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晴れた夜の星は輝く  作者: YUNO
3章 彼女は気付く
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16話 彼女と対策



 手始めに散らかった本たちを床に平積みにしていく。この際ジャンルも関係なしに、とりあえずは倒れた棚や長机などを元に戻すことから始めなければいけない。この状態では床も見えないのだ。

ひとつひとつ本を手に取り、そこに降りかかった埃を取りながら、心の中でごめんねと、謝った。

 わたしが整理係だったのに。本たちを守るのが仕事だったのに。それを出来なかったことがひどく悔しいのだ。もしわたしがすぐに仕事に戻っていたらこんなこともなかったんじゃないかと、そう考えてしまう。


 午前の勤務時間は、本を積み上げる作業だけで終わってしまった。まだ半分以上の本が散らかったままだ。小さくため息をついて、それでも腹を満たすべく食堂へ向かった。




 「第三書庫が?」

 「そう。ひどい状態なの。ああ、でもまだ誰にも言わないでくれる?」

 「わかったわ。・・・それにしても一体どうして・・・」


 そうやって考えをめぐらせているのはマーガレットだ。今日の昼食は調理係のみで、彼女の担当していたスープはもうすでに仕事が終わってしまったらしく、今はわたしの話に付き合ってくれている。


 「室長が言うには、王宮の誰かの仕業だって。わたしもそう思ってるの。」

 「でも王宮にそんなことをする人いるかしら?」

 「第三書庫に何か秘密があるのか、それともわたしに個人的な恨みがあるのか・・・。」

 「そんなこと絶対にないわ!アリシアのことを恨む人だなんて絶対にいないわよ!」


 そう息を荒くする彼女に、胸につかえていたものが取れた気がした。

 荒らされた第三書庫を見たとき、あるひとつの可能性はあった。わたしが誰かに恨まれているのでは、なんていう、可能性。ここに来てから1ヶ月と少し経つけれど、わたしが今まで出会った人とはうまくやっていると思っていた。だからそんな人たちを疑うなんてしたくないと思っていたけれど、その可能性がないということも否定できなかった。だけれど、マーガレットの言葉で目が覚めた。そんなことを思っていたくないし、わたしの周りにいる人は、そんな人間じゃないと分かっているから。


 「じゃあやっぱり、第三書庫には何かがあるんだわ。」

 「・・・ねえアリシア、気をつけて。」

 「・・・え?」

 「もし犯人が第三書庫に何か思いがあるのだとしたら、今そこに一番近いあなただって危険なはずだわ。」

 「そんなこと、」

 「何かあるはずないって言えないでしょう?・・・あなたの上司がちゃんと考えてくれているといいのだけれど・・・。」


 そういう可能性は、全く考えていなかった。第三書庫に何かあるのだとすれば、そこにほぼ毎日いるわたしにも何かが起きる可能性がある、なんて。




 「・・・君の友達はよほど君のことが大事なんだな。けれどもその考えは正しい。」

 「室長も、そう思われますか。」


 昼食を終えてマーガレットに言われた通りにオスカー室長の元へ向かった。いつも通り、大きな椅子に足を組んで座り、書類を眺めていた銀縁眼鏡の彼は、その奥にある切れ長の目をこちらへ寄越した。


 「その可能性については、今検討していたところなんだよ。」


 そう言って奥の洗面室から出てきたのは、柔らかい笑みを浮かべるマーティンさんだった。だけれどその表情は、いつもと違って少しだけ堅く見えた。


 「第三書庫の扉を施錠しても、そこを荒らすくらいの覚悟がある犯人は、窓から侵入する恐れだってあるからね。」

 「でもだからといって第三書庫の閉鎖は出来ない。あそこにある可能性については幹部の連中も長らく期待していたからな。」

 「・・・では、どうすれば、」

 「他の書庫係と、俺たちで順に警備をする。と言っても第三書庫では自分たちの仕事を続けるがね。」

 「昼間働いてるアリシアちゃんのことは俺たちが守れるし、夜は警備の連中にマメに第三書庫をチェックしてもらうように言ってあるから。」

 「・・・もうそんな手配を・・・?」

 「俺がいつまでもボケボケしてると思ってるのか。」


 そう言った室長はいつもと同じでとても偉そうだったけれど、今回ばかりは素直に感謝の気持ちがあふれる。

 どうしたってわたしは、第三書庫の仕事を続けたい。どうしたってわたしは、第三書庫を傷つけたくない。どうしたってわたしは、第三書庫を守りたいのだ。

 いつの間にこんなに第三書庫がわたしの中で大きくなっていたのかは分からないけれど、でも確かに今、それが大切なものだということが分かるのだ。


 「・・・ありがとうございます。」


 だから、頭を下げた。絶対に敬意なんて払うものかと思っていたけれど、今はこの人が頼れる上司に思えて仕方がないのだ。彼はわたしが頭を上げてもなお、切れ長の目を大きく見開いて驚いた表情をしていたけれど。それも見ない振りをして、今度はマーティンさんにもお礼を言い、仕事へ戻ることにした。


 さて、この第三書庫もわたしも、いろんな人に守られることになってしまった。そうなるからには、わたしはしっかりとわたしの仕事をこなして、第三書庫を元通りにしなければならない。そうしないと、その人たちへの本当の感謝の気持ちは伝わらないだろうから。




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