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スティグマ  作者: 髪槍夜昼
一章、史上最弱の異能者
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第五話 聖痕


「うおー…中は意外とハイテクだな、星を見る会」


棺にはよく分からない難しそうな機械が並ぶ室内を見て、感心したように棺が言った。


「その名前で呼ぶのはやめてください」


衣が名前が気に入らないのか、嫌そうな顔をして棺に言った。


「なんでだい? 私は気に入っているんだけど?」


「兄さんがそんな名前付けるから、カモフラージュに天体望遠鏡とか買う羽目になったんですよ!」


「いいじゃないか、私は好きだよ?天体観測とか」


「仕事をサボっまですることですか! もう少し『権天使アルヒャイ』としての自覚を持って仕事をして下さい!」


衣がのんびりとした色雨に怒って叫ぶ。


それを棺は聞き慣れない、業界用語に首を傾げながら聞いていた。


「…ああ、『権天使アルヒャイ』って言うのは、隙間の神の階級のようなもののことだよ」


それに気づいて色雨が棺に言う。


「階級?」


「隙間の神は、まず一般隊士として研修、その後、その人間が向いている部隊に配属されるんだ」


「軍隊みたいだな…」


「まあ、適材適所ってやつでね。私は第六部隊、権天使アルヒャイに配属されていて、そこの仕事は、一般隊士の訓練や指導なのさ…全く、私に全然合ってないと思うんだけど…」


第六部隊が不満なのか、珍しく愚痴をこぼす色雨。


「部隊の上下関係は、本部勤務の第一、第二は他の第三から第七に比べて上ですけど、他は特にありません…一般隊士よりも指導する兄さんの方が偉いのは当然ですが…」


「つまり、訓練所も兼ねている訳だよ、ここは。今日は私と衣しかいないけど、いつもは沢山いるんだよ」


「…へー」


途中からよく話が理解できなくなり、空返事をすることにした棺。


「…そういや、漫画とか見てて、いつも思ってたんだけど、そういう秘密結社ってどこから収入を得て、給料払ってるんだ?」


棺はふと疑問に思ったことを口に出す。


「収入…か。政府から秘密裏に払われている…と言いたいところだけど、政府にも秘匿しているからね。詳しくは知らないけど、隙間の神の研究機関が聖痕使いを研究し、研究成果を売ることで稼いでいるらしい」


つまり、違法聖痕使いとの戦闘の詳細を分析し、役立てることが出来ないかを見る組織であるとも言える。


実際、正義感よりも聖痕使いとしての力を発揮でき、金銭を稼ぐことが出来るという理由で隙間の神に入る人間がほとんどである。


「…やっぱり悪の組織なんじゃないのか?」


「違います」








「さて、詳しい説明だけど…何から言えば…」


テーブルの上にお菓子と紅茶を用意し、椅子に腰掛けて、色雨が言った。


「聖痕について詳しく教えてくれ」


単刀直入に棺が言った。


「そうだね…聖痕は超能力とか魔法とか、そういう不可思議な現象を引き起こす未知の力のこと…」


「………」


「一説によると、過去にも英雄などの所謂『選ばれた人間』も聖痕のような力を持っていたらしい」


「選ばれた人間…ねえ」


「詳しいことはまだ分かっていないけど、隙間の神の情報では、聖痕使いは日本でしか発生しないらしい」


「日本だけ?」


「そう、だから、隙間の神の支部も日本にしか無い」


「………」


その色雨の言葉に納得がいかないような顔をする棺。


「聖痕の力については私が説明します」


紅茶を飲みながら衣が会話に入ってきた。


「聖痕は使う時に腕に浮き出て、それ以外の時は消えています…」


腕に青白い入れ墨のようなものを浮かび上がらせながら衣が言う。


「その力は、私の『観念動力サイコキネシス』などの比較的有名なものと、貴方の『無重力』のような前例の無い『特殊』なものの大きく二種類ですね」


「………」


「有名なものは扱い易く、数も多いのですが、特殊な聖痕使いは、そもそもどんな本質を持った力なのかも分かり難いです」


「…不便だな」


「まあ、その分、強力な力を持つ者も多い…君は中々いない『特別』なんだから胸を張っていいよ」


「オレはそんなものに関わらず平和に生きたいんだけどな…」


溜め息をつきながら棺は色雨に言う。


「知ってしまったからには見て見ぬ振りは罪悪感を感じてしまう…かい?」


「いやいや、そんな正義感のある人間じゃねえよ、オレは…こいつを放置した方が面倒臭そうだから、協力するだけだ」


衣を指差して棺は苦笑いをしながら言った。


「まあ、君達の基本的なことは調査だけだから安心していいよ。衣も本来戦闘要員じゃないしね」


「戦闘要員じゃない? 縄で縛ろうとしたり、鞭で叩こうとしてきたこいつが?」


「そこだけ聞くと、どこかの女王様みたいだね」


「ご、誤解です! 兄さん! 私は犯人を捕縛しようとしただけです!」


棺の誤解を招く言い方に、色雨は妹がいつの間にかSになっていないか考え、衣は慌てて言う。


「それは置いておくとして…衣の聖痕、観念動力サイコキネシスは比較的有名な力だけど…棺君、君は観念動力サイコキネシスと聞いてどんなイメージをする?」


「は? イメージ?」


色雨の唐突な質問に棺は首を傾げる。


衣は黙ってその話を聞いていた。


「…スプーン曲げとか?」


棺が昔見たテレビを思い浮かべながら言う。


「うん、大体はそんなイメージを持つだろう。実際、観念動力サイコキネシスの本質は、直接触れずに物を動かすことだからね」


「…ん? それだと…」


「気がついたかい?そう、そうすると、衣の観念動力サイコキネシスは少しおかしい」


「………」


衣は相変わらず黙ってそれを聞いている。


「衣は直接触れずに、直接触れる思念イメージを物質化して観念動力サイコキネシスを使っている…長さは足りてるのに間に延長コードを繋ぐような、かなり遠回しな工程をしているんだ」


「何で?」


「恐いからですよ」


棺の疑問に衣が答えた。


「私は聖痕が恐い、だからわざと遠回しにして、安全性を高めてるんです」


「………」


「無理矢理巻き込んでおいて何ですけど、自分の力も含め、聖痕とは善悪良し悪し関係ない『力』であることは忘れないで下さい」


衣のこの言葉には、実体験が含まれているような説得力があった。








「そうだ、そういえば今日は定期連絡の日だった」


その後、しばらく談笑していると、手をパンッと叩いて色雨が立ち上がった。


「忘れていたんですか? 兄さんの本部での評価と出世が掛かっている重要な定期連絡を…」


のんびりとしていて、出世欲の皆無な兄に呆れたように言う衣。


「丁度いいから、君達も一緒にモニター室に行こう」


「は? よく分かんねえが、偉い奴と連絡取るんじゃねえのか?」


「そうですよ! 本部って言ったら、第一部隊の人が出るに決まってます、一般隊士の私なんて…」


「本部に顔を売るチャンスだよ? まだどの部隊か決まってない一般隊士なんだから…さあ、行こう」


そういうと、出世欲は無いが、妹には過保護な、衣曰くシスコンの色雨は二人を連れてモニター室へと向かった。








「お待たせしました第185支部、江枕色雨、定期連絡です」


モニター室につき、近くに置いてあった椅子に二人を座らせ、一際大きなモニターの電源を入れて色雨は言った。


そのモニターには、色雨よりは年下、棺達よりは四、五歳上に見える女性が映し出されていた。


顔立ちが整った、清楚な感じで、読書などが似合いそうだと棺は思った。


しかし、そのイメージはすぐに打ち砕かれた。


『遅いですよ! 権天使アルヒャイ、江枕色雨! 私がこの日をどれだけ待ったと…じゃなくて、多忙な私を待たせたのだから!』


その清楚に見える女性は、色雨に向かって怒鳴った。


それは、親しい間柄を感じさせた。


『あら? そちらの二人は、誰ですか?』


衣に続く第一印象の崩壊に呆然としている棺と衣に気づいたモニターの女性が色雨に言う。


「私の妹と、そのパートナーです『智天使ケルビム』、繰上炬深クルジョウ キョミさん」


『…そうですか、あなたがあの時の』


「お久しぶりです、繰上さん。江枕衣です」


『覚えていたの…あなたに会ったのはまだあなたが幼かった頃なのに…』


「はい」


懐かしむように話す衣と炬深。


そして、この場で唯一、話についていけない棺。


「どういう関係なんだ?」


「昔会ったことがあるんですよ。それから、繰上さんは、兄さんの…」


『…それはそうと、江枕色雨、その他人行儀な呼び方はやめなさいと前に言いましたわよね?』


「本部勤務の智天使ケルビムである繰上炬深さんを馴れ馴れしく呼ぶなど、私には恐れ多い…」


『良いのです! よそよそしい呼び方をやめなさい! 敬語もやめなさい!』


「命令であってもそれには従えません」


『このっ、分からず屋の頑固師匠め!』


怒りのあまり、口調が素に戻った炬深はそう言った。


「師匠だと?」


「ええ、繰上さんは昔、兄さんに弟子入りしていたんですよ」


『全く、師匠は分かっていません! 本部勤務になり、昔のように会えなくなって悲しむ弟子の気持ちを…』


「昔とは立場が違います」


『好きで偉くなったんじゃないやい!』


すっかり最初の清楚なイメージを粉砕して炬深が色雨に叫んだ。


「もしかして、あいつは」


「はい、繰上さんは弟子時代から兄さんに好意を抱いています」


「…お前の兄さん、鈍そうだからな…気の毒に」


同情したように棺が呟く。


『師匠は女心も分かってません!』


「上官の女心も分からないとダメなのですか?」


その噛み合わない会話はしばらく続いた。

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