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スティグマ  作者: 髪槍夜昼
一章、史上最弱の異能者
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第十四話 レイヴの弱点


「…全く、昨日は酷い目に遭った」


病院での長い一日の次の日の朝、


学校へ登校する為に通学路を歩きながら、棺は愚痴を言った。


オーミーとの一件の後、隙間の神の盛大な隠蔽工作であの一件は秘匿され、新聞にも載らなかった。


具体的に何をしたかは、隠蔽する必要が無かった棺と間人は知らなかった。


(それにしても…)


隙間の神が隠蔽の為に色々としている時に、間人が言った言葉が棺は気になっていた。


一応、間人を車椅子にした奴を倒したが、捕まえることは出来なかったと、棺が伝えると、


間人は…


『確かに人魂のようなものを操る聖痕使いだったが、オレが出会った違法聖痕使いは女だった』と、言ったのである。


(最初から勘違いだったってのか…)


ますます、昨日の一件は骨折り損だったと思ってしまう棺。


(じゃあ、一体どんな奴なんだ? その女は…)


「おや、奇遇であるな」


考え事をしながら通学路を歩く棺に後ろから声がかけられた。


「…何だ、レイヴか」


「何だとは失礼であるな。今日の私はレディであると言うのに…」


棺の反応が気に食わないようで、レイヴが棺に文句を言う。


自分で言うように、今日はちゃんと女子の制服を着ていた。


男女の制服を日によって変えるなど、他人にはよく分からないこだわりが、レイヴにはあるらしい。


「どちらにせよ、お前を女扱いするつもりは無いな」


「そんなこと言って、実は意識してるのであろう? 二人きりの登校…これを衣に見られて…勘違いされ…」


「そんなラブコメするつもりはもっと無い」


楽しそうに言うレイヴに冷めた調子で棺が言う。


テンションが上がる時もあるが、棺は基本的にドライだった。


「…つまらんな。つまらんから、最近メル友になった衣に棺の住所でも教えておこう」


「人の個人情報を勝手に教えるんじゃねえよ! 電話番号の件もだが」


「良いでは無いか。さて、これに焦った棺は、家に急いで帰り、彼女を呼ぶ前の男子校生のように、掃除をして、アンダー・ザ・ベットのブックを…」


「しねえよ! そして、無えよ! そんなもん!」


「嘘つけ! 本で読んだぞ、君達のような年頃は頭の中が真っピンクだと!」


いつの間にか取り出した本をバンバン叩きながら珍しく大声を上げるレイヴ。


「どんな本とどんな偏見を持っているのかは知らないが、オレは潔白だ!」


「………なら、これで勉強するといい」


クールダウンしたレイヴがスッと本を棺に渡す。


「あ?…ってこれ、エロ本じゃねえか! なんて本を持っていやがる!」


「…最近のレディの嗜みである」


「嘘つけぇ! 大体何で登校途中の今、これを持ってるんだよ! 学校に持ってくるつもりだったのか!」


「……あーもー! 学校一の不良が優等生ぶってんじゃねえ!」


レイヴがややキャラを壊しながら逆ギレした。


「素が出たな! 学校一の電波娘が!」


「朝から元気ですね、二人とも」


「うおぉっ!」


段々と熱くなっていた棺が叫ぶと、またしても後ろから声をかけられた。


「でも、あまりのんびりしていると遅刻しま……」


声をかけた衣が何故か固まった。


「?……ゲッ」


棺がその視線を追うと、その先は棺の右手だった。


正確にはその手に持ったレイヴから渡された本。


ヤバイ…と棺は何故か、浮気が見つかった夫のような気分になった。


(レイヴ、説明を…)


何とかアイコンタクトでレイヴに助けを求める棺。


「…レイ、ニホンゴワカラナイヨ」


(テメェー!)


急に外国人になってそれは躱された。


よく見ると、微妙に顔が笑っている。


レイヴは使えない、そう思い、棺はどうにか言い訳をしようとする。


「衣、これは実は「学校に何て物を持ち込もうとしているんですかー!」」


させてもらえなかった。


聖痕でも無意識に使っているのか、とんでもなく速い一撃で、割と鍛えてる方の棺は沈められた。








「同級生の女の子におんぶされて登校する男子なんて初めて見たわ」


学校へ到着し、棺の意識が戻った所で棺の幼なじみで自称お兄ちゃん子の風夏櫛が言った。


同じ学校だが、クラスが違うので、いつもはあまり会うことも無いのだが、


気絶してレイヴにおぶってもらっている棺を見かけて何事かと思い、櫛も棺のクラスに来ていた。


ちなみに、クラスは棺とレイヴが二年一組、衣が二年二組、櫛が二年三組だ。


「うるせー、ちょいと予想外に威力のある攻撃が昨日いい感じにシェイクされた頭に響いただけだ」


「昨日?」


「何でもねえよ、傘で殴られただけだ」


「傘?」


棺の言葉に事情を全く知らない櫛は更に頭の上に疑問符を浮かべた。


「女の子におぶってもらった気分はどうだったであーるか? ムラムラっとするであるか?」


「気絶してただろうが。今は情けなさと恥ずかしさでいっぱいだよ…ったく」


「意外に大きな背中にドキッと…」


「…それは男女が逆じゃねえか?」


心底楽しそうに言うレイヴに棺が溜め息をつきながら言う。


「相変わらず、ノリが悪いであるな。全く、あのまま放置するか、衣に任せてもよかったのであるよ?」


「その件については助かったぜ。流石に見た目中学生に背負われるのはゴメンだし、何より、お前以外の女子だとトラウマでマッサージチェアみたいになっちまうからな」


「おお! 何かお前以外の女子ではダメなんだ…みたいな感じがグッドである!」


棺の言い回しに何故か機嫌が良くなるレイヴ。


グッと親指を立てている。


「…相変わらず、何言ってんのか理解できねえよ。お前は」


溜め息をつきながら棺は言った。








「ところで、お前にとっては災難だと思うが…」


「な、何ですか?」


昼休みになり、前回に続き屋上に棺、衣、レイヴが集まっていた。


櫛は昼休みは一緒に過ごす友達がいると言ったので、そちらに行った。


そして、何故か気の毒そうな顔をした棺が衣に深刻そうに告げる。


「実は明日、テストがあるんだよ」


「テスト?」


予想外の言葉に呆気に取られた顔をする衣。


「この学校に来たばかりのお前にはきついだろうが…「何だ、そんなことですか」…何?」


「え? だって私、勉強好きですし…」


「………」


衣の言葉に棺は固まった。


人間、信じられないものを見たり、聞いたりすると、思考が停止するものだ。


「もしかして棺、勉強苦手なんですか?」


「苦手なんじゃねえよ、得意じゃないだけだ」


棺は苦し紛れに衣に言い訳をする。


見た目不良で、中身も不真面目な棺は、やっぱり勉強も嫌いだった。


「どのみち出来ないんじゃないですか。レイヴさんとかに教えてもらったら…」


どうですか? と言おうと、衣が先程から黙っているレイヴの方をちらっと見て、今度は衣が固まった。


レイヴの様子がおかしい。


いつもの飄々とした、他人を小馬鹿にしたような雰囲気を粉々に崩し、


漫画みたいな冷や汗を大量にかいている。


「あの…レイヴさん…もしかして…」


「ご、誤解であるよ! レイに実は勉強が出来ないなんて弱点は無いであるよ!」


キャラをまた壊しながらレイヴが叫んだ。


「…こいつは日本語は読めるが、漢字が全く読めないんだよ」


「棺!」


一年の付き合いの悪友があっさりとばらした。


レイヴがこれまた珍しく怒って叫ぶ。


「…放課後、勉強会でもしますか?」


呆れたように衣が言った。

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