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スティグマ  作者: 髪槍夜昼
五章、全面戦争
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第六十六話 集結


「そりゃああああー!」


叫びながら棺が聖痕を使い、瓦礫を投げ付ける。


「…ふん」


季苑はそれを一瞥すると、特に珍しい動作もせず、聖痕を起動させる。


瓦礫を操って阻止するのではない。


もっと簡単なこと。


その攻撃自体を支配下に置くのだ。


瓦礫に大気の振動で伝わる季苑の力を防ぐことは出来ない。


「くっ、またか!」


瓦礫は向きを変えて棺へと襲い掛かる。


「させないさ!」


今度は濁里が叫ぶと間人にぶつかる寸前で瓦礫は消え失せた。


聖痕でどこか別の場所へ転送したのだろう。


「遠隔攻撃はオレには…」


効かない…と言いかけて、濁里は口を閉じ、慌てて聖痕を起動した。


今度は濁里の周囲の瓦礫が浮かび上がり、濁里に襲い掛かったのだ。


「隙あり…!」


季苑が濁里を攻撃することに集中している隙に、棺はまた攻撃を仕掛けた。


瓦礫の中から武器になりそうな金属の棒を持ち、振り下ろす。


だが、金属は季苑に触れる寸前、嫌な音を発てて破壊された。


スプーン曲げと同じだ。


季苑は生物以外なら手も触れずに壊すことが出来る。


「チッ…」


「………」


距離を取ろうとする棺を守るように、衣の鎖が季苑を捕らえる。


しかし、既に敗れたもの、すぐに季苑に破壊された。


「くっそ…こいつ強すぎねえか」


「…三体一なのに手を抜かれてるみたいです」


棺と衣が戦慄したように言った。


先程から、棺達はずっとこの調子だ。


何をしても子供の相手をするように、いとも簡単に防がれてしまう。


三体一だと言うのに季苑は余裕の態度を崩さない。


「…………つまらないぞ、お前達」


季苑は苛立ったような表情で棺達に言った。


「隙間の神のトップを潰す前の準備運動程度には成ると思えば……期待外れだ」


「…どうして…どうして、あなたは隙間の神を潰そうとしているのですか? 人よりも優れた力を…何故、そんなことに?」


衣は気になっていたことを尋ねた。


私利私欲しか考えない違法聖痕使いの考えは衣には理解出来ない。


だが、尋ねずにはいられなかった。


聖痕は誰かを救う為のものだと、かつて一人の家族に教えられた衣だからこそ。


「どうして…か。隙間の神に代わり秩序を作る、隙間の神を変える……そんな崇高な目的は俺様にはない」


季苑は無表情な顔で言う。


何か、激情を押し殺した顔にも見えた。


「コレは私怨だ。正当性も理屈もない復讐だ。俺様は今の隙間の神のトップを殺したい…言ってしまえば、それさえ果たせば隙間の神を潰す気もない」


復讐。


季苑はそう言った。


「この二年。姿も名も隠し続けてきた。トップに伝えるがいい、鐘神季苑が貴様を殺しに来たと」


季苑は酷薄な笑みを浮かべていった。








「鐘神季苑って……確か、二年前に死んだ、反逆者でしたよね?」


季苑の言葉を盗聴していた令宮祭月が言った。


「…そうだ。元は最強最速と称された座天使スローンズ…十四歳の時に両親を殺した違法聖痕使いに報復した後、隙間の神に入った非凡の聖痕使い…」


祭月の言葉を聞いた、天之原天士が思い出すように言った。


季苑の経歴。


隙間の神を裏切る以前から危険な一面を見せていた。


エゴイストで自分の敵には容赦をしない。


十四歳の当時で人を殺しているなど、隙間の神に入ってからも恐れられていたらしい。


「そして、四年後…今から二年前にある任務中に同じ任務の隙間の神を殺害し、本部を襲撃…その後、死んだことになっていたが…」


「生きていたようですね」


天士の言葉を祭月が引き継いだ。


祭月の言うように鐘神季苑は生きていた。


姿と名を隠し、力を付け、手駒を揃え、チャンスを待っていた。


天之原天士に復讐するチャンスを…


「どうやら、かなり憎まれてるみたいですね。何か身に覚えあります?」


「…さあな」


祭月の言葉に天士は首を横に振る。


「人に恨まれることなど……身に覚えがありすぎて困るな…」








「お前達に興味は失せた。死ね」


季苑は棺達に向かって瓦礫を放った。


先程までの手加減したものとは違い、かわすどころか速すぎて迫ってきていることすら理解することが遅れてしまう。


「くっ…」


咄嗟に少しでも衝撃を弱く出来ないかと、棺が聖痕を発動するが、それは無意味だった。


「ヒーローは遅れて登場するものである!」


その時、聞き覚えのある緊張感のない声を聞いた。


同時に瓦礫が捻れた剣で破壊されていく。


「ふう…」


全て瓦礫が破壊されると、その少女は棺へ振り返る。


「待たせたな、である!」


「格好いいな、おい」


思わず、棺は感動してしまった。


「お前は確か…ん?」


首を傾げた季苑に向かって閃光が放たれる。


流石の季苑も光を動かすことは出来なかったのか、光は季苑の肩を掠める。


「どうやら間に合ったようだね…無事かい? 皆」


光の攻撃を放ったのは江枕色雨だった。


「次から次へ…どうしてなんだ?」


「オレの聖痕、皆をここへ呼んだのさ」


棺の疑問に濁里が答えた。


濁里の聖痕は空間を繋ぐ通路を作る力。


場所さえ把握できていれば視認できない距離も繋ぐことが出来る。


「と言うか、二人ともボロボロじゃないか」


二人の様子を見た棺が今、気付いたように言う。


棺の言うように、二人とも傷だらけであった。


「ちょっと殺人鬼と戦ってたからね」


「ちょっとサディストと戦ってたからね…である」


「ちょっと待て、対戦相手に差別がないか? 何だサディストって」


「細かいことは気にしないである! それより…」


レイヴは誤魔化すように言うと季苑の方を向いた。


季苑は興味深そうに現れた二人…特にレイヴを眺めている。


「反撃開始である、棺!」


そう言うとレイヴは棺に捻れた剣を渡した。


「何でオレに…?」


「私の剣に触れて無事でいられる聖痕使いは棺だけである。それに、棺も戦う力が欲しいであろう?」


人間としてのレイヴは段々と姿が消えていき、後には棺に握られた剣が残る。


『棺はこの私の使い手に選ばれた勇者であるから! 勇者であるよ? ゲームみたいで燃えるであろう!』


「…別に熱くなったりはしないんだが」


剣から聞こえる声に棺は冷めた声で言うと、捻れた剣をしっかりと握る。


「…まあ、オレも男子だ。少しばかりテンションが上がるのは否定しない」


『その割には握力強いであるね。実はオレが皆を守るんだ! とか言いたいのであろう…て痛たたたた! 折れる! 壊れちゃう!』


「うるせえぞ、余計なことを喋るな…と言うか、使いにくそうな形してるよな、お前」


『それは言わないお約束である。いくであるよ!』


騒がしい剣を持ち、棺は季苑へ向かっていった。

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