00話 彼女の仕事
アリシア・メラーズは、ミッドチェザリア国の中央都市セイルアークにある、ごく一般家庭に生まれた娘であった。年はもうすぐ17になる程で、どこかへ嫁ぐ宛がなければ、高等部卒業と共に職を見つけなければならなかった。しかしながら卒業まであと1ヶ月を過ぎても、彼女の働き先は未だ決定していなかった。それはなぜか。彼女には、働き先として2択しか与えられていなかったからだ。
「やっぱりあのとき風邪をおしてでも面接に行けば良かったんだわ。」
「あら、あなたあのとき熱が高くて歩けもしなかったのに、どうやって話すつもりだったの?」
「行けば何とかなったかもしれなかったでしょ、お母さん。」
「それでも、今更言っても遅いでしょう。さっさと決めておしまいなさい。」
そうは言っても、決められない。
アリシアは、父と同じように国家管理局で働きたかった。文字を読んだり書いたり、そういったことが大好きだったから、きっと事務員としてなら能力も発揮できると思っていた。幼い頃から父に異国の文字やこの国の文字の古代版などを習ってきた。いつかその知識を使って、人のために仕事ができるのだと思っていた。けれど、事務の仕事を得るための試験や面接の重なった1週間、彼女は見事に重度の風邪の症状に見舞われていたのだ。
ふらふらする頭と、定まらない視界、そして自分では3秒たりとも立っていられない足、それをもってしても何とか会場へ行こうとしたが、部屋から出る前にアリシアは意識を失っていた。そうして目が覚めたのはそれから3日後。ふらつく足で部屋から出られたのはそれからまた4日後のことだった。そうしてアリシアは、これからの人生を決めるといっても過言ではない大切な1週間を、見事に失ってしまったのであった。
「だけれど、2つしか候補がないのよ?」
「2つとも他の人からしたら喉から手が出るほど欲しいと思うような仕事場よ?」
「でも、わたしのしたい仕事ではないもの。」
「そう言っていては何の仕事もできないわよ?それとも、誰か他の人を見つけて結婚でもするのかしら?」
「・・・・・・ちゃんと働くわよ。」
アリシアに与えられた2つの選択肢。それは、王宮に書庫整理係、または軍の食事配給係であった。ふたつとも働きに出る場所さえ聞けばそれはそれは素晴らしい仕事のように思える。それでも、書庫整理係、食事配給係というのは限りなくアリシアのやりたいことからは遠くかけ離れ、この国の一般的な考えとしては2つとも中級、または下級の仕事とされていた。それにこの仕事がアリシアの元へ来た理由は、アリシア本人には無かった。父が国家管理局という、国家機関で働いているからだ。つまり、コネなのだ。国家機関で働くものにもし子どもがいるのならば、条件なく国の一部の機関で働くことが出来る。しかしながらそれは、実力の問われない仕事、つまり結果を求められない仕事ばかりなのだ。
「アリシア、お前は本や書き物が好きだろう?とりあえず、王宮の書庫で働いてみたらどうだ?きちんと努力して知識を得て、高い夢を掲げてきたお前にとっては退屈な仕事かもしれんが、そんな退屈な仕事でも誰かがやらなければならないんだぞ。」
「そうよアリシア。そして風邪を引いたのも、誰のせいでもなく、あなた自身の問題だわ。いい加減駄々をこねるのはやめなさい。試験も面接もないのに仕事をもらえるだけあなたは幸運なのよ?」
父と母に諭すように言われても、アリシアは気乗りしなかった。自分が悪いというのは百も承知だった。だからこそ悔しくてたまらない。こんなはずじゃあなかったのだ。それでも過去には戻れない。自分のやりたいことじゃなくても、選ばなければならないことはある。
「うん・・・そう、そうね。やってみるわ、わたし。そこで仕事を評価してもらって、いつかは事務の仕事をもらえるように、頑張ればいいのよね?」
そう自分にも言い聞かせれば、父と母はようやく笑ってくれた。
始めてしまいました、このお話。コメディ要素があまりありませんが、楽しんでいただけるように書き進めていこうと思います。
登場人物や、国や地名などは全て実在のものとは関係ありません。むしろ国や地域はわたしが勝手に作った名前です。
どういった方向になり、結末を迎えるか、まだわたしもぼんやりとしています。この小説を書きながら、わたしも成長出来るよう頑張ります。