初恋の彼は理想的な王子様ではなかったけれど、箱を開けてみたらなんだか可愛い人でした
「今から弱っているところにつけ込ませていただくので早いところ絆されてくださいね?」
自分でも驚いている。諦めたはずだった。遠い昔に諦めた恋だったのに。初めて見た弱っている姿に落ちてしまったのだ。ずっぽりと。
「それは、どういう意味で言っている?」
「あら、分かりませんか?」
珍しく困惑している彼に不敵な笑みを浮かべてみる。若干不敬かもしれないが、そんなこと言ってられない。押すなら今だろう。
「君はそんな素振りを見せたことなど」
「そうですね。私が恋に落ちたのは今のあなたですので」
「揶揄っているのか?それならやめてくれ。こちらは傷心中なんだぞ」
「いいえ。自分でもびっくりするくらい本気です」
悪食だと思う。相手は由緒正しき筆頭公爵家の嫡男で、今を時めく王太子殿下の側近だ。出世頭No.1。同世代の令嬢人気を殿下と共に二分している。
容姿端麗でクールで仕事ができると大人気。「あの怜悧な目で見つめられたい!」とか、「アンニュイな雰囲気が素敵!」とか、「あーん、とってもクール!そんなところもいい!」とか言われている。が、ただ仕事中毒なだけだ。
後輩の立場からすればめちゃくちゃ仕事は出来るし、尊敬もしているけど鬼だとも思っている。
そんな男の振られて弱っている姿に落ちてしまうとは…恋とは難儀なものである。
「でも、初恋はあなたでしたから。変でもないのかも」
「は?」
驚いている相手に気付きながらも、昔を思い返した。
馬鹿だと思われるかもしれないけど一目惚れだった。初めて子ども同士の交流の場に招かれた時、私を助けてくれたのが彼だった。あの頃の私は優しい家族と親戚、使用人しか知らなかったから悪意に慣れていなかった。
いきなり知らない男の子たちに囲まれて罵られた。彼はお母さまに買っていただいた髪飾りを取り上げられて絡まれて泣き出した私を助けてくれた。その場をおさめて私を優しく宥めて、両親が来るのを一緒に待ってくれた。
慌てて迎えにきたお父さまに泣きながら抱きついた。馬車に乗って揺られながら落ち着いた私はお父さまにこう告げたのよね。
「私あの方のお嫁さんになりたい!」
驚きつつもお父さまは苦笑した。彼は筆頭公爵家の嫡男であった。名はレオナルド・フォレスター。
「それなら素敵なレディにならないとね」
余談ではあるが、お父さまは帰ってからお母さまに泣きついたらしい。
それから彼のことをずっと目で追ってきた。彼の隣に立つために礼儀作法や学問に力を入れて、素敵な淑女になってから御目通りを願おうと思っていた。
うちは侯爵家で、派閥としては中立。王家派の公爵家とは相性は悪くはない。数代前には王女が降嫁されたこともあったし、王室に嫁いだ者もいる。血が近すぎることもない。唯一無二な利点があるわけではないが、明らかな瑕疵はない。
まあそんな悠長なことをしていたから、他の婚約話があっという間に締結して実際にお声をかける前に私の恋は終わりを告げたのだけれど。
いざ彼と婚約者の方が寄り添い立つ姿を見れば、とてもお似合いだった。
この時にきちんと自分の気持ちを諦められたのだと思う。いや、これは綺麗事だ。諦めないといけないと実感したのだ。
潔く負けを認めよう。私も貴族の端くれ。身分相応の振る舞いが求められる。
中央貴族と地方貴族の仲立ちをするその婚約は、私の家から得られる利益などとは比べ物にならないほど尊いものだった。
私には私の出来ることを。
せっかく色々身に付けることが出来たのだから積極的に動いていれば王太子殿下からお声がけいただいた。
お輿入れ予定の隣国の皇女であるセレーナさまの付き人候補として招集され、殿下の側近と扱かわれることになった。
学ぶことは嫌いではなくなっていたため語学、政治経済、護身術を身に付けいくつもの面接を突破して私はその立場を手に入れたのだ。
付き人とは言え王太子殿下につく側近とは異なり期限は決まっている。セレーナさまがお越しになり実際に結婚式を迎えられるまでのサポートと、その後の相談役兼友人としての役割だった。
王太子妃教育と官僚教育に準ずる教育を受けられたのは幸運であった。
セレーナさまは自国から女性の付き人も連れて来られる。ただ学んでいたとしても国の違いは実際に体験してみないと分からないことも多い。言葉が通じても文化の背景の違いから誤解を招くことがこれまで多々あった。そのため国内の同性のサポートが付くことになっているのだ。
友人として仲良くなればその後の社交もしやすくなるし、こちらとしても王太子妃と仲良くなることはありがたいことである。
勿論王妃様や指導役の婦人が教育としてはメインだ。ただ彼女たちはいつでもついていられる訳ではない。そのためのサポートである。
王太子殿下の側近候補としてフォレスターさまもいた。過去の面映い気持ちを思い出して少し緊張した。浮ついた気持ちを見せるわけにはいかない。最初は不安であったけれど忙しすぎてそんな気遣いはあったという間に消し飛んだ。私情など挟んでいる余裕などなかった。気が緩んでミスしようものなら叱責が待っていたし、柔らかな物腰は表向きでかなり容赦なかった。
女性は私を含めて2人で、未来の王太子妃殿下につくことがほぼ確定しているからそれは仕方ないことであった。もう1人は別の派閥の侯爵令嬢のレティシアさまだった。
彼女は侯爵家にセレーナさまの親戚が嫁いだ縁があり選ばれていた。さっぱりして付き合いやすい令嬢であっという間に仲良くなった。
(側近になって1番得難い縁は彼女だったかもしれないわ)
彼女と泣き言を言いつつも続けていればそれなりにこなせるようになったし、国のために働く充足感も得られた。
この頃には彼に対する感情は尊敬と畏怖で五分五分だった。お茶会で紹介された彼の婚約者のミリアさまとの方が仲良くなったと思う。
たまにセレーナさまがお越しになられた際にはお側につき、彼女とも仲を深めてこられたと自負している。
ゆくゆくはセレーナさまの側近になるとしても、まだ彼女は本国を拠点にしていない。
来年隣国の学園を卒業されてからお越しになり、我が国の学園に2年間通いつつ顔見せの期間を経て婚姻となる予定だ。
ちなみに我が国の王立学園は6年制だ。13歳で入学し、まず初等教育やマナーを学ぶ最初の4年間。これを終えれば社交界デビューとなる。この初等科は領地が遠方だったり、やむをえない事情があれば義務ではなく、家庭教師で学んだ後試験に通れば合格と見做される。
後の2年は実践的な学びとなり、領地運営や官僚、侍女、医療職など自分の将来に合わせて選ぶことになる。高等科を卒業することで貴族として箔が付く。
領地で基礎を学び試験に合格すれば高等科だけ通うことも可能だ。早くして爵位を継ぐことになった嫡男などもこの方法を取ることがある。
セレーナ様は2年間高等科にも顔を出して同世代との交流を深めつつ、公務に打ち出していくことになる。
セレーナさまがいらっしゃるまでは王妃さまの側に派遣されるはずだった。しかし王太子殿下からの要請でそちらに借り出されることになった。お輿入れ準備で忙しく猫の手も借りたい状況だったからだ。
他の官吏ならともかく、殿下の側近に女が付くには面倒なことも多い。後ろ指さされることがないよう気が抜けなかった。
側近として採用される見込みが立ってから婚約話はあった。親戚筋の伯爵家の嫡男と婚約する予定だったが、状況が変わり見送られた。
どちらかに瑕疵があった訳ではなく、相手側に経済的に結びついたほうがいい縁が出来て白紙になった。
「まあ君なら婚約者がいなくても、大丈夫だろう」
と苦笑しながら言われたのは何だったのか。少々解せない。
王太子殿下とセレーナさまの仲は良好だった。私の仕事の一環でもあるので、辺境伯家との仲介も考えてミリアさまとも引き合わせた。
何度か開いたお茶会ではフォレスターさまも参加して婚約者同士仲良くしていたように思えた。
それでも彼らの仲は側から見たら良好で、お似合いであった。つまるところ、青天の霹靂であったのだ。
王太子殿下が今年初等科の卒業を迎える。そのため卒業パーティーではお祝いとしてセレーナさまが入場されてお言葉をいただく予定になっていた。殿下の周囲は例年にもまして慌ただしく動くことになった。
卒業パーティー自体は無事に終わった。事件が起こったのは国家の来賓が退場され、卒業生とその保護者と在校生だけで少し懇談していた時だった。貴賓のお見送りが終わり会場の入り口付近にいた。そろそろ殿下たちは引き上げて晩餐の準備をしようかと相談していた。
「レオさま、少々お時間いただけませんか?」
声を掛けてきたのはミリアだった。少し余裕のないように見える。
「ミリア。申し訳ないが、殿下が退場されるのについて行かなければならない。後で必ず時間を取るから」
「私来週には領に戻りますの。その前にどうか会えませんか?」
「最近あまり時間が取れていなくてすまない。来週までだと難しいが、必ず」
彼女の目から涙が溢れた。
「私、もう無理です」
「お願いです。婚約を解消していただけませんか?」
たまたま静まっていた会場にその声は想像以上に響いた。まずい。視線がこちらに集まってくる。婚約解消なんてゴシップネタ興味が湧かないはずがない。これ以上注目を浴びないように、誘導すべきだった。
視線を動かすが困った時すぐに動く彼は衝撃で固まっていた。王太子殿下や皇女さまに動かれてしまっては更に大事になってしまう。
王太子殿下と視線が合い許可を得たのでセレーナさまに一礼して、私は彼女を控え室に連れて行った。
ソファに腰を掛けて貰っている間にお茶の用意をする。人はなるべく少ないほうがいいだろうと侍女には退室してもらった。ハーブティーを入れて机に戻る。
彼女は俯きながらハンカチを握りしている。私が近づいてきたのに気付き口を開いた。
「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
王太子殿下は今年卒業された。私は来年卒業の予定だ。彼女はもうひとつ下の2学年である。ちなみにレオナルドさまは昨年高等科を卒業されているので5つ年が違うことになる。
友人ではあるものの家同士の話に口を挟んで良いのか迷う。それでも放っては置けなかった。
「話せるところだけで構いません。少し肩の荷を下ろしてみませんか?」
俯きながらもぽつぽつと溢れる言葉に相槌を打つ。返答は早すぎると追い詰めてしまうかもしれないからなるべくゆっくりと心がけた。
彼女の背中をさすりながらどうしたものかと頭を悩ませる。一言で言ってしまうとすればすれ違いだ。あと性格の不一致にも繋がるかもしれない。
遠方の辺境伯領から出てきて彼女は去年の春から学園寮で生活している。まだ14歳の少女が親元を離れて暮らすのだから寂しくないはずはない。
仲の良い友達がいてもその寂しさは緩和はされても無くなりはしない。彼女が兄弟や乳兄弟に囲まれて、賑やかに仲良く育ってきたことも一因ではあるのだろう。王都のお上品な、言葉を選ばなければ寒々しく希薄な人間関係に疲れてしまった。
彼女の兄弟は学園に通う年ではないし、武力の要である辺境からは気軽には離れられない。乳兄弟は学園に通える身分ではあるが彼らは既に働いていた。
婚約者を頼ろうにも彼は彼で側近として動いているので忙しくあまり時間が取れない。3回に1回約束が取り付けられればいい方であった。その約束も忙しい時は立ち消えになってしまう。
去年までは学園で会えることもあったが、今年は卒業してしまったため会う機会もめっきり減ってしまったようだ。
彼が悪いのかと言えば、そうも一概には言えなかった。私は彼の多忙さを知っている。だから忙しさの割には婚約者との時間を何とか捻出していた。会うのが難しくなれば埋め合わせとして花束やら装飾品を送っていたし、必ず手書きのメッセージも添えていた。
(知っているのは私も側で書類に追われていたからである)
月1の交流会だけは必ず休みを取り、参加していた。まあ殿下の初等科卒業で忙しくここ数ヶ月は時間が取れなかったことも仇になったのだろう。
彼の対応は一般的な婚約者として外れてはいない。彼女が王都にタウンハウスを持ち、家族と共に暮らしていたのなら問題にならなかっただろう。
長期休みしか家族に会えない寮暮らしの彼女だから合わなかった。最初はホームシックだったのだろう。レオナルド様が忙しすぎて、領地にも迷惑掛けられなくてにっちもさっちも行かなくなってあの場で限界を迎えてしまったのか。
(あの忙しさで顔色の悪い彼に甘えるのは気が引けるか)
「分かっているのです。私の我儘に過ぎないと。でも…」
ハンカチを握りしめて言葉に詰まる彼女には以前の快活さが見られなかった。このまま寮に帰すのも心配だ。侍女からメッセージを受け取り今日はもう直帰して構わないと言われている。
(ここまで来たら乗りかかった船でもあるし、放って置けないわね)
「もしよかったらこのままうちにいらっしゃいませんか?」
まさか辺境から彼女のお兄様が迎えに来るまでうちに留まられるとは思わなかったけど。
彼女の兄は土下座をする勢いでうちに来られた。妹を叱って2人揃って謝罪された後とても貴重な交易品の香辛料や天然石なども置いて帰って行かれた。
彼女が丁寧にお礼を言って去っていく頃には大分メンタルは回復して見えた。
3ヶ月後、新学期が始まって学園で会った彼女は元の快活さを取り戻していた。再度丁寧な謝罪をいただいて、前もって予約されたサロンで向かい合っていた。
「アリシアさまにはお伝えしておかないとと思いまして。私の事情に巻き込んでしまいましたから」
晴れ晴れとした姿に仲直りしたのかと安堵しているとにこやかな笑顔であっさりと告げた。
私フォレスターさまと婚約解消いたしました、と。
思わず吹き出しそうになったのを堪えて、彼女を見る。驚きますよね、と穏やかに笑われて何を言っていいのか分からない。
「よくよく考えてみたのですが、やっぱり私には合わなかったのです。それが分かったのはアリシアさまのお家にお邪魔させていただいたからというのもあります」
「どういうことでしょうか?」
うちで何か粗相でもあったか? やんちゃ盛りの弟妹を思い返して頭を抱えたくなってきた。
「温かいお家ですよね」
「…賑やかなだけかと思いますわ」
「実家も同じような雰囲気だったので、懐かしくて。こういう家に嫁げたらと思ってしまったのです。元々婚姻ありきの業務提携ではなく、業務提携が先でせっかくならばというお話だったので解消もスムーズに進みました」
「そうだったんですの」
重ね重ねお礼を言って爽やかに去って行かれた後ろ姿を呆然と見やる。なるほどねえ。脳裏に仕事中毒者を思い浮かべる。最近いつにも増して顔色が悪い理由が分かってやるせない気持ちになった。切り替えられると女性の方が淡白って本当だったんだわ。
王宮で会った際、彼はどんどん顔色が悪くなり、目元が暗くなっていた。ついつい彼を見かねて声を掛けてしまった時からこうなる運命だったのかもしれない。
王宮には労働者が休める喫茶スペースがいくつかある。高位貴族向けの場所なのでプライバシーは配慮されている。
忙しさに目処が立ってきたので終業後にほぼ無理矢理連れて来た。少しは吐き出さないと健康に悪そうだ。だがこうなるとは正直思っていなかった。
少しだけ酒精の入った飲み物を口にしただけなのに、気が付けば項垂れて管を巻いている。
仕事では一切見たことのない情けない姿に心臓がいつもと違う音を立てた。きゅん。
(え?)
泣き言はとめどなく流れてくる。全く以て格好良くない。というか格好悪い。目元に光る雫に目を奪われた。ぎゅん。
胸に手を当ててみる。いつもより鼓動が早かった。
(ときめいてるの? 私。この情けない姿に?)
顔を赤くして涙目で見上げられて、とどめと言わんばかりに撃ち抜かれた。
(私趣味悪いわ)
頭を抱えたくなりつつ、相槌を打っていればいきなり静かになった。隣を見てみれば突っ伏して眠っている。その寝顔は年よりも若く見えた。
(仕事で疲れているだろうし、気心知れた仲とはいえ異性の前で寝てしまうとは)
私の侍女に連絡して彼の使用人を呼んでもらう。慌ててやってきた使用人は主人の姿に目を見張ったものの、すぐに表情を戻した。
主人を揺するものの言葉にならない声をあげる。何度かやり取りをした後目が開いた。状況把握に少し時間が掛かったようだが、視線が合うと気まずそうな顔をされた。
「……忘れてくれ」
「私が誘ったので誰にも言うつもりはありませんが、もう少し警戒心は持ってくださいね」
そうじゃないとハンターと化した女性陣に既成事実作られますよ、と言外に滲ませておく。
「フォレスターさま」
このまま帰すのは口惜しいと思った。話だけ聞いてさようならでは割に合わないかもしれない。振り向いた彼に笑顔を向ける。
「お辛いでしょうが…早く立ち直ってくださいね」
「あ、あぁ。大分すっきりした。吐き出させてくれてありがとう」
君はいいやつだな、とこちらが毒気抜かれるくらい面映そうな顔で見られる。アルコールが抜けてないこともあるのだろうが、無防備過ぎる。釘でも刺しておくか。
「いいえ。全く下心がないわけでもありませんので」
「へ?」
ここで冒頭に戻るわけであるが、何を言ったのか分からないと言う顔でこちらを見た。
「今から弱っているところにつけ込ませていただくので早いところ絆されてくださいね?」
(つい言ってしまったわ)
あの後次の日も仕事なので解散になった。随分と惚けていたけれど大丈夫だろうか。帰りの馬車で外を眺めていれば、侍女のサラからの視線が痛い。もっと前から気付いていたけれど、観念して彼女と目を合わせた。好奇心で満ち溢れたその目に苦笑する。主人の許可を得たと言わんばかりに口を開いた。
「お嬢さまはフォレスターさまがお好きだったんですか?」
ど直球がすぎる。
「初恋ではあるけど、好きになったのはさっきかしら?」
「へ?」
きっかけを話しつつ、父にどう話をつけるか思考する。おそらく縁談を持って行くことは反対されないだろう。家的には不足はないはずなので、後は本人次第か。
(まあ、婚約者もいたことがあるし大丈夫でしょう)
私は知らない。
翌日からしばらくの間動揺した彼に避けられるようになることも。
彼の両親は縁談に乗り気でデートが組まれるが呆れるくらい緊張してろくに会話が進まなくなることも。
なかなか話が進まないので私に縁談話が来て彼がやきもきすることも。
最終的に王太子殿下の方が痺れを切らして追い込み漁をすることになることも。
ついでに辺境伯家のミリアさまがうちの弟といい仲になることも。
その時の私には知る由もなかった。
それでもめでたく結ばれて明日は結婚式。さすがに視線が合うようになった彼はスピーチではなく、誓いのキスに緊張している。
彼の名前を呼ぶ。穏やかな表情で振り向いた彼の頬に両手を添えて、つま先立ちになる。そっと触れれば薄い唇は思いの外柔らかかった。
先に練習してしまえば緊張が和らぐかと思ったけれど反応がない。顔を覗き込めば真っ赤にしたまま固まっていた。そう言えば、こんな顔ばっかり見ているかもしれない。
初恋の彼は理想的な王子様ではなかったけれど、箱を開けてみたらなんだか可愛い人だった。




