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スティグマ  作者: 髪槍夜昼
四章、聖遺物
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第四十七話 後始末


「はぁ…はぁ……たっく、いい加減しつこいっての…ちょこっと暴れただけじゃねえかよー」


棺達の町から離れた場所にある山奥、未だに撒けない力天使達を睨みながら逸谷不戒は呟いた。


「しっかし、久しぶりにやっちまったな…殺人にはまらないように気をつけてるってのに…」


やれやれと僅かに後悔と自己嫌悪をしながら逸谷はため息をついた。


意味のある殺人は何とも思わない。


だが、無意味な殺戮は出来るだけしたくない。


殺人は手段だ。


殺人が目的になってはならない。


それが一般人には分からない逸谷のモットーだった。


「ボスに怒られるかなー…ボス結構潔癖症だからなー……と言うか、それ以前にこいつらを振り払わないとボスに殺されるな」


さて、どうしようかねー…と独り言をいいながら力天使達をもう一度見る逸谷。


「止まれ違法聖痕使い! 探知機を使っているからお前は逃げられないぞ!」


モーニングスターのような形の聖痕装置『ラファエル』を持った力天使が言う。


「キツいなー…とりあえず一人を毒して、それから話術でまた錯乱させるか」


ため息をつきながらそう決めて立ち止まる逸谷。


それに気付き、力天使達も武器を構えて立ち止まる。


その時だった。


突然、地震のように大地が揺れた。


「な、何だ?」


ラファエルを持った力天使が言った。


大地が揺れたのは一時的なもので、すぐに収まった。


何か巨大な物が落ちてきたようでもあった。


「…俺様を散々待たせて、漸く帰ってきたと思えば、何だこの様は?」


傲岸不遜な声が力天使達の耳に届いた。


しかし、声が向けられているのは力天使達ではない。


「ボ、ボス…」


「しかも、任務は失敗したように見える…お前にまだ利用価値が無ければこの場で潰しているところだ」


地毛ではなさそうな金髪、口にくわえた電子タバコ、端正な顔立ちだが、どこか近寄り難いマフィアのような雰囲気を持つ男が言う。


「それはどうも…と言うかボス、助けに来てもらってなんですけど、正体隠してたんじゃないですか?」


「二年も待ったんだ。もうじき俺様も動く。ここにいる奴らはその準備運動に貰うぞ」


「どうぞ」


多大な尊敬と、微かに畏怖を交えた表情をしながら逸谷は言う。


「お前は誰だ。反逆者のボスと言うことは、元隙間の神か!」


「俺様はそこのお喋りとは違って秘密主義でな。自分で考えろ」


電子タバコをくわえた男はそう言った後に何の動作もしなかった。


ただ、突っ立っていただけだったが、聖痕による奇跡を起こした。


バキバキッ!…と異様な音が力天使達の周囲から発せられた。


慌てて、周囲を見渡すと、周囲に生えていた大木が、次から次へと不可視の力で地面から引き抜かれ、虚空で静止していた。


その数、二十から三十。


観念動力サイコキネシス! だが、何の動作も無しに、ここまで…」


「お前達は聖痕装置で武装して丸腰の聖痕使いと対抗しようとするが、本当の聖痕使いには武器など必要ないんだ」


「く、くそっ!」


虚空に静止している武器が放たれる前に操っている本人を殺そうと、力天使の一人が銃のような聖痕装置を向ける。


その瞬間、音を発てて聖痕装置はへし折れた。


「スプーンを曲げるのは筋力じゃない。必要なのは曲げると言う意思のみ。スプーンだろうが、ビルだろうが同じ労力でへし折れる」


電子タバコをくわえた男が呟くように言うと、力天使達の持っていた聖痕装置が全てへし折れた。


同時に静止していた大木達が動き、尖っていて殺傷力の高い部分を力天使達に向ける。


「ずば抜けた観念動力サイコキネシス、二年前…お前まさか、鐘神季苑カネガミ キエンか!」


へし折れたラファエルを持った力天使が思い出したように電子タバコをくわえた男に叫んだ。


電子タバコをくわえた男はそれに肯定も否定もせず、笑っただけだった。








「へー、鐘神季苑って言うんですか、ボスの本名」


力天使達を電子タバコをくわえた男が串刺しにした後に逸谷が聞いた。


一応右腕と呼ばれる存在だったが、秘密主義で疑心暗鬼なボスから本名の話を聞いたことはなかった。


「…隙間の神では二年前に死んだことになっている。生きているとバレたら色々と動き辛くなるんでな」


曖昧に電子タバコをくわえた男『鐘神季苑』が言う。


「死を偽装するなんて一体何したんですか? 大量殺戮とか?」


師匠の武勇伝を聞く弟子のように少しわくわくしながら逸谷が聞く。


「さあな。当時は少しばかり俺様も若かったのかもしれんな」


年寄り臭く季苑が思い出しながら言う。


「つーか、この際だから聞きますけど、ボスって何歳ですか?」


本名を聞いた後なのでせっかくだからと、割と前から疑問に思っていたことを質問する逸谷。


「俺様か? 二十歳だが」


「ええっ! えっ、ウソ、マジで! オレ二十三だから年下ッスか! つーか、どう見ても二十代後半……いや下手したら三十…」


「そうか、喧嘩を売っているのかお前は…」


「あ、やべ、口が滑った、ああ、木を浮かべないで、ああ、狙いを定めないで、ああ、死ぬー!」








「事後処理って本当に大変だね…」


「そうですね…って言うか何で私だけこの町に残ってるんですか」


支部でいつもの如く、江枕色雨が書類を片付けながら本部への報告書を書いていると、その隣に令宮祭月の姿があった。


「どうもこの町は違法聖痕使いが集まる傾向にあるようだから、配属されたって君が言ってなかった?」


「そうでしたね…まあ、本部で忙しいよりはマシなんかな…」


ため息をつきながら祭月は諦めたように言った。


「…隙間の神の内情は分かったが、ところで、何でオレもここにいるんだ?」


その更に隣にいた軽根間人が言った。


「戦える人員が不足しているからさ。元気そうだし、また協力者になってもらったんだよ」


「相変わらず、マイペースな奴だ。病み上がりの人間をこき使うつもりか」


「いやいや、そんなつもりは全くないよ。無職ニートな友人に仕事をあげただけじゃないか」


「うっ、人が気にしていることを…」


さらりと毒吐いた色雨にダメージを受ける間人。


「何ならそのまま就職してくれて構わないから」


「…考えさせてもらうよ」








「初対面…ではないよな、オレは神無棺だ」


「オレは銘式濁里。元隙間の神で現在はお前と同じ、協力者さ」


ある病院の前で棺と濁里はそう会話をした。


今日、レイヴが自分の親友を紹介したいと棺、濁里、衣に連絡したのだ。


先日、レイヴが事件を起こした理由の親友。


棺達に今まで隠していたのを教えたことから、恐らく棺達のことを信用するようになったのだろう。


珍しく衣は棺を置いて先に行っており、棺は一人で来ていたところ、病院の前で濁里に出会ったのだ。


「協力者? それが何でレイヴと?」


「まあ、色々とあってな。メル友になったのさ」


話すと長くなるので曖昧に答えて濁里は歩き出す。


「あー、あいつとメル友になると夜とか、かなりうるさいだろ」


一緒に歩きながら棺が濁里に言う。


「メールが早く打てなくて文句を言われているさ」


「機械音痴なのかお前?」


「そうらしい」


聖痕を使って違う場所から甘酒を取り出して、飲みながら濁里が言う。


「何だ、同い年くらいに見えるくせに、酒好きか?」


「甘酒に年齢制限はないはずさ」


甘ったるい臭いを纏いながら濁里が薄く笑う。


「そうかよ。つーか、お前便利な聖痕持ってるな」


湾曲通路ワームホールのことか? まあ、確かにわざわざ帯刀してなくていいのは便利さ」


甘酒をどこか別の場所に放ってから濁里が言う。


「帯刀…ステレオな聖痕使いもいたものだな」


「素手と鉄パイプよりはマシさ」


「………」


(言われてみれば…オレってステレオ? って言うか原始人?)


軽くショックを受けながら棺は濁里と共にレイヴに言われた病室へ向かった。








「お、お前、オレ達にこんなことしてただで済むと思ってんのか!」


ボロボロの不良らしき格好の男達が路地裏で叫ぶ。


ナンパついでに、たまたま見かけた可愛い少女を路地裏に連れ込んだのだ。


すると、いきなりこの男が現れたのだ。


サンタクロースのような赤いナイトキャップを被り、アクセサリーを無数にぶら下げたマントを着た男。


帽子を深く被っている為に顔はよくわからない。


「オレは世界全ての少女の味方、白垣散瀬シラガキ サンセ…不埒者など恐れないって訳よ!」


決めポーズを取りながら、散瀬はキラキラと輝く黄金の剣を取り出す。


「げっ、またあの滅茶苦茶硬い剣を出しやがった」


「チキショー、兄貴に言いつけてやるからな!」


頭を押さえながら不良達は退散した。


「…フッ、不埒者は去りました。お怪我はありませんかお嬢さん」


振り返り、座り込んでいた少女に言う散瀬。


「いえ、大丈夫です」


「そうか。それは良かったって訳よ」


キラキラゴテゴテの剣を片付けながら散瀬が言う。


「あの、何かお礼を…」


「お礼? そんなものを求めるのは心が貧しい人だけって訳よ。これでもオレはそれなりに裕福な訳」


顔は半分隠れているが、それでも優しげな笑顔を浮かべながら散瀬は言う。


「それでも気が晴れないと言うなら………メールアドレスと携帯番号を……って痛い!」


「黙って下さい、不埒者」


散瀬が言いかけた時、後ろから割と大きめな石が飛んできて頭に命中した。


「痛いな…何するんだよ、パイロット」


「誘拐犯であるご主人が、これ以上犯罪を犯さないように阻止したまでです」


いつの間にか散瀬の後ろにいた少女が言った。


ヘッドセットをつけ、何故かメイド服を着た、『パイロット』と散瀬にあだ名で呼ばれている少女だ。


「ちょっと、誤解されるようなことを言わないで……ってああ! お嬢さんはいずこへ!」


「馬鹿やってないで行きますよ。隙間の神に見つかってもいいんですか?」


「…苦渋の選択だけど、あの子は諦めるって訳よ」


そう言い、奇妙な二人組はどこかへ歩いていった。



オマケ


不良A『棺の兄貴、オレ達は少しだけ女の子と話をしたかっただけなんスよ! 襲う勇気なんてないし! なのにあのサンタみたいな奴が…』


棺「うるせえ、オレをお前達の事情に巻き込むな」


不良A『そんなー!』

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