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第二章 第二話 戦闘戦闘、戦闘

「生意気な餓鬼だったよ」

 鬱蒼と伸びる木々はどれも同じような針葉をして歩く者の方向感覚を鈍らせ、無いに等しい畦道は背の高い草に覆われており歩く者の足を絡め取ろうとしてくる、そんな霧深い山中をクラド達は歩く。

 周囲には押し殺された魔物や動物の気配が漂っているものの、五〇を超える騎士達に挑もうとはせず、ただただその行進を見過ごすばかりである。

「私はヴァーメイルとの義半戦闘に際した事がほとんど無いので、話を聞く限りではクラド隊長が懸念する人物に思えないのですが」

 登り気味の山道を鎧姿で歩くのは大変困難であり、自ずと歩調は遅いものとなっていく。そうするとどうしても緊張は緩んで人々は会話を始めるもので、朱雀とクラドもそれ然り過去の義半戦闘の話をしている。

「朱雀は義半戦闘が有った時に限って偶然有給を取ってたからな、最初の内は狙ってるのかと思ってたが」

「そんな先見の才が有るなら指導者にでもなってます」

「ぷっ、朱雀が指導者ねぇ」

 隣に並んで歩く朱雀の霧でぼやけた顔を見てクスクスと笑うクラドに「失礼な」と朱雀は不満そうに頬を膨らませて反抗した。

 お互いの顔さえはっきりとは見えない深い霧の中でも彼等がもたつきながらも迷いなく歩けているのは、最初から場所を把握して先行するラバレルが居るからであった。動きやすいワンピース姿の彼女はずっと無言のまま、他の者の為に一旦足を止めるなどをして山道を突き進んでいく。

「すまんすまん、他意は有るが悪気は無い。で、話は戻るがその餓鬼とは二、三回……あぁ、今思うと独立との義半戦闘は四回しかしてないからほとんどアイツが居たな。まぁそいつと戦ったことは有るんだが、っと」

 クラドは霧で隠れていた大きめの石粒に引っ掛かりそうになったが、すぐさま姿勢を持ち直して後方に歩く隊員に注意を呼びかける。

「強かったんですか?」

「んー、ズバ抜けてって程は強く無い。だけど技術は有ったな……誰かに弟子入りしているんだろうなぁっていう剣筋だったよ」

「強くは無いのに、何故覚えてるんですか? 何回か会ったから、という訳じゃ無いですよね」

「そうだなぁ」

 朱雀の言葉に、一旦間を置いて首を捻るクラド。

『俺は、お前達の正義とやらが腐って見えるんだよ』

 彼の脳裏に少年の言い放った言葉がフラッシュバックし、結果的に彼の舌打ちを招いた。

「生意気だったからか?」

「私に聞かれても……あ、霧、晴れてきましたね」

「ん」

 朱雀の言葉を聞き、ようやくクラドは先程まで濃厚に世界を支配していた霧が歩を進める度に薄くなっていくことに気付いた。

「バリ山の頂上はもうすぐです、山での戦闘は非常に難しく、独立軍の先着も視野に入れなければいけないので気を引き締めて下さい」

 足を止めて振り向いたラバレルが騎士達に向かって忠告をした。いよいよか、と騎士達は自身の装備を軽く触れてみたり、鎧の着崩れを直したりと戦闘の準備をし始めた。

 クラドと朱雀も逆らう必要も無いので会話を止め、ラバレルの忠告通りに表情を険しくしていく。

 無言、静寂、山鳥の鳴き声と再び歩み始めた五〇を超える足音だけが山に響き続ける事、数分。

 登りだった傾斜は終わり、平坦な土地に出たのと同時に、全員の目が目的地を捉えた。

「どうやら、独立はまだ到着していないようだな」

「そうみたいですね」

 クラドの言葉を聞き、辺りを見渡した朱雀は頷いた。

 切り開かれた平地には、山道に生えていた物と同様の草が生い茂っているが、木々は一切立っておらず、ポツポツと根本から伐採された低い切り株があるだけでとても人が身を隠せそうな場所は無い。

 唯一、人が隠れれそうな所は前方にある村にしては大きく街にしては小さい、平地を余す事無く横切っている――恐らく中に人では人が住んでいるであろう――歴史を感じさせる荘厳な木の門壁だけだ。

 騎士達はゆっくりと周囲に警戒の目を張りながらその門へと近付いていく。

 遂に門前に辿り着いた時には、全員の頭の中から待ち伏せという単語は消し去られていた。

 先頭に立つラバレルは、その門に取り付けられた金属製の小さな円盤に、地面に捨てられるように置かれていた腕の長さ程の鉄の棒を数回叩き付けた。

 暫くの沈黙、彼女達は私語を極力慎みながら中からの応答を待っていると、ギィィィ、という重苦しい音と共に門扉が徐々に開いていく。

 だが、開いたのは右側だけで、それも人が通れるか通れないかという僅かな隙間だった。

「帝国騎士団の面々と御見受けしまんが、何ん用だせ?」

 その隙間から、酷く訛りの強い年配の女性の声が届く。声は割と近くからするのだが、隙間からだと姿までは見えず、そこから傾きが急な特徴的な瓦屋根に古風な家々が見えるが、やはり一切の人の姿は捉える事は出来ない。

「お久しぶりです、シェイフさん」

「やっぱぁ、ん主が来よったかラバレル。だんが、主が来ても渡せんもんは渡せんなぁ」

 ラバレルの声を聞き、少しだけ嬉しそうに声を弾ませる女性であったが、やはり対応は変わらず拒否の姿勢である。

「元々は私が作ったものですよ?」

「主が作ったもんでも、所詮主は半分。もう半分が許さん限りワダジ等はこれを守るよって」

「そうですか、それなら仕方有りません……とは出来ないのですが」

「んなもん知らん。他国の援助も受けてないワダジ等に命令するのは廉違いじゃぎ」

 頑なに渡すことを拒否する女性、何の争いも無く事を進めたいと考えているらしい

ラバレルは説得を続けるも、解決の糸口は見つからない。

「ちょっと代わってくれ」

 一駒として進まない交渉に痺れを切らしたクラドがラバレルの肩を脇に避け、隙間の前に立つ。

「こんにちは、ラバレル隊長と同伴している十番隊隊長のクラド=チビィと言います」

「こんりゃ親切に。ワダジはシェイフ=ドドと言いまん」

「ドドさん、 〝空〟 の危険性はご存じですか?」

「そんらうちに奉られたものだけ、効果くらいは知っとって」

「では話が早い、それが蛮族の手に渡っては世界の混乱を招きます。早々にこちらに引き渡してくれますか」

 頼み、というよりはほぼ命令に近い強い口調でクラドは隙間に言葉を差し込む。

「出来ん、例えワダジ等が殺されっとしてもこれは渡せんと。どんせ何処いっても争いごとに使うのがやまじゃて」

「そんな事にはなりませんよ」

「なら、もん一人連れてくるもんが居るじゃろ」

 一向に進展しない話、クラドはとある言葉を口にした。

 それが、敷き詰められた油に落ちる火種になるとも思わずに。

「そうですか、少々手荒な方法に移るしか無さそうですね。もちろん、貴方達の安全は保障しますが」

「頼んどいて正解だったきぃ」

 門が、勢い良く轟音を山に響かせて閉じた。

 そして、クラド達の後方にて叫び声が上がる。

「んな!?」

 急いで後方へと振り向く騎士達、しかし反応の合間にも二人、三人の悲鳴が山に木霊した。

「やっぱ、帝国が掲げる正義ってのは腐って見えて仕方ないな」

「メイト中尉、別に帝国を庇うつもりじゃありませんが正しい事は一つじゃ無いです」

 突如、後方から現れた黒い影が騎士団の者を次々と斬り付け、早々と撃ち倒していく。

「独立軍だと……? 一体何処から! くそっ、総員戦闘態勢に移れ! 一箇所に固まるな!」

 完全に不意を突かれたクラド達は急いで平地に散らばり、武器を手に取る。

「ぶひゃひゃひゃひゃ、流石わっちの弟子! なかなか良い事言うのぉ」

 ぼさぼさの白髪の風に靡かせながら下卑た笑い声をあげるラソキララが、拳を振り上げ、振り下ろす。

 それだけの事で、地震のような揺れが起こり、それだけのはずが、天を貫く勢いの火柱がそこに生まれた。

「意味ねぇ行動すんじゃねぇよ!」

「いやぁ、何か盛り上がると思ってのぉ」

 結果的には誰も巻き込まなかった火柱だったが、危うく当たって軍服を焼かれる所だったメイトが剣先をラソキララに向けて怒声を上げるも、彼女は楽しそうにケラケラと笑うのみ。

「相手はたった三人だ、怯まずに迎え撃て!」

 クラドは声を荒げて騎士達の畏怖を取り払う。

「世界を駆け抜ける汝、その御身を万物切り裂く鎌と化せ……残念、四人ですよ? シックルブレス」

 丁度クラド達が登って来たばかりの木々生い茂る、平地の入り口に立つイオスの放った風の魔法が、騎士達の堅牢な鎧に傷を付け、露出した肌を斬り付ける。

 ――まさか、奴等ずっとあそこで隠れてたというのか?

「ふざけるなぁぁぁぁぁ!」

 クラドは顔に血管を浮き上がらせ、武器を何も持たずにイオスへ向かって駆ける。

「おっと、うちの大切な魔術師様には手を出させないぞ?」

 進行方向に横合いから滑り込んできたメイトの剣戟がクラドを襲う。

「またお前か、ストーカーなのか?」

 耳障りの良い軽い金属音を響かせて剣戟を右手の手甲で受けたクラドはメイトを煽る。

 どうやら普通の鉄等では無いらしく、重い一撃を喰らっても亀裂すら入らない。

「あぁ? それはそっちだろ、っと!」

 連続で剣を振るい立てるメイトの攻撃を手甲でいなし、クラドが顔面に向かって拳を放つも、今度は剣でガードされる。火花散る攻防、それを見てようやく騎士達は体勢を持ち直して乱戦を形成していく。

「撃つ敵が多くて楽です」

 コリーは騎士達の足を狙って鉛の弾を撃ち込んでいく。騎士の中に紛れる銃士もコリー相手に応戦しようとするも、そんなに足場が広くない場所での五十を超える人間の乱戦、それも殆ど味方とあっては安易に発砲する事は出来ない。

 再び轟音が周囲に轟き、今度は純粋な砂煙を巻き上げるだけであったが飛んできた岩石の嵐に巻き込まれた幾人かの騎士が意識を失って倒れていく。

 そんな爆心地に、煌めく一筋の稲妻が落ちた。

「十番隊の皆さん、彼女は私が相手をしますので雑兵を任せます」

 ラバレルが人差し指を蒼天に突き出して言うなり、三本、五本、十本と空中の中間から発生した稲妻がラバレルに落ちる。

 その眩い閃光は戦場で戦う者の気を少なからず引き、それはメイトも同様であった。

「何回も僕と対峙してるのに、まだ力の差が分からないようだな」

「しまっ!」

 一瞬だけ出来た攻防の停滞、集中を全く切らさなかったクラドの鉄拳が白刃の防御をすり抜け、メイトの腹部を深く深く抉る。

 クラドの言葉に気付いた時にはもう遅く、魔力で強化された重い一撃に逆らうことは叶わず、はるか後方へとメイトは吹き飛んだ。

「ハンドガンに何を手間取っているのですか! 近接士たちは皆魔法使いを狙って!」

「ちょっ、それは反則じゃ……!」

 いつの間にか肩から何百発分ものバレットベルトを提げ、手に重々しい全自動式ガトリング銃を抱え込む朱雀が銃士の邪魔となる騎士達を払いのけ、既に逃げの大勢を取るコリーに向かってそれを乱射する。

 ダダダダダダダダダッ、という重圧たる弾幕。

 砂は舞い、地面を着弾と同時に跳ね上がらせながらステップを踏みながら逃げるコリーへと迫る。

「我をも惑わす白き君、全てを包み込み感覚を弄べ……混成……世界を駆け抜ける汝、そのその御身を万物切り裂く鎌と化せ……D・シックルミスト!」

 ラバレルの魔術により一気に引っ繰り返りそうになった戦場へ、山の霧とは比べ物にならないほど濃厚な霧が発生した。イオスの魔法である。

「戦況は不利です! 各自一旦森へと引いてください!」

「奴等を追え! 全員三人組で森へ入れ!!」

 イオスの言葉を耳にしたクラドが迅速に指示を出す。

 霧で全く視界が無い平地の状態、飛び道具を持つ敵がいる以上固まっているよりは索敵している方が良いと判断したクラドの声に隊員達から引き締まった返事と、何発も何発も落ちる落雷が返ってきた。

 指示を出したクラドも走り、先程メイトを吹き飛ばした場所辺りを通るも彼の気配は無い。

 そして全員が森へ降りて行った頃、ようやく落ち続けていた雷は止んだ。

 視界の悪さを煩わしく思い、ラバレルは翼を左右に広げて地面を思い切り蹴り上げる。

 濃厚な霧のドームから白線を引き、瞬間的に空へと飛翔するラバレルは上空五十メートルあたりで停止した。

「相変わらず、強度だけは良いようですね。私」

 ラバレルは翼を羽ばたかせて空気を捉えながら、眼下の白へ色の無い声を落とす。

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