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スティグマ  作者: 髪槍夜昼
一章、史上最弱の異能者
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第十六話 楽しい勉強会


「…おい、ここはどう解くんだ?」


「ここはですね…」


棺が学校の問題集を広げ、衣に聞き、衣が答える。


いい加減に部屋を荒らすことを棺が止めさせ、勉強会を始めてしばらく経った。


問題がさっぱり分からない棺は度々、衣に解き方を聞いている。


危機感を覚えているのか、棺は明日までに何とかしようと必死である。


ちなみにレイヴは、


「………これは?」


「『驚愕キョウガク』ですよ」


教科書を読み、読めない漢字を衣に聞いている。


日本語がぺらぺらなので、忘れられがちだが、レイヴは外国人である。


ひらがなはまだしも、漢字は少し厳しい。


「…漫画は振り仮名が振ってあるのに…である」


「ある意味勉強になりそうだけどな…小説でも読め」


「読み聞かせてくれるなら考えてもいいである」


「幼児か!」


親切に振り仮名が振ってある漫画などは読めるが、それ以外は完全にダメなようである。


欠点があるのが嫌なのか、レイヴは妙に元気が無い。


まあ、色々言っているが棺からすれば英語を読んで、会話しろと言われているようなものなので、


実は棺の方が馬鹿なのだが両者とも気づいていない。


「そういえば、レイヴさんってどこの国、出身なんですか?」


衣が素朴な疑問を言う。


「それは秘密である。私はミステリアスが売りなのだから…である」


レイヴはそれにきっぱりと答えた。


お喋り好きだが、自分のことはあまり話したくないようだ。


「ただの嘘つきだろ」


横でボソッと棺が言う。


「旅をした国は言ってもいいであるよ? イギリスに、フランスに…あとは…」


「凄いです! 私は日本を出たことなんてないのに…」


羨ましそうに衣が言う。


海外に憧れでも持っているのだろう。


「普通はそうだろ。オレだってそうだ」


棺も日本を出たことが無いと答える。


と言っても、十歳より下の記憶は無いのだが…


「でも、赤髪ですよ」


衣が棺の一番の特徴、赤い髪と瞳を指差す。


「…それが?」


自分の前髪を摘みながら、棺が聞く。


「もしかしたら、外人で、外国から日本に引っ越したのかもしれないじゃないですか」


「…覚えていないので、否定する根拠は無いが、無理があるんじゃねえか?」


オレが外人とか無いだろう…だって納豆も梅干しも大好きだし…などと思いながら棺が言う。


「なら逆に、お前についてはどうだ?」


「え?」


質問されていた棺が質問を衣に返す。


「例えば、両親と何で別に暮らしてるのかとか…」


「…両親はいません。家族は兄さんだけです」


棺が固まった。


(ヤベー、兄妹だけで暮らしてる時点で察するべきだった、どうしよう、かなり気まずい、オレは両親の記憶なんて無いから分からないが、やっぱり、辛いんだろうな、どう慰めるか、いや、いっそ気にせず流した方が…)


ぐるぐると棺の頭の中を言葉と罪悪感が回る。


思わぬ失言で、衣も若干暗い顔をしてしまい、棺の罪悪感が増大する。


「ドゥルルル〜、江枕衣ちゃんの好感度が下がっちゃったよ、これは衣エンドは絶望的〜」


棺の横でレイヴが棺にしか聞こえないように言う。


かなり楽しそうである。


口調が変わる程に。


「…あ、気にしないで下さい」


「………」


「ここで選択肢、一『これからはオレが家族になってやるよ』、二『悪い、失言だったな…』、三…「黙れ」痛い!」


再び横で小声で楽しそうに言うレイヴに棺が拳をお見舞いした。


「何で殴るであるか〜…」


頭を抑えながらレイヴが恨めしそうに見るが、棺は無視した。


「…悪い、失言だったみたいだ」


あ、二番…とレイヴが小さく呟いた。


「いえ、大丈夫ですよ。今の私には兄さんや棺達がいますから」


空元気では無く、心からの笑みで衣が言う。


「今の?」


「はい。実は私、兄さんと血が繋がってないんです」


また失言だ…と棺は思ったが、そのことについては特に衣は何も思っていないようだ。


「家族を無くしてから拾ってもらったんです。書類上では養子なんですが…お父さんと呼ぶよりは兄さんの方がしっくりくる年齢差なんで…」


「はぁ、複雑なんだな」


その経緯も色々あったのだろうが、聞いても薮蛇、失言は避けたかったので、棺は詳しく聞くのを止めた。


つーか、家庭訪問とかの時に先生びっくりするだろうなぁ…と楽観的に棺は考えていた。


その隣のレイヴは、養女かつ義理の妹って、その兄さんを主人公にした方が面白そうである…などと言っている。








「右…いや、左…」


その後、しばらく話して集中力も切れたので、三人は気晴らしにトランプをしていた。


今しているのはババ抜き。


やたら運がよく、最初から二枚しか無かった衣は最初に上がり、棺とレイヴの一騎打ちとなっていた。


次に引くのは棺。


手にはスペードの七が一枚。


レイヴの手にはババとハートの七がある。


「棺、右であるよ。右がハートの七であるよ」


「心理戦か」


カードをゆらゆらと無意味に揺らしながらレイヴが言い、棺がジッとカードを見ながら言う。


「棺、私を信じて! 右を引くのよ! 左を引いちゃダメよ! きっと後悔することになるわ!」


「…変な声を出すな気持ち悪い」


声優や女優も真っ青な声と演技力でレイヴが言うが、慣れているのか、棺の反応は淡泊。


「…やっぱり信じてくれないのね…分かっていたわ、だってあなたは…「よし、左だ!」って、演技の途中である!」


棺はレイヴの演技を完全に無視して、左のカードを引いた。


あんまりな扱いに珍しくレイヴがツッコミに回った。


「…ゲッ! ババだと!」


しかし、レイヴの方が一枚上手だったようだ。


「ふう、私を信じないから後悔することになるのよ」


「そのキャラ、いい加減に止めろ!」


そういいながら、棺はカード二枚をシャッフルする。


「そんなことをしても無駄なのです。私には全て分かっているのです」


「今度は何か訳の分からないキャラになったな…」


「このレイ・アイは人の嘘を見抜くことが出来ます」


自分の目を指差して、レイヴが大袈裟な仕種で言う。


「えらく適当に付けた名前だな」


「左です」


「!」


「と見せ掛けて右です」


レイヴは素早く棺の手から右のカードを奪い取った。


「フッ、上がりである!」


それはスペードの七だった。


「くそー、何故分かった」


「棺は焦ると瞬きが多くなる癖があるのである」


「嘘!」


「嘘であーる」


「テメェ!」


いいように弄ばれた棺が怒って、立ち上がる。


それに合わせてレイヴも奇妙なファイティングポーズで立ち上がる。


「かかってこいである。一時間から二時間の間には沈めてやるである」


気合い十分の割に、てこずる予定のようだ。


「上等だ。頭にタンコブを山ほど作って、山脈にしてやる」


こちらもイマイチ決まらない決め台詞。


その後、乱闘は見兼ねた衣に仲裁されるまで続いた。

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