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第2話:満員電車と痴漢冤罪回避のジョジョ立ち、そして謎のファッション・ギャル

結局、一晩中「明日どうやって怒られるか」「どう言い訳して誤魔化すか」の脳内シミュレーションを繰り返したせいで、ほとんど一睡もできなかった。


翌朝。俺はベッドに横たわったまま、虚ろな目で天井を見つめていた。すでに目覚まし時計を二度も止めている。これ以上モタモタしていると、朝の全体ミーティングに遅刻してしまう。

俺は仕方なく布団から這い出した。


この六畳半ほどの狭い単身アパート(ワンルーム)が、俺の普段の拠点だ。

万年床のベッドの他には、リビングにちゃぶ台が一つと、壁に掛けられたたった一着のスーツがあるだけ。空いているスペースは、捨てそびれた色とりどりのゴミ袋で埋め尽くされている。

控えめに言って、予備軍レベルのゴミ屋敷(トラッシュ・ルーム)だ。


俺の視線が、この空間には絶望的に似合わないちゃぶ台の上の「ガラケー」に止まった。

今日どこかで交番にでも届けようと思っていたが、よく考えたら、底辺社畜の俺にそんな寄り道をしている時間などあるはずがない。

身支度を整えた後、俺はとりあえずそのガラケーをビジネスバッグに放り込み、家を出た。


いつもより30分早く家を出たというのに、駅は普段の通勤ラッシュと変わらないほど人で溢れ返っていた。

なんだよこれ。今日は満員電車を回避できると思ったのに。お前ら、一体なんのモチベーションがあって30分も早く出勤してんだよ。これが日本のサラリーマンの極限の同調圧力ブラック・スタンダードってやつか!?


慣れた足取りで人の波に乗り、電車に押し込まれた俺は、ふと息をつこうとして――絶望した。

なんと、俺の前後を二人の女性に挟まれていたのだ。


うわぁ、これは最悪の陣形だぞ。

今の時代、満員電車でうっかり女性の体に触れようものなら、一発で『痴漢』のレッテルを貼られて人生が終了(ゲームオーバー)しかねない。痴漢冤罪(ちかんえんざい)は現代を生きる男にとって最大の恐怖なのだ。


仕方ない。俺は長年の満員電車通勤で培ってきた、秘伝の『体幹バランサー』を発動させることにした。

つり革がなくても、電車の揺れに合わせて完璧に姿勢を維持する絶技である。


「うおっ!」

電車が発車した反動で、後ろに立つ中年女性の体――正確にはその立派なお尻が、俺の下げた手に向かってダイブしてきた。

俺は咄嗟に両手をバンザイするように高く挙げ、この一撃を完璧に回避する。


だが、ホッとしたのも束の間。今度は電車が急ブレーキをかけ、前方に立つ若いOLがこちらに倒れ込んできたのだ。

ここで絶対に彼女を支えたりしてはいけない。そんなラッキースケベで好感度が上がるのは、スマホの中の二次元美少女ゲームだけだ。現実でやったら即通報である。


俺は後ろの中年女性にぶつからないよう細心の注意を払いながら、上半身だけを大きく後ろに反らし、OLとの間に絶対的なパーソナルスペースを確保した。


「……ぷっ!」

なんとか危機を脱し、安堵の息を漏らそうとしたその時、微かな吹き出し笑いが聞こえた。


笑い声の主は、俺のすぐ横の座席に座っている、女子大生くらいの若い女の子だった。

綺麗なボブヘアに、ダボッとしたオーバーサイズのパーカーとパンツ姿。どう見てもこの殺伐とした通勤ラッシュに似つかわしくない、ゆるふわな雰囲気を漂わせている。

首にはヘッドホンをかけ、傍らにはスケッチ用の画材らしきものが入った大きなトートバッグ。


ああっ、俺の人生には絶対に交わることのない、陽キャ(ファッション・ギャル)だ!


しかも、彼女は自撮り棒を持っており、その先端に固定されたスマホのレンズが、バッチリ俺の方を向いているではないか。

……え? 撮られてる?


ハッとして自分の姿勢を顧みると、下半身は完全に固定されたまま上半身だけが異様に反り返り、まるで『ジョジョ立ち』のような奇妙なS字カーブを描いていた。

前のOLが体勢を立て直したのを見計らい、俺は慌てて「気をつけ」の姿勢に戻る。


俺の慌てふためく様子を見て、ボブヘアの彼女は完全にツボに入ったらしい。口元を両手で必死に押さえ、肩を震わせて笑いを堪えている。

俺の顔は、往復ビンタを食らったようにカッと熱くなった。


もし俺がコミュ力お化けコミュニケーションつよつよのリア充なら、ここですかさず気の利いたジョークでも飛ばして、あわよくばフラグを立てていたかもしれない。

しかし悲しいかな、俺は筋金入りの対人恐怖症(コミュ障)社畜である。ナンパはおろか、彼女に「撮らないでください」と注意する勇気すら持ち合わせていない。


やがて、ようやく目的の駅に到着し、俺は逃げるようにして人の波と共に電車から転げ落ちた。


今日は朝からなんてツイてないんだ。

この後、会社でどんな地獄(クソ上司)が待ち受けているのか、もはや想像することすら恐ろしい。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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