プロローグ 正義の騎士団
「悪しきは滅し、怪しきは斬り、ただ純粋たる善のみを残せ……か」
銀色の軽装の鎧を身に纏う青年は、曇天の空を仰ぎながら言った。
長い明金の前髪は黒のヘアピンで上に留められており、金の瞳は無機質な光を宿している。
「どうかしましたか、クラド隊長」
「いや」
何かに座っているクラドと呼ばれた青年の隣に立っていた、明らかに青年より年上の鎧姿の男が訪ねる。
その男、いや周りの数十人に渡る騎士達に比べると、青年の鎧の薄さが際立つ。
肩から胸回り、手甲、腰回り、膝から爪先を守る厚さ一センチ程のプレート、余す所は鎖を編み込んだ黒アンダー……、鎧として機能するか実に微妙な防御性能の軽鎧である。
「朱雀はどうした」
「副隊長は現在、隊員五名を連れて残党を殲滅しています!」
クラドと呼ばれた青年の問いに、別の男が応えた。
「そうか、じゃあ僕達も行こう。人数は多い方が犠牲が出なくて済む」
クラドは立ち上がり、周りの者にそう告げた。
バキャ、という西瓜を叩き割ったような嫌な音がクラドを取り巻く騎士達の耳に響いた。
クラドのレギンス(膝当て)に、大量に吹き出した赤が飛沫する。だが、何を踏んだのか、クラドは確かめようともせず歩き始めた。
『はい!』
十数名の騎士達が一斉に声を張って返答し、歩き始めた。中には若干だが女性の声もあったが、すぐに『バキャッグシュッグチャッ』という耳障りな歪音と行進の足音が他の音源を全てを掻き消し――
――騎士達が去った後に残ったのは、廃墟建ち並ぶ不毛の町に広がる、紅く染まる大地だけだった。
「――偽善無き純粋たる正義……、それが法というものだ」