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スティグマ  作者: 髪槍夜昼
一章、史上最弱の異能者
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第三話 幼なじみ


「棺と仲がいいね、衣ちゃんは」


棺が隙間の神に入ることを再び拒否し、宣言通り、ハグされそうになっていた時櫛が言った。


「そうですか?」


今のやり取りが仲のいいもの同士に思えなかったのか衣が首を傾げる。


棺はその隙をついて逃げ出した。


「棺はね、この孤児院の家族以外の人に心を許さないんだ。そりゃあ、教室で話すクラスメートくらいはいるだろうけど、『友達』はいないの」


棺の逃げた方向を見ながら櫛は言う。


「…何か、理由があるんですか?」


「理由か…」


櫛が呟いた。


「私もここで暮らしてるように、幼い頃、捨てられたんだけどね…棺と出会ったのは、八年前なの」


「棺は違う孤児院からここへ移されてきたのですか?」


「違う違う。八年前、棺が十歳の時に孤児院の前に倒れていたの。見つけたのは私だった」


櫛は思い出すように言う。


「十歳? なら、棺は両親のことを覚えているのでは無いのですか?」


そうだ。


棺は両親の顔は覚えていないと言っていた。


それ故に、衣は生まれてすぐに捨てられたものだと思っていたのだが…


「覚えてないよ。何も。棺は十歳になり、孤児院の前で倒れるまでの記憶が全く無いの」


「記憶喪失…」


「…よっぽど酷い親だったのかもね…身体には傷がいっぱいあったし、同い年なのに随分痩せていたのを覚えてる…」


「………」


「それで、その酷い記憶は忘れたままにさせることにしたの…」


「…そうだったんですか」


「だから、まあ、それが関係しているのかもね。棺がそう簡単に人に心を許さないのは…」


悲しげな顔で言う櫛。


「………」








「たっく。あのブラコン女め…口が軽すぎるんだよ。オレが女に触れると大変なことになるってあいつに言いやがって…」


(気を取られた隙に逃げて来たが、あのまま抱き着かれていたらと思うと…)


棺は寒気を感じ、ぶるっと身体を震わせる。


「これだからああいうタイプは嫌いなんだ」


(オレみたいに他人との間に壁を作り、一定の距離を保ちながら人と話さないと安心できない人間にも土足で近づいてきやがる)


「……オレは一人でいいんだよ」


(そうさ、組織なんてものに入れるかよ)


(いつからか分からない、記憶に無いガキの頃からかもしれない)


(だが、もう決まってるんだよ。オレはこういう風に生きると、こういう風な人間だと…)


(…だから、絶対に…)


そこまで棺が思ったところでドドドドド…と変な地響きが聞こえてきた。


それは段々と棺に近づいていき、


「棺ーーー!!」


ドバァンとドアを蹴破り、衣がダイナミックに登場した。


そしてそのまま、棺に抱き着いた。


「〜〜〜〜!?」


生まれたての小鹿のようにプルプル震える棺。


「貴方のことを考えずに、自分の要望だけ通そうとしてすいませんでした!」


抱き着きながら衣が言う。


「〜〜〜〜?!」


棺は振り払おうとするが、尋常じゃない力で抱き着かれている為、逃がれられることが出来ない。


「貴方にあんな過去があったなんて…貴方が集団の中に入ることに苦痛を感じているなんて…」


衣は思う。


他人に心を簡単に許せない人間が、見知らぬ怪しげな集団を見てどう思うか、


力を理由に強引に集団に連れて行こうとする人間を見てどう思うか、


「私は、聖痕使い(スティグマータ)は、皆、隙間の神に入ることが幸せだと思っていました。しかし、それを強制するのは間違いでした」


「………」


「隙間の神に入って欲しいとは私はもう言いません。だから、私のことは少しは信じてくれないでしょうか…いや、違いますね」


「………」


「友達になってくれませんか? 一人でいるより楽しいと思うんです」


そう言うと、衣は棺から離れた。


「………」


棺は黙って衣を見る。


「………」


衣もまた黙って棺を見た。


「…ぶっちゃけ、身体の拒絶反応のせいで何言ったかあんま覚えて無え…」


ボソッと棺が言った。


「えぇ! 酷いです! 私は真剣に…」


「とにかく!」


それにショックを受け、文句を言う衣を黙らせる棺。


「とにかく、あれだろ。何つーか、ここまで恥ずかしい台詞を演技で言える訳、無えから信じてやるよ」


照れ臭そうに頭をかきながら棺が言った。


「本当ですか!」


目を輝かせて衣が言う。


「ああ」


「やった! なら、まず私達の力の説明ですが…」


「前言撤回! 早速騙しやがったな卑怯者!」


「友達として、教えてるだけですよ。そして、友達として、自分の所属している組織クラブを進めるだけですよ」


「屁理屈だ! 絶対、オレはそんな面倒臭せえのしねえからな!」


「面倒臭い?」


その言葉に衣が反応する。


「まさか、トラウマとか、過去とか、尤もらしい理由を述べておきながら、本当はただ面倒臭さかっただけだったのでは?」


「いやいや、そんなことは無えよ。確かに面倒臭さかったのも事実だが…」


ピクッと、棺がそう言った瞬間、冷静に見えて実は激情家の衣の眉が動いた。


「貴方を心配しましたのに…自分の行動を後悔しましたのに…」


「お、落ち着け、キャラが変わってるぞ。お前はクールな性格だったはずだ」


ゆらゆらと揺れる衣に脳内でデンジャー、デンジャーと鳴るアラームに怯えながら説得を試みる棺。


しかし、


「私の純情を、弄びましたねーーー!! 神無棺ー!」


ガチャッと懐から何かを取り出し、叫ぶ衣。


女性でも持ちやすい用に軽量化されたのか、小柄な衣でも持てるサイズに改良された、


『ロケットランチャー』だった。


「えぇー! うそーん! 戦闘の時に使って無かったじゃねえか!」


「秘匿が困難になる為、使わなかったんです」


「民家の室内ではいいのかよ!」


「始末書ものですが…致し方ありません」


「嫌ならやめろよ!」


必死で棺は説得するが、衣の意志は固い。


「オレの我が家を吹き飛ばす気か!」


「大丈夫です。これは秘匿しやすいように威力を弱めてありますので着弾点から半径一メートルまでしか影響は及びません。安心して下さい」


「安心出来ねえ! それってオレは木っ端みじんじゃねえか!」


「…発射五秒前、四、三、二、一…」


小型ロケットランチャーを棺に向けてカウントダウンを始める衣。


「ま、待て! 隙間の神に入る!入ってやるから!」


「…本当ですか?」


「ああ! オレは友達に嘘はつかねえ! 可愛い女友達なら尚更だ!」


「…可愛いだなんて、おだてても何も出ませんよ」


棺の言葉に照れたように顔を両手で覆う衣。


可愛いらしい仕種だが、何かを忘れている。


「…あ」


手を離されたロケットランチャーは地面に落下する。


地面に当たる瞬間、カチッと不穏な音がした。


ドンッと言う音と共に弾が放たれる。


「理不尽だぁー!!」


ドバァンと言う音と共に棺は黒焦げになった。

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