過去アルバム~9話目~
瞬く間に5日という短い期間は終わり、とうとう優輝が行ってしまう当日になった。
・・・・・朝。
日の光が目の中に差し込んでくるようで、眩しい。
瀬奈は目を覚ました。どうも悪い夢を見ていたようで落ち着かない。
「あ・・・・・」
瀬奈は弾かれるように目線をカレンダーのほうへ向けた。
来ないで欲しかったこの日。しかしいくら願っても願っても時を止められるものではないのだ。
「今日か・・・。優輝が行っちゃう日・・・・・」
そう言った瞬間目に涙が滲んだ。好きな人と離れてしまう日。
二度と会えなくなるかもしれない日。
「どうして、私達に酷い事するの・・・?」
その言葉は誰に向けられたものであろう。神なのか、人間なのか、何なのか。
「そんなの、嫌・・・・・」
涙が頬を伝った。
☆―☆―☆
その日――――。
優輝は目が冴えて、眠れなかった。眠れなかったというより、無理やり起きていた感じだ。
寝なければ、日は過ぎない。そう信じてずっと目を開けていたが、
日付は変わってしまったようだ。朝が来て、それが目に沁みた。
「寝られない、か。・・・瀬奈、ごめん・・・」
泣きそうになって、踏ん張る。
「離れる事になって、ごめん」
鼻がツンとして痛くなる。
「瀬奈を傷つける訳じゃない」
実際に瀬奈はすごく辛い思いをしてるじゃないか。心の中の自分が、そう告げた。
「それは自分も瀬奈も知ってる」
「でも」
「そうなの、嫌だ・・・」
優輝は歯止めが利かなくなって、布団に顔を埋めた。
・・・・・溢れてくる涙を、止められない―――――。
☆―☆―☆
「お母さん、おはよう・・・」
「まあ、瀬奈、起きるの遅いじゃない!!後二時間で優輝君行っちゃうのよ!」
「えっ!!」
どうやら、泣き疲れたらしい。そのまま寝てしまったのだろうか。
「やばい、やばい。早く、あれ、買って行かないと・・・」
急いで着替え、朝食を食べて、支度をする。
それでも一時間かかった。
「お母さん!ちょっと出かけるわ!!30分後には戻ってくるから!!」
「え、ちょっと、瀬奈?!」
瀬奈は財布を片手に、走り出した。
瀬奈が出かけている頃、蘿蔔家ではこんな会話が交わされていた。
「・・・・・ヤベエ!!」
優輝が大声を上げる。煩いとばかりに朱音が不満の声を出す。
「何、大きい声出して」
「ちょっと出かける!!15分内には戻ってくる!!」
「ちょっと、ちょっと、ちょっとーー?!」
☆―☆―☆
しばらくして―――。
李媛がドアを開けると、ハアハアと喘いでいる瀬奈が立っていた。
手には花束もある。
「な・・・何なの?!急に花束なんか!!それに時間無いわよ!」
「わ、分かった!ちょっと待って!!」
洗面所に行って、髪型を確認する。よし、大丈夫だ。
「行くわよ!!」
李媛が言った。
後ろからはお父さんも着いてくる。
3人そろってエレベータを降りる。心臓がバクバクと音を立てる。
近くの道路に出た。大きなトラックがあった。その近くには家族4人の姿が。
蘿蔔一家だ。
「あ!来てくれたのね!」
朱音が嬉しそうに言う。
「来るに決まってるでしょ。まったく、もう」
・・・・・あれ?優輝の手にも花束?おっかしいなぁ。
「・・・優輝!」
優輝が振り向いた。その隙に瀬奈は花束を優輝の腕に押し付けた。
「これ・・・・・、花束」
「俺からもあるんだけど」
優輝もこれまた強引に瀬奈の腕に花束を置く。
「「・・・ありがとう」」
二人の声が重なり、二人とも顔を赤に染めた。
それ以降、瀬奈と優輝はずっと黙っていた。
瀬奈は言いたかった事があるのだが、みんなのいる前では、恥ずかしくていえない。
これでは優輝に花束を渡した意味がない。
優輝も同様だった。ただ花束をあげるだけでは、つまらない。伝えたい事があるのに。
二人が言いたい事―――――花言葉。
「では、私達はこれで・・・」
そう言う朱音の声が遠くに聞こえた。
俯いていた顔を上げたとたん、優輝がトラックの中に乗り込む姿が見えた。
優輝が最後に瀬奈に向かって微笑を向けた気がした。
最後に朱音が一礼し、トラックに乗った。
車がブロロロロ・・・・と音を立てて瀬奈たちから遠ざかっていく。
―――もう言えない?もう会えない?
・・・・・このまま分かれるなんて絶対嫌!!!
そう思った途端、瀬奈は砂煙を上げる勢いでトラックのあとを追っていた。
☆―☆―☆
「お兄ちゃん。あれ」
窓際に座っていた弟が声をかける。
後ろを振り向くと、もの凄い勢いで瀬奈が駆けてくる。
「ちょっ、お父さん!車止めて、車!!」
キキーッと車が音を立てて停止した。
優輝が弟を押しのけて、ドアを開けて、瀬奈の下へ走っていった。
☆―☆―☆
優輝が車から降りたのを見て、瀬奈は安堵した。
―――良かった。その思いで一杯だった。
「瀬奈!!」
優輝が歩み寄ってくる。その体を、思いっきり、抱きしめた。
優輝も瀬奈を抱く力に力をこめた。
恋しくて、恋しくて、仕方無いのに―――――。
何故私達は離れてしまうの?
そう思いながら瀬奈は優輝に話し始めた。
「さっきの花束には、花言葉があるんだ。まず、シオンと、シラン・・・。
これは、『貴方を忘れない』っていう意味。後、勿忘草。これは、
『私を忘れないで』・・・・・。あと、オオデマリ。『約束を守って』・・・」
瀬奈の声はだんだん掠れていった。
優輝はその声をうんうんと頷きながら聞いていた。
「俺の花束にも花言葉がある。ホトトギスとシロツメグサで『永遠の約束』。
クローバー、『私を思い出して』。ブーゲンビリア、『貴方しか見えない』・・・。
それと最後。ディアスキア・・・。『私を許して』・・・」
瀬奈はもう、泣いていた。涙腺が思いっきり緩んでしまったのだ。
「私・・・。優輝のこと、責めたりなんかしないよ・・・」
「・・・・・」
「優輝は、悪くない」
「許してくれる?」
「許す以前に、責めたりしてないでしょ?」
「・・・そうだね」
「私は優輝のことずっと大好きだからね。だから、いつかまた会おう。ね?」
「・・・瀬奈のこと、ずっと考えてる」
「私より好きな子ができたら、相談して頂戴。乗るから」
「馬鹿なこと、言うのはやめろよ。俺は瀬奈以上に好きな奴なんて、作らない」
「そしたら、私が優輝のことを縛ってるのよ?そんなことしていいこと訳ない」
「いいんだ。ずっと縛ってくれ・・・。ずっと。会える日まで」
「会えたら、縛りは解けるの?だったら、いつでも優輝に会いに行くわ」
「やめてくれ。第一瀬奈にはそんな元気ないだろ」
「何おぅ!!北海道くらいへっちゃらに決まってる!!」
「・・・まあ」
優輝が話を変えた。
「俺はずっと、瀬奈のこと、好きだから。忘れない」
「うん。私もずっとよ、ずっと・・・。また会おうね!」
何か柔らかいものが唇に触れた。優輝の唇だ。
とろけそうなほど、熱くて、優しかった。
優輝はキスを終えたあと、瀬奈にバイバイと手を振って、トラックの中に乗り込んだ。
トラックが遠ざかる。今度こそ行ってしまった。それを、実感した。
これで第一部が終わりました。次からは優輝のいない日々を過ごす、瀬奈を
描いていきたいと思います。優輝も書いて欲しいという人は、感想でお申し付けください。書かせていただきます。
とりあえず、第一部、終了です。