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晴れた夜の星は輝く  作者: YUNO
2章 彼女は知る
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09話 彼女と彼女の相談


 「恋を応援する方法、ねえ・・・」


 そう呟いたのは、今日も優しげな表情を浮かべるマーティンさんである。

 というもの、わたしは今、人事統括室の来客用ソファにマーティンさんと向かい合わせで座っている状況にあるのだ。今はちょうど、お昼の12時を回ったところ。早めに宿所でお昼を済ませ、マーティンさんのお昼休憩に合わせて、ここを訪れたのである。


 「その友達の、力になりたいんです。」

 「そうか、そういうことなら、俺も喜んで協力するよ。」

 「何をまた無駄話をしているんだ。」


 ああ、せっかくマーティンさんの快いお返事に感動していたのに、また重低音の声が降りかかる。マーティンさんに会うためには、この人に会う覚悟もしなければならないのが厳しいところだ。


 「今は休憩中ですので、無駄話をして悪いことはないはずです。それにわたしにとっては、これは無駄話ではないんです。大事な話なんですから。」

 「無駄な、恋愛の、話だろう?」

 「オスカー、・・・大人気ないよ。アリシアちゃんは友達の恋を助けたくて、でも自分に経験が無いから、こうして俺を頼ってきてくれただけだろう?」

 「そうか。君は、恋ごときにそんなに必死になっているというわけか。」

 「室長、そうしてバカにしていらっしゃいますが、‘恋ごとき’なんて室長にも分からないでしょう?」

 「それはどういう意味だ。」

 「なんでも御座いません。それで、マーティンさん、どうすれば良いと思います?」

 「おい、無視をするな。」


 わたしと室長とのやりとりを見ていたマーティンさんは、それは楽しそうに笑ってみせ、もう一度少し考えている素振りをして、こちらに向き直った。


 「そうだね。気になるところは、その彼女が好きな相手の気持ち、じゃないかな。」

 「ロー・・・いえ、その人の気持ち、ですか。」

 「うん。もしその人に相手がいるのなら、状況は一気に厳しくなるし、そういった相手がいないのなら、堂々とアプローチしても良いわけだ。それに欲を言えば、その彼の好みを探ることが出来たのなら、それはきっと君の友達にとって大きな利益になるんじゃないかな?」


 つまるところ、情報収集が必要だと。それもそうか。何も知らない相手を自分に振り向かせるなどよほど無理に等しいだろう。でもこれで、わたしに出来ることが見つかったわけだ。きっと上手く協力できれば、マーガレットとローランドさんの恋が実るかもしれない。そう考えると、俄然やる気が湧いてきた。


 「どうでも良いが、仕事だけはきちんとやってくれたまえよ。」


 そんな低い低い声に軽く返事をして、けれどマーティンさんには力いっぱいお礼をして、午後の仕事へ向かった。

 今日からやっと12番目の棚に手をかける。ここ、第三書庫にはおおよそ100以上の棚が並んでいる。それから丸い室内の壁にもそれに付属するようにして本棚がびっしりと並んでいる。それらを整理するというのは、何も雑巾や埃叩きで綺麗にすれば良いというものではない。棚にある書物の内容の把握、抜けているページや文字の発見、各ジャンルの書物数の確認、どこに何が収納されているのか、などなど、ここにある全てに対しての知識を得なければならないのだ。

 だからこの仕事をするときはいつも、新しく得る情報や知識を取りこぼさないように集中していた。そうして今日もまた、いつもと同じように仕事に対して真剣に取り組んでいた、ところ、どうやら熱を入れすぎたようだ。またしても、夕食の時間を忘れていた。またしても、というのは、これが初めてではないことを指す。この仕事を始めて1ヶ月経つけれど、いまだに熱中しすぎて周りが見えなくなるという癖はなくなっていない。


 「ああ、もう真っ暗だわ・・・。」


 どうしてこうなるまで気付かないんだろう、と少しばかり自分を責めて、今日の仕事を終えた。宿所に戻るときには仕事の終了をオスカー室長かマーティンさんに告げてからにしている。そうして報告が終わったあと、王宮を出ると少し肌寒くなってきた外気に気付き、早く宿所に帰りたいと、足を進ませた。


 「メラーズ殿・・・?」


 王宮から少しばかり出たところで、背の高い、体の大きな人と遭遇する。辺りが暗くて、なかなか顔を判別することが出来ない。が、その呼び方と、張りのある声でその人物がローランドさんであることを理解する。


 「ローランドさん、こんばんは。」

 「ああ。こんな遅くに、何か用が?」

 「仕事が終わって、宿所に戻るところなんです。」

 「いつもこんなに遅くまで仕事を?」

 「いえ、ごく偶に。没頭してしまうと、どうも時間の感覚を忘れてしまって。」


 そう言うと、変わった人だ、と、ローランドさんは少し笑ったように、見えた。暗くてよく分からなかったけれど。次いで、彼は見回りの最中なのだと言った。敷地内に不審人物や動物が紛れてしまうのを防ぐためだそうだ。そのついでとして、彼は宿所まで送ってくれると申し出てくれた。とても申し訳なかったのだが、わたしにはこれがチャンスのように思えてしまった。マーティンさんが言っていたように、ローランドさんから情報を聞きだすのだ。


 「そうそう。ローランドさんに聞きたいことがあったんです。」

 「俺に?」

 「はい。かなり失礼かもしれませんが、ローランドさんは今、ご結婚されていますか?もし違うのならば、彼女はいらっしゃいますか?ええと、それから、決まった人はいなくっても、好きな人とか、どうでしょう?あとは、ええと・・・好きな女性の好みとかも教えていただけたら、」

 「待て。あまり多すぎても答えられない。・・・そうだな、俺は今独身だ。恋人はいないし、今想い人がいるわけでもない。女性の好みについては考えたことはないな・・・」


 そこまで聞いて、わたしたちは宿所へと辿りついた。さすがにこれ以上ローランドさんの職務を邪魔してしまうわけにもいかないので、素直に別れを告げる。お礼を言うことも忘れない。

 肝心の好みについては聞けなかったけれど、ローランドさんの状況だけを見れば、今マーガレットにとっては絶好のチャンスということではないだろうか。その事実を早くマーガレットに伝えたくて、食堂へと急いだ。


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