第1話:深夜のコンビニと、既読スルーされた俺の祈り
午後11時。まるでタイムカードを押すかのように、俺はきっちりと同じ時間に近所のコンビニへと足を運んでいた。
この時間に俺が来ることにすっかり慣れきっている店員は、チラリとこちらを一瞥しただけで、すぐに品出しの作業に戻っていく。
俺は弁当コーナーにポツンと残っていた売れ残りのツナマヨおにぎりを一つと、ミネラルウォーターを手に取り、レジへと向かう。
顔馴染みといえば顔馴染みなのだが、極度のコミュニケーション障害である俺は、毎回逃げるように会計を済ませて退店するだけ。いまだに会釈すらかわす間柄にはなれていない。
コンビニを出た途端、深い溜め息が漏れた。
これは決して、小腹が空いて買いに来た夜食などではない。正真正銘、本日の『夕食』である。
定時は18時のハズなのに、俺が業務を終えられるのは基本的に毎日22時を回ってからだ。
今夜もそうだ。今日こそは早く帰れると思っていたのに、上司が外出していて捕まらず、クライアントに提出するレポートの承認が下りなかったのだ。
レポートの主担当である俺は、上司がチャットツールに「OK」の二文字を書き込むまで、ただひたすらオフィスで待機するハメになった。
そして、こんな深夜に相手が確認するはずもないレポートを送信し、ようやく帰路についたというわけだ。
「……は? 嘘だろ」
遅すぎる夕食すら、平穏には食べさせてくれないらしい。
今更になって、さっきのレポートに対するダメ出しの嵐がチャットに投下されたのだ。
おまけに『明日は全員、30分早く出社してミーティングを行うこと』という理不尽な全体連絡まで添えられている。
終わった。これで今夜の安眠は完全に消え去った。
俺のせいでとばっちりを受けた同僚たちが、裏でどれだけ俺を呪っているか想像するだけで、胃に穴が開きそうだ。
食欲も完全に失せ、俺は半分かじったおにぎりをゴミ箱に放り投げ、重い足取りで家路を急いだ。
その時——ふと、道端に落ちている微かな人工の光に気がついた。
スマホだ。
拾い上げてみると、それはなんと『ガラケー』だった。
令和のこの時代に、誰がこんな化石みたいな携帯を使っているんだ? 何かのタチの悪いイタズラだろうか。
周りを見渡してみても、ドッキリ番組のスタッフが看板を持って飛び出してくる気配はない。
『ティロリロリンッ!』
突然、RPGでレアアイテムをゲットした時のような、やたらと壮大なファンファーレが鳴り響いた。
【神様サポートシステム】
最終クライアントをロックオンしました。
――ようこそ、日向 悠斗様。
あなたの願いをどうぞ。
「……は?」
画面に表示された意味不明な文字列。
やはり、手の込んだイタズラとしか思えない。
ブラック企業への怒りで自暴自棄になっていた俺は、キーパッドを乱暴に叩き、短い文章を打ち込んだ。
『だったら、明日の朝、クソ上司に怒られないようにしてくれよ!』
送信ボタンを押すと、そのメッセージはチャットアプリの吹き出しのようになって、さっきの画面の下にポンッと表示された。
しばらく画面を睨みつけていると、その吹き出しの横に、見慣れた小さな文字がスッと浮かび上がった。
『既読』
「いや、LINEかよ!?」
しかし、それから数分待っても、返信の吹き出しが現れることはなかった。
――既読スルー。
こんな得体の知れないものに、一瞬でも「願いが叶うかも」なんて期待してしまった俺が馬鹿だった。藁にもすがる思いとはまさにこのことだ。
完全に限界を迎えている証拠だな……。
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