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スティグマ  作者: 髪槍夜昼
一章、史上最弱の異能者
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第十七話 遠出


「眠い…怠い…」


「もっと、しゃきっとしましょうよ棺」


勉強会の次の日、


つまり、テスト当日。


朝、棺と衣は通学路を歩いていた。


何故、この二人が一緒に登校してるのかと言うと、理由は単純。


朝、棺が家から出ると、衣が待っていたのだ。


昨日の勉強会で家を知ったからだろう。


パートナーとの交流を深める為らしいが、意外と行動力がある。


いきなり、声をかけられた時は棺も驚いたが、バイクを置いてきて、衣に合わせて徒歩で通学している。


「勉強の成果が出るといいですね!」


「そうだなぁ…はぁ〜、努力とか、慣れないことをしたから眠い」


適当に答えて、大きな欠伸をする棺。


律義で責任感がある一面もあるが、基本的に棺は無気力系不良だった。


「…そういえば、今日、兄さんは遠出をするらしいんですよ」


低血圧でテンションが低い棺に衣が話題を振る。


「遠出?」


「はい。だから、何かあったら支部の人に連絡しなさい…って、過保護過ぎますよね」


過保護なタイプの衣曰く、シスコンな兄、色雨を思い浮かべ、苦笑する衣。


「その過保護な兄が、どうして町を離れることになったんだ?」


「仕方ありませんよ、用事なんですから」


まだ苦笑を浮かべながら衣が言った。


「隙間の神の本部に用事があるんですから…」








「着いた…この町も久しぶりだなぁ」


駅に着き、電車から降りて江枕色雨が言った。


棺の町に比べ、都会で人が多い為か、駅にもかなりの人がいた。


棺達の町から少し離れた場所にあるこの町は、隙間の神の本部のある町。


と言っても、隙間の神の主な仕事は不可思議の隠蔽と研究の為、他の町と特に変わった所は無い。


唯一違うのは、研究機関としての技術を売ったりするなど、表に顔を出している隙間の神が、この町の本部な為、色雨の任せられている第185支部『星を見る会』のように、存在自体を秘匿しておらず、この研究機関としての『隙間の神』が表向き存在する。


つまり、一般人もその存在を(不可思議はともかく)知っていると言うことだ。


研究成果を売るには表にも顔を出さなければならないからだ。


元々、隙間の神は不可思議を研究するオカルトに近い研究機関であり、それが不可思議スティグマの存在を発見し、やがて、今のような不可思議を秘匿する組織になったと色雨は聞かされている。


研究機関としての側面を持っているのは、その名残だろう。


「師匠!」


色雨が物思いに耽っていると声がかけられた。


清楚そうで読書が似合いそうだが、実は師弟関係を大事にする色雨の元弟子、


繰上炬深だ。


「迎えに来てくれたのですか? 繰上炬深さん」


「だから! 他人行儀は止めて下さいよ! 私の師匠じゃないですか!」


敬語が不満なのか、炬深は言う。


「本部勤めの顔色を伺っている訳ではありませんが、立場が違いますしね」


「…私が一般隊士の時に鍛えてくれたのは師匠です! 大体、師匠の実力があれば最高戦力部隊の座天使スローンズだって…」


「『今』と『昔』は違うんだよ、炬深。ただ、『目につく全ての為に戦っていただけ』の昔とは違い、今の私には『守りたいもの』があるんだよ」


師匠が弟子の間違いを諭すように、色雨は言った。


「『目につく他の全てを見捨ててでも』…ね。そんな人間に、本部勤めは勤まらない」


「…師匠は変わりました。腑抜けました」


暗い顔で炬深が呟く。


全ての為には動かない。


その色雨の言葉にショックを受けているようだった。


「確かに腑抜けたかもね」


「腑抜け!」


炬深が叫ぶ。


「シスコン! そんなに妹が大切ですか!」


「…それ、関係ある?」


「もういいです! 師匠なんかどっか行って下さい!」


そう叫ぶと、炬深はズンズンと色雨を置いてどこかへ歩いて行った。


「…やれやれ、何をしに来たんだか」


その後ろ姿を眺めながら呆れたように色雨が言った。


(『アレ』以来、どうも、あの子とは距離感を計りかねてしまう…蔑ろにしてるつもりは無いんだけど)


「それに、『守りたいもの』には君も含まれているんだよ、愛弟子」








「腑抜け! 腑抜けの上にシスコン!」


ズンズンと苛立ちながら歩く炬深が言う。


(全く、あれほど、腑抜けているとは思わなかった! 一体、私が誰に憧れて隙間の神に入ろうと…)


「…って違う! 確かにあの頃の師匠は格好よかったけど…あんなに腑抜けて…」


(…そりゃあ、私だって、『あのこと』は知ってるけど…もう、五年も前のことじゃない…)


炬深は暗い顔をした。








「ようやく着いた、うろ覚えだったけど、意外と何とかなったな」


灰色一色の窓もあまりない巨大な倉庫のような建物の前に色雨は立っていた。


この建物が日本全ての聖痕使いを秘匿する隙間の神、本部である。


「さて、私が支部に引き込もっている間に色々と変わったらしいが…」


困ったように佇む色雨。


隙間の神トップである熾天使セラフの補佐をしている第一部隊、智天使ケルビム


本部の警護をしている第二部隊、座天使スローンズなどならともかく、


第六部隊、権天使アルヒャイは基本的に自分の支部を離れないので、色雨は本部に来るのは数年ぶりだった。


(トップも数年前に変わってしまったらしいし…どうしようか…)


「あれ? 珍しい人に出会ったであります」


色雨が考え込んでいると、再び声をかけられた。


どこかの国の軍服を学ラン風に改造したような服を着た女が立っていた。


きびきびとした動きや軍人のような口調の割に、顔立ちは若く、歳は二十前後だろう。


第七部隊、大天使アルヒアンゲロイ様土皆代サマツチ ミナヨだ。


大天使アルヒアンゲロイは危険と判断された違法聖痕使いを収容する『収容所』の管理を任せられている部隊なので、違法聖痕使いの引き渡しなどで色雨とは面識があった。


「そちらこそ、どうしたんだい? 君達が収容所を出るなんて…」


「いや、最近護送されてきた違法聖痕使いが奇妙なことを言いましたので、熾天使セラフに指示を求めようと来たのであります」


「奇妙なこと?」


色雨が皆代に聞き返す。


「はい、なんでも…」


皆代は尋問担当からの報告を思い出しながら言う。


「『反隙間の神の違法聖痕使いの組織』が存在するらしいのであります」

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