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スティグマ  作者: 髪槍夜昼
四章、聖遺物
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第四十一話 優先順位


「実は私は人間じゃないのであーる!」


「………」


割とシリアスにレイヴに訳を聞きにきた棺にレイヴが最初に話した言葉がこれである。


棺は思わず無言になってしまった。


「聖遺物の中の聖剣と呼ばれる存在…まあ、簡単に言えばRPGとかでよく出てくる『生きている剣』なのである。エクスカリバーとかの親戚」


驚く程、いつもの調子で棺に正体を明かすレイヴ。


「…おいおい、少しばかりシリアスになったってのに変わらねえな」


「私は何も変わっていないであるよ。誰かに操られている訳でも、誰かに脅されている訳でもない。今まで通り、いつも通り、普段通りのレイヴである」


言葉通り、レイヴは誰かに言われて何かをしていると言う雰囲気ではなかった。


どこまでも自分本意。


それは暗に、自らの意思で揺祇を傷つけたことを意味していた。


「人間がどうであるかは知らないであるが、私はそう簡単に『優先順位』は変わらないのである」


「優先順位だと?」


「格付け、重要性などは人それぞれである、差別をしない人間なんて存在しない…いや、存在してはならないのである」


自分は人間ではないとレイヴは言ったが、敢えて自分を人間に例えて持論を話し始める。


「何故なら誰にでも平等な人間は誰一人『特別』がないと言うこと。誰も大切に出来ないことは人として間違っている。差別は必要なことである」


「…で、何が言いたい?」


「つまる所、私にとって、棺達との日常も大切だが、それ以上にこの行動が大切だと言うことである」


レイヴはそう断言すると左手を虚空に上げる。


すると、大気に色を塗るように山羊の角のように捻れた異形の赤い剣が現れた。


「なるほど、生きている剣…それがお前の本体って訳かよ…ハッ、聖剣って言うか魔剣だな」


「その指摘は意外と的外れでもないであるよ。どちらかと言えば栄光の剣よりは呪われた剣に近い存在であるのだから」


「そうかよ!」


とりあえず、ぶん殴って考えを変えさせる。


そう思い、棺はレイヴに向かって走り出す。


それを見て、レイヴは軽い調子で剣を降り下ろした。


棺にはリーチが足りずに届かず、コンクリートの地面に剣がぶつかる。


その瞬間、バチッと火花と言うには強すぎる赤い閃光が迸る。


「チッ!」


「聖痕使いなら誰でもいいのであるのでな、ならば、優先順位の低い赤の他人を狙うである」


閃光で目が眩んでいる棺にレイヴが告げる。


「それではな」


最後にそう言い、レイヴは歩いていった。








「恐らく、件の聖遺物は純粋に歴史を重ねてきた物ではなく、武器に改良されたタイプですね」


支部にて、祭月が色雨の話を聞いて言う。


「どうしてそう思う?」


「元々聖痕装置は聖遺物を模して作った物ですから、聖痕装置開発、整備が主な仕事の私達は隙間の神に保管されている聖遺物に接する機会が多いんだよ」


そう言うと、祭月は懐を漁って紙束を取り出す。


「そもそも聖遺物は奇跡を溜め込んだ爆弾だが、言うならそれは火山みてえな物なんだ。噴火すれば確かに絶大な威力と危険性を持ちますが、人の手には余る。武器にすることなんて出来ない」


紙束を読みながら祭月は話を続ける。


「ただし、そこに人の手を加えて改良すれば話は別…火山の熱を利用した武器とかな。つまり、積極的に戦闘に使えると言うことは改良型聖遺物と言うことになるんです」


「なるほど」


「剣と言うことは柄に聖遺物の欠片でも埋め込んだ聖剣ってところか…まあ、聖遺物自体が珍しいが、聖遺物の中で言えば、それほど珍しい種類でもない…大方一般人が操られて暴走しているんだろ、剣から手を放させれば終わりです」


「…大した知識だね」


感心したように色雨は祭月に言う。


歳もそんなに離れていないように見えるのに、色雨が何も知らなかった聖遺物についてそこまで知っていることに色雨は驚いていた。


「…まあ一応、非戦闘方面では天才と呼ばれたこともありますから」


大して自慢気にもならず、祭月は言った。








「…やれやれ、無駄遣いだったであるか」


棺から逃れたレイヴは赤い剣を見ながら呟く。


それほど人通りの多い道ではないが、人目を引いても困るので、レイヴはすぐに赤い剣を消した。


隙間の神に気づかれないように人としての肉体の中に隠したのだ。


これで探知機にはレイヴは反応しない。


この方法でレイヴは長い間隙間の神の目を逃れてきたのだ。


「あまり悠長にはしていられないであるな」


そう言い、レイヴは歩き出した。








「…チッ、あの馬鹿が」


視力の回復した棺は苛立ちながら呟いた。


レイヴをぶん殴って頭を冷やさせるつもりが、あっさりと逃げられてしまったからだ。


「はぁ、やれやれ、一年の付き合いだが、あんな真剣な目は初めてみた…」


棺は一年の付き合い故に気づいていた。


レイヴは表情や態度はいつもの調子だったが、目だけは真剣だったことに。


「一体何があのお気楽能天気をそこまで駆り立てるのかねえ…」


ため息をつきながら棺は一人呟いた。


「……ん? お前」


ふと視界の端に映った人間に棺は気がついた。


それは…








「補足できましたよ。件の聖遺物」


祭月はタッチパネル式の小型モニターを見ながら色雨に言った。


「本当かい?」


「この私が開発した新型探知機は聖遺物のみに反応する機械なんで、他の通常の探知機よりは高性能なんですよ」


機械をいじりながら祭月は言う。


「さて、さっさと回収して帰るとしましょう」



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