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スティグマ  作者: 髪槍夜昼
一章、史上最弱の異能者
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第九話 黒い影


「えーと…あいつら何を飲むんだ?」


間人の話を少し聞いた後、手ぶらなのはマズイと衣がいい、飲み物を買いに、棺は病院の自販機までやって来ていた。


ちなみに、棺が一人でパシリ扱いされているのは、衣にじゃんけんで負けた為である。


「衣は明らかに子供だから味覚も子供だろ」


独り言をいいながら棺はオレンジジュースのボタンを押した。


「問題はあの車椅子だな…何飲むんだ?」


自販機を眺めながら棺は頭を捻る。


「意外とウケ狙いで変なのをやった方が喜ぶかもしれねえな…」


そういい、『ココナッツおしるこ』と言う怪しげな飲み物を凝視する棺。


よし、と一つ頷き、棺はボタンを押そうと…


「やめといた方がいいよ、それ、前に飲んだけど、凄いまずかったから」


突然、棺は横から声をかけられた。


棺の横には一人の男が立っていた。


その男は、上下黒っぽい服装をしていて、それよりも更に濃い黒髪、そして、棺とは対称的な濃い青色の瞳をしていた。


歳は顔は十代後半ぐらいに見えたが、その雰囲気はそれより上に棺は感じた。


「そうなのか?」


「うん、僕のオススメはコーヒーかな?」


手に持った缶コーヒーを見せて、黒髪の男は言う。


黒髪の男は、その他にも大量の缶コーヒーを手に持っていた。


「…自販機で一気にそんな買う奴、初めて見た」


「それがね、僕はカフェイン中毒ってやつでさ、コーヒー飲まないと落ち着かないんだよね」


黒髪の男は困ったような顔をした。


「ふーん…医者ならその辺にいるぜ?」


「いやいや、それほど酷い訳じゃないよ。僕は見舞いに来たんだ」


「見舞い?」


「こっちの話だよ。それより…」


じっとその青い瞳で棺を見つめる黒髪の男。


「君は、変わった目をしているね」


「…それをお前が言うか? オレが赤なら、お前は青だろうが」


「僕はただ、ハーフなだけだよ。赤髪や青い目は海外じゃいくらでもいるけど、赤い目ってのは、そうそういないよね」


人間と話をする為に見ている目では無く、棺と言う存在を観察するような目で黒髪の男は言う。


「…人を待たせてるんで、オレはもう行くぜ」


自分すら、よく知らない髪や目について触れられたくないのか、棺はそう言い、黒髪の男を置いて、立ち去った。


「あらら、行っちゃった…まあ、そこまで重要なことじゃないし、いいか」


そう呟き、黒髪の男は棺とは違う方向へ歩き出した。








軽根間人の病室では無い、最上階の隅の、滅多に人の来ない病室のベットに、一人の女が横になっていた。


歳は十代後半から二十代前半ぐらいで、可愛いというより綺麗なタイプだが、飴の包み紙みたいな色の可愛いらしいリボンで髪を結んでいることから、意外に少女趣味なのかもしれない。


しかし、その目には生気が無く、全てを台なしにしている。


「…はぁ、今日も何も起こらずに終わるのかしら」


リボンの女は溜め息をつきながら呟いた。


この世の全てに絶望したような声だった。


「……いよいよ、誰も見舞いに来なくなったわね…白状なものね。人間って言うのは…」


リボンの女はある病気を患っていて、筋肉が衰え、立つことは疎か、電話を取ることも出来なかった。


彼女は、両親は早くに他界したのだったが、それでも前向きに生き続け、両親の遺産で学校を卒業した後、就職をして友達も沢山作って、どちらかと言えば目立つ人間だった。


しかし、この病気を患った後は、会社も辞め、友達も何年も入院する内に見舞いに来なくなってしまった。


いつ治るのかは分かっていない。


急死することは無いと彼女は医者に言われたが、彼女にとっては、もはや、どうでもよかった。


ベットの上から動けない生活など、彼女にとっては死も同然だったのである。


その時、ガチャッと扉が開く音がした。


検診の時間はまだだ。


見舞いなんて珍しいなと思い、リボンの女は入り口を見る。


「やあ、こんにちは」


缶コーヒーを幾つも手に持った、黒髪に青い瞳の男だった。


「…誰かしら? 見舞いは嬉しいけど、ボクみたいな可愛い男の子、会った記憶が無いんだけど…」


リボンの女が頭を捻り、記憶を思い起こすが、覚えが無い。


「僕はこれでも、君より年上だよ」


「嘘! 若いわね、凄く羨ましいわ…」


心底驚いたようにリボンの女は言う。


「…コホン、さて、僕が誰で、君が誰かはとりあえず置いておくよ」


気を取り直すように咳を一つして、缶コーヒーを一つ開けて飲み始める。


「君は今、絶望している。世界の理不尽だとか人間の白状さだとか、その他諸々にね」


「そうね、絶望してるわ。いけないことかしら?」


「いや、絶望は必要だよ。この世に不必要な経験は一つも無い。何事も経験さ」


黒髪の男は、あっさりと絶望を肯定する。


「だけど、君には欠けているものが多い」


「それって、私が無能って意味かしら?」


リボンの女は怒った風では無く、普通な調子で聞き返した。


「そういう意味じゃない。少し話が変わるけど、僕は人間は皆、欠陥品だと思うんだよね。だから、欠けている部分を補う為に、様々な努力や経験をする。向上心ってやつかな?」


「………」


「不必要な物は何も無い、不幸も災難も悲劇も絶望も受け入れろ。そして、完成された完全な存在に近づくんだ」


そういうと、黒髪の男はリボンの女の手を取った。


「君の『欠陥』を僕が『補って』あげよう」








「何だこりゃ」


黒髪の男とのやり取りの後に、自販機から戻ってきた棺は、間人の病室の扉を開いて思わず言った。


「クッキー焼いてきたよ!お医者さんと相談して、栄養のあるやつを」


「いや…」


「あ! それより先に飲み物だよね! ごめんなさい、気がつかなくて…」


「あの、だから…」


「分かったすぐに買って来るからね!」


病室の中では車椅子に乗った間人が困ったような顔をしていて、その周りにはバタバタと無駄に慌ただしくしているハイテンションの少女がいた。


衣は今日、初めて間人を見た時のようにぽかんとしている。


「…ん?」


その少女が棺を見た。


と思ったら、すぐに視線を衣に移した。


「あーーー! 間人が病室に女を連れ込んでたーーー! この浮気者ーーー!」


「いや、だから、たまには人の話を…」


「うわーん! 裏切られた! 君を守るとか言ったくせに裏切られたーーー!」


「人の恥ずかしい過去を暴露するんじゃない!」


「え、お前、そんな恥ずかしいこと言ったのか?」


「聞かなかったことにしてくれ!」


この混沌とした空気はしばらく続いた。








初和音実ハツワ ネミって言います。ちなみに間人の婚約者だよ!」


何とか思い込みが激しく、人の話を聞かない、暴走列車のような少女、初和音実が言う。


歳は棺達より少し下ぐらいに見え、笑顔が可愛いらしい少女だった。


「と申しておりますが」


棺が変な口調でちらりと間人を見る。


「………事実です」


「このロリコンが!」


「第一声がそれかい! って言うか違うわ!」


「中学生に手を出しておいて、何をしらばっくれてるんだ!」


「オレはまだ二十だ! 彼女は十五! 問題無し!」


「成人した大人が中学生に欲情を抱くんじゃねえ!」


「段々とオレの罪が重くなって来てるぞ!オレ達はプルトニウムなお付き合いをだね…」


「そんな危険な付き合いがあるか! それを言うなら、プラトニックだ!」


棺と間人の二人は大声で言い合う。


音実は、私の為に争わないでー…などと、また的外れなことを言っており、衣はまたしてもぽかんと口を開けていた。


(…話が進まない)


衣がふと思った。

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