再会
これで最終話となります。
事前告知もなく、いきなりで本当に申し訳ございません(汗)
瀬奈は店から出て、一人で荒い息を繰り返していた。
「なんで・・・っ!!」
どうして美紅に告げてしまったのだろうか。
それ以上におかしいのは、閉じ込めようとした想いをまた、花咲かせてしまった自分の心だ。
アイツを想うだけなんて。苦しいだけなのに。辛いだけなのに。
一回はやめようとしたのに。もう会えないって分かっていたから。
なのにそうしようとすればするほど、気持ちは溢れて、止められなくなるのだ。
「馬鹿だな・・・・」
瀬奈は自嘲する。
なんだか情けない。何年も前の恋に、今だ振り回されているだなんて。
今でも、あの笑顔を思い出すというのに?
夕暮れのバスケコートで練習したときの光景がありありと甦ってくるというのに?
そんな中途半端な気持ちで、これからの恋愛の選択が選べるわけ無いのに。
美紅がなんだか羨ましかった。彼氏に不満があっても、いつでも幸せそうに笑っているから。
なのに私は、それすらもできないのに。アイツを想って笑ったって、泣き笑いになるに違いない。
今日はとりあえず帰るのだ。話は多分そこから。
バタン。家の玄関のドアを閉めると、母が出迎えてくれた。
「おかえりー」
「ただいま」
「あら、瀬奈ったら、顔腫れてない?」
何気なく子供のことに敏感なのは、昔から変わっていないな。
そう思いながら瀬奈は、
「なんとも無いけどー?」
と返事をした。母は「そう」と言ったきりで終わってしまった。
自分の部屋に戻ると、何とも言えない安堵感が瀬奈の身を包んだ。
小学生の頃から自分のことを全て理解してくれているのは、もはやこの部屋だけでしかない。
この部屋には、自分の笑顔や泣き顔がたくさん詰まっている。
これからもたくさん詰め込んでゆくだろう、いろいろなことを。
「これからも、よろしくね・・・」
瀬奈はポツリと呟いた。
何を思ったのか、瀬奈の頬には、涙が伝わっていた。
時は過ぎた―――――。
一年経ち、瀬奈は少しだけ背が高くなった高校2年生になっていた。今は暑い夏である。
新しい後輩もできて、毎日先輩、先輩と呼ばれながら、1年のときよりも忙しい日々を過ごしていた。
しかし、瀬奈は、精神的に成長したところもある。
1年前は、ずっと忘れられない人を偽るようにして忘れていたのが、今では、その存在をキッパリと認めている。
そんな彼女を見て、親友の美紅は思った。
(この子も、かなり変わったなぁー・・・)
実際、変わったのだ。会えないから、全くといって良いほど進展は無いが、恋愛系の話によく関心を示すようになっていた。美紅が苦しいときは、自分の身だったらどうかと必死に考え、答えを出してくれるのだ。
そんな瀬奈を、美紅はとても微笑ましく思っていた。
(明るいなら、それでいいのだけれど―――)
しかし、いつものようにして彼女の顔を見ている親友には、分かる。
今だに、瀬奈が『あの時』の事を思い出して、顔をゆがめているのを。
本人は気づいていないらしいが、美紅が彼氏の話を語るとき、必ず痛そうな顔をするのだ。
それを見て、美紅はなかなか言い出せなくなってしまう。また傷つけてしまのだろうか、と。
だから最近はそんな話を持ち出す事もしなくなった。全ては、親友のための配慮だったのである。
瀬奈のほうは、成長したようで、自分の心の中で気持ちがどう変化しているのかが分からない。
優輝のことは忘れていない。忘れたくなかった。
まだ好きでいたかった。自分の心がジワジワと締め付けられていくのを承知で。
私はもう、あの時のグダグダしたものではない。
辛くても、希望をもって歩かなきゃ。
しかし、そうは思っても、孤独に苛まれて泣く事も少なくはなかった。
優輝、会いたい、どこにいるの?
今、何をしてるのかな?
なぜ、住所を置いていってくれなかったの?
あなたはそんなに酷い人だったっけ?
遠距離が苦手だったから?
引越しすることによって、私のことを忘れようとした?
私の方は何年経っても忘れられそうにないのに?
今、彼女でもいるの?
私より、大切な人ができたのかな?
それならば、私は何にも言えないけど。
優輝が、あなたが幸せなら、私も嬉しいけれど。
でも。
私はどうなるの―――――?
他の子と優輝が一緒にいて、私が辛くないとでも?
向こうでも彼氏がいるって、そう思ってるの?
彼氏なんてできるわけないのに。
優輝のことを忘れられないで、いったいどうしろってのよ―――?
そんな自己満足にも似た思いが、瀬奈の体を貫いた。
泣いたけれど、どうしようもならない。
そんな事の繰り返しだった。
瀬奈の心は見た目は硬そうだったが、中身は驚くほど軟弱であった。
☆―☆―☆
キーンコーンカーンコーン・・・・・・。
学校が終わった。今日は珍しく部活が無い日だったので、帰りにどこかによって買い物をしようかなぁと瀬奈は考え事をしていた。いつもならば美紅が一緒なのだが、美紅は今日、あいにく彼氏さんとのデートらしい。
良かったねーと心の中で呟くものの、やっぱりちょっとだけ寂しかった。
電車に乗って、近くの駅で降りた。
相変わらず、駅にはサラリーマンやいろんな人間が歩いている。
一歩外に出れば、そこは都会である。
交差点の上でさまざまな人が出会い、またすれ違う。
瀬奈はどこへいこうかと迷い、迷いつつも足を踏み出した。
近くのデパートへでも行こうかな、と思い、目の前にある大きな交差点を渡ろうと思って待っていた。
どっちかっていうと、渋谷のスクランブル交差点、みたいな。
向こうにいる人々を眺めやる。オシャレな人もいるし、スーツ姿の人もいる。ウチの学校の制服を着た人もいたし、とにかく学生が多かった。
すると、瀬奈の目が、一瞬止まった。
彼女の目が大きく見開かれる。
あるひとつの思いが浮かんできたが、瀬奈はそれを打ち消した。
今、ここにいるわけないじゃん。瀬奈はしかし、その人物から目を離せなくなってしまった。
優輝に似た人物がいた。
6年の頃とは身長も見た目をだいぶ変わっている。しかし、瀬奈は、それが優輝であることを感じた。
黒のリュックには、バスケットボールをイメージしたキーホルダーがぶら下がっている。
優輝らしき人物の顔は、6年の頃の面影を残して、凛々しい顔に育っていた。
瀬奈に確信した。短い時間しか一緒にいられなかったが、その分優輝のことをたくさん覚えておこうと必死だったのだ。
瀬奈はこっちを見てくれないかと優輝のことを見続けた。
すると、ふいに優輝がこっちを向いた。視線が重なる。
優輝の口が小さく開いた。
そして、何かを問いかけた。
「瀬奈・・・・・?」
自分の名前が呼ばれた気がして、心臓がひっくり返る。
(今、呼ばれた?!)
まさかと思いつつ、
「優輝、なの?」
と口パクで伝える。
優輝は―――――。
コクンと小さく頷いた。
しかし、なぜ今ここにいるのか?という思いが瀬奈の頭の中を駆け巡った。
本来ならば、彼は北海道にいるはずだ。それなのに、何故、長崎にいるのだ?
でも、そんなこと、瀬奈にとってはどうでもよかった。向こうで信号が青に変わるのを待っている、
優輝がいてくれるだけで、瀬奈は幸せだった。
今までの苦しみが、全部消え去っていくように思われたのだ。
ここまでで約3分の時が経っている。
早く信号が変わって欲しい。そう瀬奈は思った。その思いは向こうの彼も同じだろう。
早く声が聞きたい。
早く会って抱きしめてほしい。
あの頃と変わらぬ優しさで。
あの頃と変わらぬ愛しさで・・・・・。
信号が青に変わった―――――。
瀬奈は駆け出した。優輝も肩からずれ落ちそうになるリュックを必死に押さえながら、瀬奈の方に向かって走ってきた。
お互いがお互いの姿を間近に認める。
人々が行きかっていく中で、二人は交差点の真ん中で立ち尽くした。
「ずっと、ずっと逢いたいと思ってた・・・。心の中で、ずっと優輝の事だけを・・・っっ」
「瀬奈・・・。瀬奈なのか?」
呆然としたように優輝が呟いた。
「私は瀬奈だよ!6年の頃・・・、覚えてるでしょ?」
瀬奈が優輝に向かって言ったその瞬間、優輝は瀬奈のことをかたく抱きしめていた。
「優輝・・・」
「ごめんな・・・・・。あの時、俺が瀬奈のこと置いていったの、覚えてる?」
「嫌というほどね」
「本当にごめんな・・・。何も残していかなくて・・・」
「・・・・・」
「俺のこと、怒ってるだろ?」
「ううん。もう怒ってない。今、逢えただけで怒りなんて消えてっちゃうよ」
優輝は瀬奈のことを抱きしめながら言った。
「俺、またこっちに来たんだ。だから、もうずっと離れない」
「・・・・・二度と離れたりしないで・・・・・」
優輝と瀬奈はお互いを見つめながら、笑った。
それだけで、二人が会えなかった時間が一気に埋まったかのように見える。
それから、二人は手を取って、交差点を渡って行った・・・・・。
今まで、この「短い期間でも、それを恋と呼ばせて」を読んでいただき、本当にありがとうございました!!!
作者のほうも、やっと終わることができて、とてもホッとしています。
でも、瀬奈と優輝が再会できて、良かったと思います。
会えなかったら、瀬奈はどん底に落ちていたでしょうし・・・。
本当に読者の皆様に感謝×∞です!!!
少しだけですが、番外編も書こうかなと思っていますので、今後とも、お見捨てなく!!
それでは、改めてですが、本当にありがとうございました!!(泣)
by姫ちゃん