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スティグマ  作者: 髪槍夜昼
一章、史上最弱の異能者
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第四話 過保護な兄


「で、結局どこへ向かってるんだよ」


「だから、隙間の神の本部と連絡が取れる場所って言ってますでしょうが」


「だから、それがどこかって聞いてるんだよ」


言い合いながら棺と衣の二人が歩く。


ロケットランチャーで棺が焦げた次の日の休日。


棺は衣に約束した通り、隙間の神に入る為に待ち合わせをし、ある場所へ向かっていた。


そこで、ふと衣が棺を見て立ち止まった。


「ところで、貴方のその私服ですが…」


流行の最先端…と言う訳では無いが、時代遅れでも無い服を違和感無く着ている衣が棺を見て言う。


「何だ?」


「まさかとは思いますけど格好いいとか思ってたりします?」


衣が棺の私服をジロジロ見ながら言った。


赤いバイクをスプレーで更に赤く塗った白バイならぬ赤バイ『スコーピオン』の例にあったように、実は棺は趣味が悪い。


と言うか、髪といい、バイクといい赤が大好きだ。


つまり、棺の私服は、


元々は違う色だったのに赤いペンキをぶちまけたせいで色が変わってしまったかのような、不自然な程真っ赤な服を上下に着ていた。


髪と相俟って全身真っ赤で見るものの目をチカチカさせる。


「まあ、趣味は人それぞれですけど…」


「何が言いたいのか気になるが、敢えてスルーしてやるよ」


フンと鼻を鳴らしながら棺が不機嫌そうに言う。


「…なら、その場所に着くまでに聖痕をハッキリさせておきましょうか?」


「スティグマ…か。お前はその縄と鞭だったな」


「はい、貴方は?」


「触れたものを無重力にすること、『モノを無重力状態にすること』…か?」


自信なさ気に棺は言った。


「聞いたことの無い系統タイプですね。本質は何なんでしょう?」


首を傾げながら衣が言う。


「本質?」


「例えば、私はただ縄を生み出しているのでは無く、イメージを観念動力で加工し、形にする。つまりは、それが本質です」


「なら、オレの本質は重力を消し去ることなんじゃねえの?」


「通常、聖痕使いは生み出すことより消し去ることの方が難しいんですけどね」


(…それだけ才能を秘めてる…ということなんでしょうか?)


「どうした? 人の顔を見つめて…」


「何でもありません、さあもうすぐですよ」


衣はごまかすように明るく言った。


「隙間の神、『第185支部』は」








「ここが…」


棺が建物を見て言った。


棺のいた孤児院よりやや大きくて、少し色あせた壁の塗装が目立つ建物だった。


元々はどこかの店が入るところだったのか、駐車場のスペースが大きく取られている建物だ。


「はい、ここが第185支部です。表向きは『星を見る会』と言うクラブのようなものなんですが…」


「えらくほのぼのとした名前だな」


「隙間の神は秘匿することが目的な組織なんです」


「秘匿ねえ…」


「魔法少女のように目撃者の記憶をパパッと消したりもたまにします」


「怖っ! 魔法少女って言うより悪の秘密組織だろ!」


「失礼な! 何も知らない一般人を人知れず救っている組織だと言うのに!」


「初対面でいきなり、オレに襲い掛かって来たじゃねえか!」


「そ、それは、勘違いと言うか、誤解と言うか…あーもー、細かいことをうじうじ言わないで下さい!」


「細かくねえ!」


建物の駐車場で棺と衣が叫び合う。


すると、広い駐車場に一つだけ止めてあった車から一人の男が出て来た。


「おや、そんな所で何をしてるんだい?」


「兄さん…」


衣が男に気づいて言った。


「兄さん? この人、お前の兄貴なのか?」


その言葉に首を傾げながら棺が言った。


「いかにも、私は江枕色雨エマクラ シキウ…衣ちゃんの兄だ」


ストレートの男にしては長めの髪をした二十代前半くらいの男、色雨が言った。


「………衣ちゃん?」


ちらっと衣の方を見て棺が言った。


「兄さんはややシスコン気味なんです…過保護なタイプの」


「…ブラコンにシスコン…オレの周りの奴は変人だらけだ…」


自称お兄ちゃん子の幼なじみを思い出しながら溜め息をつく棺。


「…その変人に私は含まれていませんよね?」


「自分の胸に手を当てて考えてみろ」


棺に言われて、素直に衣は胸に手を当てた。


「………やましいことは一つもありませんでした」


「…自覚症状無しと見た」


「どういう意味ですか!」


ボソッと呟いた棺の言葉に過剰に反応する衣。


「そのままの意味だと…」


「そろそろ私も会話に参加してもいいかな?」


穏やかな顔をしながら色雨が言った。


「あ、ああ…」


(毒気の抜かれる顔をした奴だな…)


棺はひそかに第一印象でそう思った。


「隙間の神に入りたいらしいね?」


「そうです、兄さん」


棺では無く、衣が答えた。


「…君、もしかして、我が妹に無理矢理入るように脅迫されてる?」


それを見て、事情を察した色雨が言った。


「そんなことは…「その通りだ」棺!」


うろたえた衣の言葉を遮って棺が言った。


衣は棺を睨みつけた。


「はぁ、やっぱりか…我が妹は全く…」


頭を抱えて色雨は言った。


「裏切りましたね! 棺!」


「…ま、友達にはなったが、アレは明らかに脅迫だろうが…」


「アレ?」


「こいつ、人に武器を突き付けて…「わーわー! 何でもありません! 兄さん、貴方の妹はいつも通り、良い子でしたよ!」…」


棺の言葉に反応した色雨に慌てて、今度は衣が棺の言葉を遮る。


「衣…聖痕装置セイコンソウチを使ったね?」


「えーと、えーと、やむを得なかったと言うか…カッとなったと言うか…」


「問答無用。反省分三十枚を明日までに」


「えー! 無理ですよ!」


半泣きで衣が喚く。


「聖痕装置って何だ?」


それをスルーし、棺が色雨に聞く。


「擬似的な聖痕の力を発動させる装置のことだよ。ランチャータイプの聖痕装置『カブリエル』は君も知ってるだろ?」


「ああ、オレがくらったアレか…」


「隙間の神に入る人間が皆聖痕使いとは限らないからね。聖痕使いに対抗する為に作り出された装置さ」


「成る程」


棺が納得して頷く。


「それはそうと、君、まだ学生でしょ? 衣はこの間、聖痕使いを捕まえる為に学校に潜入したばかりだからいいけど、君には君の日常がある」


「………」


「だから、君、正式には隙間の神には入らなくていいから、協力だけしてもらえないかな?」


「協力?」


「ちょっと、私を無視して話を進めないで下さい」


そこで衣が話に割り込む。


「言うなら、この間みたいに衣のサポートをしてくれればいい。勿論、協力の報奨金は出すよ?」


「…まあ、目茶苦茶忙しい…って訳じゃなければ別にいいけどな…暇だし」


「それじゃあ、このまま立ち話も何だし、入ろうか」


色雨は話していた場所が駐車場だったことを思い出して、中へ入るように促す。


「って言うか、言いそびれいたんだが、オレはぶっちゃけかなり弱いぞ」


今更ながら、不安になり、棺が言う。


「いいんですよ、サポート何ですから、それで。別に変な期待はしてません」


それに衣が微妙なフォローを入れて、三人は隙間の神『第185支部』に入っていった。

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