プロローグ 戦後二百年の、木の下で
フォーリィ世界大戦……今から約二百年前に勃発した、五大国による世界的な戦争の事を指す。
五〇年に渡り続いた大戦は、建築学や造船技術、剣術・狙撃技能や魔術の反転作用等といった、実に有りとあらゆる知恵を向上、発達させていった。しかしその反面、五〇年という長き月日は人を、動物を、土地を着実に蝕んでいった……深刻な食料危機が訪れたのである。
魔術国家エンフェナ、月夜の国須乃、鋼鉄の聖地ガリーマルー、水の都エナメント、そして学園都市プルートの代表者は誰が示し合わせる訳でもなく同時期に停戦を申し出、戦時一切の干渉をしなかった律の帝国ヴァミルに集結、直ちに終戦へと話は流れたのであった。
だが、終戦になっても大戦の爪痕は広く深く、とても一カ国で独立し続ける余力はどの国にも無い。このまま衰退の一途を辿るのかと人々は絶望に喘いだ。
「六国間で手を取り合おうじゃないか」
三代目ヴァミル帝国皇帝ラダマスカス=グリム=フルイツが提案したのである。
終戦直後、勝国の無い戦争でのその提案は簡単なものではなく、新たな波乱を生むかに思われたのだが、提案には五大国を納得させる続きがあったのだ。
*
『ねぇーー、戦うのは好き?』
「別に好きじゃネェよ」
『ふーん、じゃあ何でーーは剣をしているの?』
「好きだから」
『なら好きなんじゃない』
「剣=戦いって訳じゃないだろ」
『変なの』
「変なのはお前の単純すぎる思考回路だ」
『ぶ~。……あ、じゃあさもし、その……何だろ、愛? で合ってるよね。愛する人と戦うことになったら、戦う?』
「戦う必要が有れば戦う」
『え、もう少し考えようよ、大好きな人なんだよ?』
「戦う必要があるのなら戦うだろ? 何言ってんだか」
『……サイッテー』
ーーペチョ。
一本の、樹齢数百年は有るであろう大樹。幾重にも木と木が絡み合って立っているそれは、周囲の木とは比べ物にならない圧倒的な存在感を放っており、見る者全てに神々しさを感じさせる程に立派な佇まいをしている。
そんな木の下、枝葉の隙間から溢れる日の温もりを堪能しながら幸せそうに昼寝をしていた一七、八に見える少年が頬に突然の異物感を覚え、ゆっくりと体を起こした。少年の寝ぼけた脳はその異物感により一気に覚醒していく。頬を伝うドロッとした湿り気、木の下、最高の天気。一瞬で状況を把握した少年は一言、
「サイッテー」
と、呟いた。
アットノベルスで試し書き有り。