過去アルバム~4枚目~
次の日も私はお見舞いに行った。
「大丈夫?」
「うん。明日にはコートに立てるよ」
「そっか・・・。良かった」
そんなこんなで優輝はバスケコートの上に復帰することとなった。
しかし―――――。
「あれぇ?瀬奈が来ない・・・・・・」
優輝はボールを地面にダムダムとつかせながら言った。
「風邪、移っちゃったのかな・・・・・」
優輝の呟く声が、夏風に揺られて消えていく・・・・・。
何分も何分も経っても、一向に瀬奈が来ることは無かった。
「まあ、いいや。明日にはまた来るよ・・・」
優輝はボールをボール入れに投げ込み、自分の家に戻った・・・・・。
でも、その次の日も、次の日も瀬奈は来ない。
「なんで・・・・・?」
優輝は呆気に取られ、持っていたボールを思わず落としてしまった。
「よし、こんなにも来ないってことは、きっと何かあるはず・・・」
優輝はそう勝手に決めつけ、瀬奈の家に走った。
ピーンポーン・・・。
「はい~」
李媛が玄関に出る。
「あら、優輝君!」
「瀬奈は・・・」
その声を聴いた瞬間李媛は声色を低くして話し出した。
「瀬奈・・・。ここ最近元気が無いのよね。体調を崩しているっていう訳でもなくて、
ずっと自分の部屋に閉じ篭ってるのよ。何のことで悩んでいるやら、検討もつかないけれど。
優輝君、あなたならその理由を聞きだせるんじゃない・・・?」
「・・・・・」
「上がってくれないかしら」
「・・・はい。失礼します」
優輝は大人しく部屋に上がる事になった。
「瀬奈?優輝君よ」
李媛が瀬奈の部屋と思わしきドアをあける。
中は窓から夕暮れの光が差し込む以外、何の明かりも付いていなかった。
弱々しくて頼りない、光。それはまるで今の瀬奈のようだった。
「瀬奈・・・。おい、瀬奈?」
「・・・お母さん?」
「・・・・・」
優輝はあえて何も言わなかった。勘が「何も言うな」と言っているような気がしたから。
「私ね・・・。好きな人ができたみたいなの。初めてのことで、なんか辛くなっちゃって・・・」
「誰?」
なるべくバレないように短い言葉で言うよう努めながら、優輝は返す。
「・・・・・優輝なの」
優輝はビックリした。まさか自分の名前が出てくるとは思わなかったからだ。
「優輝君?」
「そう、隣の優輝」
「・・・・・そう」
「優輝のことを考えるとね、体がフワフワするみたいで優輝のことばかり浮かんでくるの。
すごく胸が締め付けられるような感じで、とても苦しい・・・・・」
「それは・・・」
優輝はそれを言うのに、焦った。自分は自惚れていないか?あの言葉を言っていいのだろうか?
「『恋』だろ?」
「え・・・?」
やばい、『だろ』なんて言ったらバレてしまう!!内心バクバクしながら優輝は答えた。
言っていいのかは分からない。でも、言わなければ瀬奈はずっとそのことを知らずに
成長していく。
「恋、でしょう?」
「恋なの?お母さん」
「きっと」
「優輝」
いきなり瀬奈の声が優輝の心を捉えた。
「え?」
「さっき『だろ』って言ったよね?」
「聞こえてた・・・?」
「聞こえてた、じゃないわよっ!私に何を言わせるのっ?
これじゃ私、恥ずかしくて・・・・・」
最後のほうの声はだんだんと霞んでいくようだった。
「大丈夫、だよ。」
「なんて、言ったの?」
「俺もさ、瀬奈のこと、・・・気になってたからさ」
「・・・・・馬鹿」
「な、なんで馬鹿なのさ?!」
「馬鹿って言ったら馬鹿なの!!」
瀬奈は優輝を睨みつけてさらに付け加えた。
「・・・顔赤いけど?」
「そ、それは告白されるなんてそんな滅多にないだろ!瀬奈だって人のこと言えないだろ!」
「な、何よそれ?!顔が赤いってこと?」
「そうだよ」
「そんなこと、お母さんを装ってくる人に言われたくないわね!」
「でもこうするしかなかったんだよ」
「むぅ~・・・」
「でも、風邪引いてるわけではなかったんだ。・・・良かったけど」
「・・・うん」
「これからたくさん、遊ぼうな」
「うぅ~・・・」
瀬奈は恥ずかしさのあまりか布団を被ってしまった。
「瀬奈?!」
「恥ずかしいの~」
「(笑)」
「今、笑ったよね?!私、本気で恥ずかしいんだからっ!」
「ご、ごめん」
「あらぁ~」
ドアの外で盗み聞きしていた李媛はビックリしていた。
「これはこれは・・・。朱音さんにも教えてあげなきゃ・・・!!」
李媛はリビングの携帯を取りに走り出した。
「あ、あの・・・」
「あら、優輝君もう帰るの?」
「お母さん。なんか顔がニヤけてない?」
瀬奈は李媛に厳しいツッコミをする。李媛は気づかれていたのね、とばかりにその
表情を引っ込めた。
「そんなことないわよ。はい、昨日焼いたアップルパイ。余っちゃったから、頂いて」
「あ、ありがとうございます。頂きます」
「じゃあね」
瀬奈は玄関で靴を履く優輝に言葉を投げかけた。
「うん。また明日な」
「またね」
どうでしたか?




