらく誰にでも察しがつくことで、室長によれば少しでも彼らに関わりのある人間、王宮でも長く勤めている人間であれば彼らがお互いに想い合っていて、けれどそれを伝えられずにいたことなんてお見通しだったという。

 それもそのはず、険悪な雰囲気を残してパーティを抜け出したかと思えば、そのすぐあとにふたりで手を繋いで会場に戻ってきたのだというのだから。とはいえ、わたしはそのとき足の怪我のために医務室を訪れていたので、聞いた話ではあるけれど。



 「急な退場でしたから、ハウエル殿下も驚いたのでしょう。」

 「あら、アリシアは兄さまの味方だっていうの?」


 そうやって怒った風に頬をふくらませてはいるが、その目元は柔らかいままだ。

 あれからまだ数日しか経っていないというのに、彼女はまるで嬉しさも興奮も冷め遣らぬといった様子で、第3書庫を訪れた。本を整理している途中だと伝えはしたものの、そのまま仕事をしてくれていいからと、先ほどから彼女は近くの椅子に座って、わたしの方を向いている。


 「いいえ、そういう訳ではありません。もちろん、ステラさまとエリック王子のことは祝福していますよ。」

 「本当?・・・実は、まだ少しだけ、夢だったんじゃないかしらって思うの。だから余計に、誰かにそう言ってもらえると、本当だったって実感出来るような気がして。」

 「わたしで良ければ、いつでも。」


 そう笑ってみせると、ステラさまも目一杯微笑んでくれた。

 ああなるほど、この人の微笑みは美しくて、きらきらしている。少し前までの彼女も、さすが王族の風格やオーラはあったけれど、今はそれにも増してとても柔らかく温かい空気が彼女を取り囲んでいる。これからきっと彼女は、より一層、いろんな人に愛され、信頼される存在になるだろうということは、誰もが予想できることだろう。



 「そういえばアリシアは、恋人はいないの?」

 「え?いえ、わたしには恋人はいません。」


 突然話題を変えたかと思えば、今度はわたしの恋の話に興味津々といった様子だ。それでもステラさまを楽しいと思わせる話などわたしには無いので、素直にそれを打ち明ける。


 「あら、・・・じゃああの人は結局ダンスのパートナーっていうビッグチャンスを生かせなかったのね・・・。」

 「何かおっしゃいました?」

 「いいえ、何でもないわ。」


 小さく何かを呟いたかと思えば、すぐさま顎に手を添えて、今度は何かをじっくり深く考え込んでいるようだ。どうやらよほど大切なことらしい、考えている間にも彼女は困った顔をしたり、楽しそうな顔をしたりと、かなり一生懸命だ。それを横目で眺めつつ仕事に集中し始めてしばらく、彼女はようやくひらめいたように顔を上げた。




 「そうよ!アリシア、あなたお見合いをしたらどう?」



 突然何を言うのかと思えば、本当に何の脈絡もなく彼女は、だけれど自信たっぷりといた様子でそう発した。

 その内容をもう一度心の中で復唱し理解した上で、改めて驚く。


 「お、お見合いですか・・・?」

 「そう!あなたはまだ10代だけれど、それでももうすぐ20歳になるでしょう?20歳ともなればこの国では結婚相手を見つけている人が半分以上だわ。それに、あなたにはたくさんお世話になったけれど、わたしがあなたを助けられるのはこれくらいのことしかないもの。」

 「い、いえ。わたしはまだ、結婚など考えていませんし・・・。」

 「そんな悠長なことを言っていてはだめよ、アリシア。とりあえず異性と会う機会を増やすだけでも、きっと良い刺激になると思うわ。」

 「ですが・・・。」


 どうやらステラさまは、本気のようだ。

 こんなわたしがお見合いなどとは、今まで考えたこともなかった。もちろん、結婚することについてもだ。自分でもまだ若いと思っていたし、そういった相手はいつか、どれだけ時間がかかっても自然と見つけられると思っていたからだ。


 「あなたは確かに綺麗で性格も良いけれど、もう少し積極的にならなくちゃ。良家の女の人はみんな、もうお見合いだの社交パーティだのに積極的に参加しているわ。」


 そうはいっても、わたしは普通の家の出身の、ただの庶民である。

 だけど、ステラさまの‘良家の女の人’という言葉に、胸がざわついた気がした。それと同時に頭の中を過ったのは、長い髪に、漆黒な瞳をもったあの、女性。室長の隣に並んでいた、綺麗なあの人。



 「わたしでも、素敵な女性になれると思いますか・・・?」

 「ええ、もちろんよ!」


 それは、誰かに対する羨みや、嫉妬だったのかもしれない。誰かを意識しての決意だったのかもしれない。だけどわたしでも、これをきっかけに変わることが出来るのだとすれば。



 「じゃあ、ステラさまにこの件はお任せします。」



 そう言ってしまえば、彼女の表情はまた一段とキラキラ光った。よほど楽しいことが待っていると思っているのだろう、早くもいろいろなことを頭の中で計算したり想像したりしているようだ。そんな様子を見てから、わたしはまた、本の整理へと取り掛かった。





 「これであの人に喝を入れて、焦らせないとね。」




 だから、彼女がこんなことを漏らしていたことにも、到底気が付かなかったのである。


閑話です。

次の第5章につながるお話となります。

だんだんと恋愛色が強くなって参りましたが、まだまだこれからといったところでしょうか。


続いてのお話も、皆様に読んでいただけますように。

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