閉じ込めた想い
「瀬奈~!!今日の帰りどっか寄ってかない?」
「いいよ!!どこ行く?」
瀬奈は親友の美紅と一緒に放課後遊びに行く事にした。
―――――今は瀬奈は高1である。
つまりあの日からゆうに4年ほど経っていることになる。
そこそこいい高校に入学し、今はとても楽しいスクールライフを送っている。
しかし、昔から瀬奈の心を縛っているものがあった。
美紅と駅前の喫茶店に入り、好きなものを買って席に着いた。
ここは美紅のご贔屓らしく、何か話をするときは必ずここ、と言っていいほど大切な
場所である。
「はぁ~。やっぱりこのカプチーノに限るわ・・・」
美紅がホッ、と溜め息をついた。
瀬奈もカフェオレを一口のみ、「おいしい」と言った。
テーブルの真ん中にある買ったクッキーを食べながら、美紅は愚痴をこぼした。
「全くあの男ときたら・・・・・」
「また何かあったの?」
「あったも何もさぁ!!聞いてよ、瀬奈!!」
「わ、分かったよ、聞くから!!・・・それで、どうしたの?」
「あいつね・・・。ウチが見てるの分かってて、他の女にキスするの・・・」
「えぇぇぇぇぇ?!」
美紅の彼氏は学校一のイケメンであるが、それを鼻に引っ掛けて毎日他の女と遊んでいる有様だ。
正直、美紅もウンザリしているし、瀬奈も「あんな最低男!!」と思っている。
彼女が目の前にいるから、声には出さないが。
「もう別れちゃいなよ!!あんな人!美紅にはもっといい人がいるのに・・・」
「・・・そうだと思いたいけど・・・。でも・・・。ウチの一番はやっぱりあいつなの・・・」
美紅はうな垂れた。瀬奈も苦い気持ちでそれを見守っていた。
「好きなんだよ・・・。あいつのことが・・・」
(そうだよ、私だってあいつと離れたくはなかった!!)
ふいに心の中に浮かぶ情景。日暮れのバスケコート、そこで1on1をしていた幼き二人・・・・。
瀬奈は首を振った。いくら『それ』を思い出したからってあの頃に戻れるわけもない。
きっと二度と会えないのだから―――。
「瀬奈?ちょっと、瀬奈ってば?」
ハッ、と瀬奈は自分の思いから抜け出した。
「ご・・・ごめん。それで?」
「いいよ。大丈夫・・・。それよりさっ、瀬奈は好きな人いないの?」
「・・・いないよ」
「え!つまんないの!瀬奈っていつもそれなんだからぁ!」
「えへへ・・・」
(あいつはもう私のことなんか忘れていいるのに・・・。なのに私だけ、こんな辛い思い
しなきゃいけないの?そんなの嫌だ・・・。そんなの・・・。好きなんかじゃない・・・)
「ねぇっ!じゃぁ初恋は?どーなの?」
美紅にそう聞かれた瞬間、瀬奈は電光石火の如く答えていた。
「私、恋をしたことはないの」
「え・・・。嘘でしょ?」
美紅がポカンとなる。
(あんな事、一瞬の事だったんだから・・・。引きずってるなんてことは、もうない・・・)
分かっているのに。分かっていたのに。
なんであいつの名前がふいに浮かぶの―――――?
そう思うと、心がふいに苦しくなった。
花言葉で伝えた言葉。伝えられた言葉。今なお、覚えているのは何故?
『私を許して』―――。そして『私を忘れないで』―――。
あいつの事は忘れたつもりでいたのに。許してもいるのに。向こうは、私を覚えていてくれているだろうか・・・・。
覚えてくれなくてもいい。ただ、あいつの思い出にそう残ってくれればそれでいいのに。
辛い。辛かった。今にもなって想っているのは、ただ情けないという心情ばかりだった。
でも、好きなんだ、きっと、あいつの事が。忘れられないんだ。私があいつを縛ってるんだ
・・・!!!
(優輝・・・・・。逢いたいよ・・・。)
ああ。分かっていたつもりなのに。閉じ込めようとしたのに。
(優輝・・・。会いたい。逢いたい・・・っっ!!)
今まで友達に何を聞かれても平然と答えていられたのに。何故、今になって?
なんで、今なの?
ねぇ、優輝。今もその笑顔を思い出すだけで、胸が痛いくらい好きだよ―――――。
今回は文が少なめでした。
第二部は、別れてからすぐの瀬奈を書こうかな~・・・とも思ったのですが、
今のほうが気持ちがより強くなっていいかな、と思ったので、月日が経った時を書かせていただきました。
完結して、「優輝を書いて!」という意見がありましたら、番外編で書こうと思います。
それでは、またお会いしましょう。