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スティグマ  作者: 髪槍夜昼
三章、聖痕使いは十人十色
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第二十六話 VS霊能者


「霊能者?」


「霊能力…と言う力を持つ者のことですね」


棺の疑問に横にいた衣が答える。


「有名なのは霊視、『幽霊を見ることが出来る力』や徐霊、『幽霊を祓う力』などで、主に徐霊師や霊媒師などがこの力を持っているとされます」


「成る程な…」


(まあ、と言っても、あの自称魔法使いと同じで聖痕を自分なりに解釈しているだけなんだろうが…)


隙間の神以外の人間は不可思議な『力』のことを聖痕とは呼ばない。


と言うより、聖痕と言う名称も隙間の神が決めただけであり、本来の名称は違うのかもしれない。


それ故に、オーミーはこの力を『魔法』と、由来は『霊能力』と、言伝は『神の祝福』と解釈している。


力は同じでも、使い方も解釈の仕方も十人十色だ。


「まだ色々分からねえことはあるが、取り敢えず、こいつをぶっ飛ばせばいいんだろ?」


「ええ、恐らく違法聖痕使いです。支部へ連れていきましょう」


そう会話し、由来に身構える二人。


何しろ、一度は見せられたとはいえ、由来の聖痕は未知数…


油断は禁物だ。


「何かやる気みたいだな。はぁ、オレの霊能力チカラは『見えない者』専門の力だから、人間を相手にするのは苦手なのに…」


二人を挑発する気は無かったのか、ため息をつきながら由来が言う。


「行くぞ」


その声と共に棺が由来に向かって走り出す。


「暴力は嫌いだ。旦那なら『人間同士が傷つけ合うのは愚かなことじゃ』って言うだろうさ」


そういいながら、スッと身体の力を抜く由来。


「また消える気か!」


それを見て、棺が叫ぶ。


消える前に辿り着こうと走る速度を上げる。


「いや、そうじゃない」


それをキッパリと由来は否定した。


その瞬間、フワッと由来は浮かび上がった。


跳んだのでは無く、煙が立ち上るかのように浮かび上がった。


「なぁ! マジで幽霊なんじゃねえのか!」


それを見て、棺が叫ぶ。


「幽霊じゃないよ、ちゃんと足あるし…」


細い華奢な足を空中でブラブラと揺らしながら由来が言う。


由来の方に挑発しているつもりは無かったかもしれないが、それを棺は挑発と取った。


「このもやしっ子め…」


そう言うと、棺はグッと足を曲げる。


丁度、屈伸をするような感じに膝を綺麗に曲げる。


「?」


突然、準備運動を始めた棺に首を傾げる由来。


「飛べるのが自分だけだと思うなよ!」


瞬間、棺は地面を思い切り蹴飛ばし、飛翔した。


「なっ!」


「ハハハ! 触れた物を浮かせる力、手から離れて数十秒間浮遊させ続ける力! ならば!」


重さを感じさせないかのように、凄まじい速度で由来に向かっていく棺。


「オレ自身を浮かばせることに限界は無え!」


自分自身の重さを奪った棺は風船並みに身軽だ。


一度、地面を蹴った程度の衝撃でもロケットのように加速する。


「ッ」


その速度に慌てて由来が空中で回避行動を取る。


それでも棺は止まらない。


「うおおおおおおおお!………お?」


だが、それには致命的な、それでいて、間抜けな欠点があった。


そうだ。


どれだけ速くても身軽でも何もない空中で方向転換など出来るはずがない。


『直進しか出来ない』。


「しまったー!」


由来の横を通り抜け、そのまま棺は大空へ向かって飛んでいった。


「………こんな時、旦那なら何て言うだろ?」


あまりの事態に呆然とする由来。


「…全く、たまに真面目になると馬鹿なミスばっかりですね!」


憤慨しながら、衣が両手で何かを掴むような動作を始める。


「何それ?」


段々と光り始める衣の手を見て、由来が聞く。


「投げ縄です」


ヒュッと手の中に作り出した光る縄を投擲する衣。


その長さも自在に調整出来るのか、それはぐんぐん伸びていき、由来に迫る。


しかし、棺とは違い空中を自在に動き回れる由来に、あっさりとかわされてしまった。


「面白い霊能力を持っているね。いや、旦那なら『神の祝福を受けている』と言うだろうな」


癖なのか、再び他人の意見を例に出しながら、由来が言う。


「まあ、安心してよ。怪我をさせるつもりは…「今です棺!」…は?」


由来の言葉を遮り、衣が合図を出した。


「馬っ鹿! 奇襲中に叫ぶんじゃねえよ!」


「な…」


由来がその声に気づき、後ろを振り返ると、衣の投げた光る縄を掴んだ棺が迫ってきていた。


(投げ縄ではなく命綱…)


「くらいやがれ! もう向きとか関係無え!」


そう叫ぶと棺は聖痕を解除した。


風船のように身軽のまま衝突しても意味は無い。


綿で殴るようなものだ。


だから、棺は重力を元に戻した。


丁度、由来の頭上辺りで…


「重力ダイブだ!」


元の重さに戻った棺が由来に迫る。


それに対して由来は…


「………」


特に構えは取らなかった。


「くらえ!」


妙に余裕があるのが少し気になったが、構わず、向かっていく棺。


瞬間、『するり』と、


まるで幽霊とか煙とか、触れられないものを無理矢理掴もうとしたかのように、


棺は由来の身体を『すり抜けた』。


いや、より正確には『触れた衝撃で由来の身体が崩れたようでもあった』。


「何…」


「また会うことになると思うよ。棺」


顔も口も無い白い煙のような姿のまま、由来はそう言い残すと、消えた。


最初から存在しなかったかのように、


その不気味さだけを残して消えた。








「戻ったよ、旦那」


言伝の隣に突然現れた由来が言う。


いきなり現れたが、隣の言伝は、さほど驚いた様子はない。


「ほう、この町の神の祝福を受けた人間は全て把握したのか?」


「当然。オレの視力をなめないでくれよ」


自分の眼帯をしていない右目を指差しながら珍しく自慢げに言う由来。


「フン、ならば眼帯も外した方がよいじゃろう」


「コレは外せないんだよ。…と言うか、もしかして、そこの人達が旦那の口説き落とした信者?」


「…俗な言い方はやめろ。説き正した…とでも言えばよいか」


建物の中には由来と言伝以外にも人がいた。


数は三人。


若い男が二人に、女が一人いる。


共通して、首に何かを象徴するかのようなペンダントを付けている。


そして、共通して、表情が無い。


「このペンダントを高値で売ったりするの?」


「阿呆。ワシは宗教を統一することが目的じゃ。金銭など要求する訳ないじゃろうが」


「ほほー、じゃあ一つ貰っていい?」


近くに置いてあったペンダントを一つ取り、由来が言伝に聞く。


「入信するならな」


「ん。ならいいや」


「即答か」


「オレ、霊能者だからさ、幽霊とか見える訳で。なおさら、見たことないものは信じられないと言うか…」


「分かった分かった。さっさと行け」


「アイアイサー、将軍」


「誰が将軍じゃ」


妙に緊張感が無い、調子の狂う相方にため息をつきながら言伝は言った。

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