初めての恋バナ
「え?!ちょ、ちょっと瀬奈ったら、どうしたの?!」
美紅はもの凄く驚いた。自分が泣かしてしまったのだろうかと慌てて考える。
しかし、瀬奈の様子を見る限り、そういうわけではないらしい。
なんだか一人の男のために泣いている―――――、そんな感じだ。
これまでたくさんの修羅場を経験してきた美紅には、そういう事に関してもの凄く鋭い。
切り込むように瀬奈に聞いた。
「ねぇ・・・。瀬奈はさ、恋をしたことが無いなんて言うけど、嘘だよね?
今のウチにはそう見えるよ。・・・まだ、その人の事を、想ってるんじゃないの?」
「・・・・・」
瀬奈は答えない。少し体が揺らいだような気はしたが。
「だったら、なんで封じ込めるの?今でも好きなんだったら、好きだって伝えればいいじゃない?」
この美紅の言葉が引き金になった。
「分かってるよ?・・・でも、アイツは電話番号も、住所も何もかも教えないまま遠くへ
言っちゃったんだよ?!なのに、どうやって好きだなんて言えるの?!そんな方法があるの?!
あったら、・・・・・」
マ、マズイと美紅は思った。これでは逆効果だ。
「ご、ごめん・・・。ウチ、瀬奈の恋愛関係とか聞いた事無かったから、勝手なこと言っちゃった
けど・・・・」
「ううん。いいの。・・・もう平気」
瀬奈も言いたい放題言ってしまった事に、頭を下げた。
「ごめん。今は私も、言いたいことがよく掴めてなくて。・・・でも、聞いてくれないかな?
私の・・・。恋バナ」
美紅は優しげに笑ってから、こう言った。
「恋愛相談なら、いつでも受けますよ」
「・・・私が6年生のときだった」
瀬奈は話し始めた。
「住んでたマンションの隣に、新しい入居者がきたの。名前は蘿蔔家だった」
「蘿蔔・・・。変わった名前だね」
「うん・・・。その家族は4人構成で、両親と、男の子が二人いたの。私が、
向こうの家の長男と、マンションの案内をしたいって言っちゃったから、設備の案内をしたんだけど」
「へぇ。興味あったの?」
瀬奈は頷きながら言った。
「まぁ、向こうの長男も乗り気でなかったにしろ、私についてきてくれた。ウチのマンションは設備が
いろいろあってね。それを紹介しに行ったんだ。そしたら、設備内にある、バスケットコートで
ボールをシュートしたんだ。いつも私もそこでバスケをやってたから、『バスケしてるの?』
って聞いたの。そしたら、初めて愉快そうに笑って、『そうだよ』って言ったの・・・」
「そういえば、今瀬奈ってバスケ部だよね」
「今思えば、その時の影響もあったのかなぁ・・・なんて思っちゃったりして」
「そっか」
「それで、『練習をしないか?』って言われたから、塾の無い日に優輝とバスケをしたの」
「名前、優輝っていうんだ」
「うん。優しいに、輝くっていう字。・・・アイツには、よく似合ってたな」
「ふうん」
「そっからは、話を飛ばして言うね。私は、優輝と練習を重ねていくうちに、優輝のことが
好きなんじゃないかって自覚しちゃったの。そしたら・・・、急に、練習に行けなくなっちゃって。
そしたら、心配したのか、優輝が家に来ちゃったの。最初は、お母さんかなぁって思って、
優輝への気持ちを洗いざらい話したの。そしたらそれが・・・。優輝だって気づいて。もう恥ずかしくて
死にそうだったんだよ」
「アハハハハっっ!!」
「笑わないでよっ!!でも、優輝と両思いになれてね、すごく嬉しかったの。
そしたら、その矢先に・・・。優輝の、転校が決まって・・・」
「あっちゃぁ・・・」
「それで、何かプレゼントができないかって考えて思いついたのが、花。
花言葉で私の気持ちを伝えられないかなぁって思ったの」
「そんで、花を、買えたのか?」
「うん。それで、優輝が行っちゃう日になった。優輝も花束を持ってて、お互い渡しあったんだけど、たくさん言いたいことがあるのに、言えなくて、
それがもどかしくってさ・・・。そしたら、もう行く時間になったみたいで、蘿蔔家が車に乗ったのが
見えたの。最後、私に寂しそうな笑顔を見せた気がして・・・。それで、決心したの。
車を追って、なんとか車が止まってくれて、中から優輝が出てきて・・・。」
「良かったじゃん」
「うん。それで、お互い花言葉を言い合ったの。優輝といられる、最後の時間だってことが、
痛いほど分かってたの。それで、優輝も言って、最後にキスをして・・・」
「でも、優輝は私に何も残して行かなかった。何も!それで、私と優輝の連絡は、途絶えた」
「・・・・・辛かったでしょ」
「辛いよ?最初の頃は凄く辛かった、ただ、優輝への疑問で一杯だった。でも、それが、
年月が経つにつれて、慣れてきたの・・・。ああ、いい思い出だったのかなって、そう思える
ようになった。でも、・・・。突然来るものなんだね。閉じ込めてた想いが、一気に溢れてさ。
やっぱり私は、まだ好きなんじゃない・・・って思っちゃった。あんなに月日が経っているのに」
「四年ぐらい?」
「そう、四年」
「変わらない愛だね」
瀬奈は面白そうに笑って、こう言った。
「でも、もう会えないのは、確実だから。なのに、まだこんなに執着してるなんて、ただの馬鹿だよ」
「そんなわけないよ!!」
美紅は否定した。どうにかして、親友を慰めてあげたい。その気持ちが伝わったのか、瀬奈はゆっくり
笑った。
「ありがとう・・・。美紅。私に新しい彼氏ができたら、一番に報告するね」
「・・・・・瀬奈」
「今日は、もう帰るね。バイバイ」
「・・・・・」
美紅は唖然として、悲しそうに歩く瀬奈の後ろ姿を見守ってあげる事しか、できなかった。
どもです!なんか話がもの凄い方向に変わってしまいました。
お詫び申し上げます。