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スティグマ  作者: 髪槍夜昼
六章、赤と青
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第七十一話 悪魔


「さあ、ここが僕達『悪魔の証明』のわが家だよ」


自慢の家を紹介するように黒ずくめの青い瞳の少年、ベルフェゴールが言った。


「隙間の神にすら勝る秘密組織ってやつ? ワクワクして来ない、この響き」


機嫌良さそうにベルフェゴールは後ろにいる少女に笑みを向ける。


少女の方は困惑したようにベルフェゴールを見返すだけだった。


「いや、君が悪魔の証明の『嫉妬』を担当してくれて助かったよ。これでようやく欠番がなくなった」


「………」


未だに迷うような表情をする少女を元気付けるようにベルフェゴールは明るく振る舞う。


「本当に感謝しているよ。砂染木々(スナゾメ ココ)さん」


「………」


ベルフェゴールの言葉に、小柄で、西洋人形のような少女、砂染木々は俯いた。


ベルフェゴールについてきたことを未だに迷っているのだ。


あれは季苑の事件が終わった直後、見計らったかのように現れたベルフェゴールは木々に言ったのだ。


『僕の家族になるなら今より聖痕が強くなる』と…


まともに戦えず、無力感を感じていた木々には『悪魔の囁き』のような甘い言葉だった。


ベルフェゴール達は隙間の神以上の技術力を持つ研究機関に所属しており、その技術を使えば聖痕を強化することが出来る。


ベルフェゴールはそう木々へ語った。


兄の復讐を果たしたい。


鐘神季苑を倒したい。


そう考えていた木々には渡りに船だ。


『その才能に対する嫉妬を僕は理解してあげる』……心を読んだかのようなその言葉が決め手だった。


砂染木々は隙間の神を裏切ることを決意した。


「そんなに怖がらなくていいよ。僕らは家族だ。君のことは『レヴィアタン』と呼ぶけど、何も今までの名前を捨てろとは言わない。クラブに入るような緩ーい感じで…ね」


「………」


明るく接してくるベルフェゴールに害意がないことは分かる。


だが、悪魔の取引に応じてしまったかのような不安が無くなることはなかった。


「さて、聖痕を強化する実験のことだけど…聖痕が人間の中に蓄積されたエネルギーだってことは知ってるよね?」


「ええ」


「各々の表現で奇跡を起こす為のエネルギー。その量を増やすのが、これから行う『青い実験』だ…ああ、名前は非検体の目が青く変色することから名付けられたんだ」


聖痕の量を増やす強化する『青い実験』


ベルフェゴール達の瞳の色が共通して青いのは全員がその実験を受けたからなのだろう。


木々は思わずベルフェゴールの青い瞳を見た。


「聖痕のエネルギーを増やすには『ある人間』の遺伝子を体内に取り込まなければならない。奇跡の遺伝子とでも言うべきか…その影響で瞳は青く変色する」


「ある人間?」


首を傾げる木々にベルフェゴールは笑みを浮かべて、その名を言った。


「この機関『インテリジェント・デザイン』の創設者『アイマテンソ』だよ」








「アイマテンソ…この方が…そうなのですか?」


青い瞳の少女は目の前に在る『人物』を見て呟いた。


それは人間と定義して良いのかも曖昧なモノだった。


巨大なフラスコのような物の中に入った死人のように眠る老人。


身体のパーツも幾つか欠損しており、もはや人と言うよりは臓器や骨を纏めただけの標本だ。


「初代ソロモン…百年以上前から、この場所に存在する科学者だ」


くたびれた白衣を着た金髪の男、ソロモンはそのフラスコを見ながら言う。


その目には尊敬の念のようなものが宿っていた。


「彼を知って敬愛しない科学者はいないだろう。分かるか、シトリーよ。この狂った科学者ばかりのインテリジェント・デザインの全ての人間が認める天才なのだよ、彼は」


「はぁ…」


シトリーと呼ばれた少女はよく分かっていないのか、曖昧に頷いた。


「彼の功績は素晴らしい。彼の『アイマの血』による強化実験、聖遺物の創造…数え出したらキリがない」


ソロモンの目は少年のように輝いていた。


それだけ純粋に『彼』を尊敬しているのだろう。


「聖遺物の…創造?」


「そうだ。我々の真の目的は悪魔の創造ではない……『奇跡の創造』だ。この世の神秘を解き明かす第一歩と言うやつだ」


「…?」


興奮したようにソロモンは語るが、シトリーには殆ど理解出来なかった。


熱が入ったソロモンは首を傾げるシトリーには気付いていないようだ。


「おい、盟友。そこのお嬢さんは話についていけてないみたいだぞ」


熱弁するソロモンに冷やかな声がかけられた。


巨大な男だった。


二メートル近い身長を持つ大男でその巨体を包む赤いコートを着ている。


奇妙なイラストのアイマスクを被り、瞳を隠しており、髪は炎のように赤かった。


「マモンか…準備は出来たのか?」


「当然だ、盟友」


赤髪の男、マモンが腕を振って合図をすると、床の一部が『歪んだ』


まるで溶けた氷のように床としての形を失い、そこだけ沼のような状態になってしまった。


うっすらと赤く滲んで見えることが、その部分が違う物質へ変化してしまったことを表していた。


「何ですか…コレ…?」


シトリーはソレを見て、気分が悪くなった。


強烈な異物感。


理解出来ないが、アレは良くないモノだ。


「聖遺物を作ることがこの組織の目的だ…だが、聖遺物の一部を組み込み別の聖遺物を作るなど『混合物』を作ることは出来たがオリジナルを作ることは出来なかった」


困惑するシトリーを無視してソロモンは話を続ける。


初めから聞き手が聞いているかどうかなど、気にしていないかのように…


「聖遺物の…奇跡の宿った物質の『材料』が分からなかったのだ」


「材…料…?」


「………」


顔色の悪いシトリーが尋ねるが、ソロモンは答えなかった。


それまでの熱弁が嘘のように口を閉ざしていた。


「この研究機関の目的は、強い聖痕使いを作ることではない。それなのに、君のような『悪魔』を作っているのは何故だと思う?」


ソロモンの代わりにマモンが答えた。


目の前まで近付き、シトリーを指差す。


何故、このタイミングで、その質問を?


シトリーは首を傾げた。


そして、すぐにハッとしたように顔を青ざめた。


「ま、まさか…」


「賢い子は好きだよ」


トンッと指差していた指でマモンはシトリーを押す。


力の抜けていたシトリーはふらふらと背後へ倒れた。


『赤く滲んた床』へと…


「ヒ…アッ…!」


悲鳴を上げる間もなくシトリーは床へと沈んでいく。


底無し沼のように、憐れな獲物を床は飲み込む。


シトリーが完全に見えなくなってしまってから、マモンは黙るソロモンの方を向いた。


「聖遺物の材料は『人間の死』だ。遺物なんだから…考えてみれば当たり前じゃねえか! 気付かない奴が馬鹿なんだっての」


マモンは先程とは違い、粗暴な口調で言う。


こっちが素なのか、生き生きとしていた。


「所詮、奪われるだけの材料か。勿体ねえ、中々可愛い顔をしてたってのに……なあ、盟友」


「………」


「何だよ。何、黙ってるんだよ。まさか、後悔してるんじゃねえだろうな? オレに協力を頼んだのはお前の方だぜ?」


「…そんな訳ないだろう」


憮然とした顔で言うソロモンにマモンは笑った。


ソロモンの中の何かしらの葛藤を見抜いた上でそれを笑った。


「そうだよな。この世は、奪い奪われるだけの地獄。非情にならなきゃ奪われるだけだぜ」


シトリーの沈んだ床へマモンは手を突っ込んだ。


中を混ぜるように手を動かしながら目的の物を探す。


「…おっ、あった。成功みたいだぜ」


目的の物をマモンは取り出してソロモンに見せた。


それは赤い棘のようなモノだった。


「人造聖遺物…『レリック・レプリカ』の完成だ! いやぁ、芸術的だねえ」


陶酔するマモンは作品をよく見る為にアイマスクを外した…


仮面を外して現れたマモンの素顔は、赤い髪と赤い瞳をしていた。

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