<彼女の本音 2>
そんなとき、彼女からの手紙を受け取った。手紙といっても、ただ会いたいという内容と、場所と時間が記載されていただけだったけれど。
最初は行くつもりなど無かった。行ってしまったら、自分の抱いている感情が、全てみっともなくて、結局悪いのは自分だと認めてしまうことになると考えてしまったからだ。
それでも、それなのに、わたしはその場所へ向かっていた。何を期待していたのか、分からなかったけれど、確かに行かなければならないのだと、何かが告げていた。
本当は、怒ってなどいなかった
ただあなたが、羨ましかった
友達だと思ってないなんて、嘘だった
あなたを傷つけてしまって、ごめんなさい
そのどの言葉も、結局わたしから出ることはなかった。ひょっとしたらずっと彼女とはこのままなんだろうかと、自分の所為であるくせに、その苦しさをようやく知った、そのとき。
「わたしは、あなたのことが大好きなんだもの」
そう言った、彼女。
その一言に、意地も、嫉妬も、疑いも、全部、全部なくなってしまった。
こんな風に自分を思ってくれる彼女を、これ以上どうやって責められるというのか。きっとそんなことできるはずがなかった。
そう思ったときだった。
彼女の瞳が揺れ、彼女の体が一瞬固まり、そして、崩れたのは。
「アリシア!!」
咄嗟だった。
自分のこの体で、彼女を支えられるとは思っていなかったけれど。でも出来る限りの力を出して、何とか地面から彼女を守ろうと、半分無意識のまま動いていた。そして何とか頭と地面との接触と免れ、ほっとする間もなく、急いで彼女の状態を確認する。意識は無いけれど、どうやら呼吸はあるようだ。それでもこれからどうなるか分からない。すぐにでも医務室へ運びたいけれど、わたし一人の力ではどうにもならなかった。
友人のこんな姿に、涙があふれてくるのが分かった。それでも何も出来ない自分の無力さに、ほとほと呆れるほどだった。
「やれやれ、本当に人騒がせだな。」
誰か呼ばなければ、と大きく息を吸い込んだ直後に聞こえた、低く太い声。それはわたしの頭上から聞こえていて、思わず見上げると、艶のある黒髪に、銀縁の眼鏡をかけた、背の高い、男の人が立っていた。黒と金の制服を着ていることから、割と偉い人なのだと認識する。けれど今は、そんなことに気を遣っている場合ではなかった。
「あの!助けてください!お願いします、わたしの友人なんです!」
「・・・そうか、君が・・・・・・。」
何か言いたそうにこちらを眺めるその人は、人が倒れているというのに、まるで危機感など持っていないかのようだった。
「何をぼうっとしているんですか!人が倒れているんです!早く!」
そう告げると、「こいつがこいつなら、友人も友人だな。」という声がぼそっと聞こえて、でもその直後、頭をわたしの膝に乗せていたアリシアが、急に宙に浮いた。と、思ったら、その男の人に軽々と抱きかかえられていた。どうでも良さそうな顔をしていたその人は、だけれど一瞬だけアリシアの顔を覗き込んで、ほっとしたような表情を見せた。
「・・・気を失ってるだけだな。医務室に連れていく。眠れば元気になるだろう。」
そう言って、長い足を使って大股に、かつ速く歩くものだから、わたしはそれに小走りでついて行ったのだった。
「あの、・・・あなたは?」
医務室の、いちばん日当たりの良いベッドに寝かされたアリシアは、まだ目が覚めない。そんな彼女から目を離すことなく、わたしは彼に問いかけた。
「この生意気娘の上司だ。」
「・・・アリシアの、上司さん、ですか。あの、彼女を運んでくださって有難う御座いました。」
ちょっと素っ気無い人だと思ったけれど、友人を救ってくれた恩人には変わりない。深々と頭を下げて、感謝の気持ちを伝えた。すると、その人は何も言わず、ただ僅かに口元を緩めただけだった。そして一度だけアリシアに視線をやったあと、
「よく頑張ったな。」
と、そう呟いて、その人は医務室を出て行った。
その、直後だった。アリシアが目を覚ましたのは。
目を覚ました彼女を見た途端にわたしは思わず、涙をこぼしてしまった。その様子を見て、本気で心配してくれる大切な友人のことをわたしはまた、好きになったのである。