5話 覚悟と信念
その後、俺たちは身体検査をされ怪しいものがないと分かり何とか城塞都市ドルームに着くことができた。手錠付きだが。
城塞都市ドルームは高い壁で魔王軍の攻撃から守っている。ドルームに入ると壁の内側は対魔王軍兵の軍用基地になっており、その敷地に立っている立派な建物に俺たちは連れられた。そのまま地下の面会室に入れられ別々に事情聴取を受けることになった。俺の質疑応答を担当する人は軍服を着たかっこいいお姉さんでちょっと嬉しかった。
「では始めます。私はスキル『真偽鑑定眼』を持っているので、嘘をついた場合はすぐにバレますから気をつけてください。」
スキル――この世界の人は皆6歳になると神から一つギフトを授かる。魔力量向上や、火魔法強化などの一つの能力を伸ばすようなスキルが一般的。だが、稀に剣聖、勇者、聖女などの特別なユニークスキルを授かるものもいる。
「まずは名前、性別、年齢、職業を教えてください。」
「クロム・フェーブル、9歳、男、職業はなし。」
クロム・フェーブルという名前はレオンがこの体にいたときに使っていた名前だそうだ。この世界では俺は千之という名前を捨てクロムになった。ちなみにレオンという名前はレオンが自分で考えたらしい。
「嘘はないようですね。次にあそこで何をしていたのですか?またもう一人君と一緒にいた男は仲間ですか?」
この体に召還された今、俺の名前は千之ではなくこの体についてた名前、つまりクロムが今の俺の名前になるため嘘をついたことにはなっていない。
「あそこではゴブリンと戦っていました。あいつは一応仲間です。」
「では、君はこの都市ドルームまたはプルセリア王国に危害を加えるつもりはあるか?」
「ないです。」
「嘘はないみたいですね。とりあえずもう一人の証言と合わせて上に報告します。あなたが釈放されるかどうかは上が判断するでしょう。それまで君たちには牢屋にいてもらいます。それでは。」
そう言いお姉さんは部屋から出て行った。ご褒美の時間は終わってしまったようだ。
その後レオンと合流し、一緒の牢屋に入れられた。
「何聞かれたんだ?」
レオンが俺に訪ねてきた。
「名前とお前との関係とこの国の敵かって聞かれたな。」
「そんだけか?僕は結構細かく聞かれたぞ。」
「俺を担当してた人は真偽鑑定眼ってスキルを持ってたからな。その違いだろ。」
俺たちは牢屋の窓から見える空を見ながら何気ない会話を続けた。
「なあレオン。俺は爆弾魔捜しは抜けさせてもらうよ。足手まといだろ。実際あれから3日は無駄にしてる。この軍で鍛えることにするよ。」
「君、そんなことを考えていたのか。」
驚いたレオンが俺を見る。どうやら俺が悩んでるのには気付いていたようだ。
「ああ、俺のせいでお前の目標が遠のくのが邪魔しているようで、俺にやさしくしてくれるお前を見るたびに辛くなるんだ。ごめんな恩をあだで返すようなことして。」
俺はレオンの目を見ることが出来なかった。
翌日俺たちの無実が分かり無事釈放された。レオンはまずこの町で情報集めするらしい。俺はさっそく軍に行くことにした。
「今まで世話になったな。」
「ちゃんと強くなるんだぞ。」
そう言い俺たちは違う道を歩んだ。
この城塞都市ドルームは北と南に分かれており、魔王領側の北に軍事施設が密集していて、南に宿や飲食店、住宅などがある。俺はドルーム北側の真ん中に位置するドルーム軍本部に行くことにした。
「あっ」
本部に向かう途中に偶然昨日助けてもらった金髪の女の人に出会った。
「こんにちは。」
一応挨拶した。すると向こうから返事が返ってきた。
「君は昨日ゴブリンに襲われてた子供か。ここから先は軍事施設しかないぞ。何しに行くんだ。」
女の人は俺を疑い深い目で見てきた。
「軍に入って鍛えようと思って。」
俺は正直に答えた。というかあんなものを目の前で見せられて嘘をつける度胸俺にはない。
「子供が軍に入れるわけないだろ。軍の入団は16歳からだぞ。知らなっかったのか?でも君素質はありそうだからな、私なら付き合ってあげてもいいぞ。」
残念なお知らせと嬉しいお知らせが同時に入ってきた。でも鍛えてくれるというならとてもありがたい。
「本当ですか?じゃあさっそくお願いします。」
「え、今すぐか?」
金髪のお姉さんは俺の急なお願いに驚いていたが少し考えたあと結論を出してくれた。
「私も仕事がある。1時間だけだぞ。」
「押忍!」
「おす?なんだそれは。」
「え?知らないんですか?ってここは日本じゃないのか。えーっと、気合を入れるための掛け声的な奴ですよ。」
「まあいい。壁の外の魔境森林でやるからついてこい。」
そう言われ俺はお姉さんについていくことにした。どうやら俺がゴブリンと戦ったところは魔境森林と言うらしい。おっかない名前だ。
「ちなみにどのくらい魔法は使えるんだ?」
お姉さんが訪ねてきた。
「身体強化と治癒魔法を覚えたばかりです。お姉さんはどのくらい強いんですか?」
「私がお姉さん?」
お姉さんと呼ばれ少し嬉しそうだった。
「私をお姉さんと呼ぶのはやめてくれ。そうだな、私のことはこれからグレイスと呼んでくれ。私の名だ。ちなみにわたしは対魔王軍特攻隊の副隊長だからな。強さには自信があるぞ。」
お姉さん改めグレイスさんは結構優しい人のようだ。その後、魔女村を焼いた爆弾魔について尋ねたが何も知らなかった。レオンの方は収穫があるといいが。そんなこんなで魔境森林に着きさっそく俺の特訓が始まった。特訓が始まるとグレイスさんの雰囲気が変わってとても怖くなった。
「さて、まずは貴様の心構えからだ。ちなみになぜ心を鍛えるのか分かるか?」
「魔法を使うには精神力が大事だからとか?」
「ちがう!貴様が覚悟もなく信念もない貧弱者だからだ。」
「つまりそういうやつか。」
もしかしてグレイスさんって眠気を気合で消したり、暇があれば筋トレしたり、急に起こってきたりするような熱血タイプか?ちょっと不安だな。
「まず覚悟だ。昨日のゴブリンとの戦いを見ていたが、もし貴様に覚悟があれば普通に勝てていた。」
うっそ。正直こん棒の方で精一杯だったしそれが三体だぜ。ゴブリン相手に情けないが勝てそうになかったぞ。
「どうやって勝てるんだよ。気合とか言わないよな。」
「そんなことは言わないが、まあそんなに信用ならないなら説明してやる。昨日の状況を思い出してみろ。」
「はい。」
そう言われ俺は昨日の戦いを思い出した。
「まず、こん棒ゴブリンが走ってきてこん棒を君に向けて振り下ろしたのを貴様が避けただろう。その後だ。あの大振りの後の隙をなぜ見逃した。あの隙なら反撃もできただろう。」
「いや出来ねーよ。俺三日前までは一般人だったんだぞ。」
「それは言い訳だ。貴様は覚悟が足りなかったからあそこで反撃をしなかった。いや、出来なかった。貴様はゴブリンを殺す覚悟どころか、殴る覚悟すら出来ていないんじゃないか。その程度の覚悟からしてどうせいい家に生まれただけの坊ちゃんだろ。甘いんだよ。全てが。」
「言いすぎだろ。そもそも生き物を殴ったことのない俺がそんな覚悟持ってるわけないだr。」
俺がそう言い返していると、いきなりグレイスさんの腰の剣が俺の喉元に突きつけられた。
「貴様には貫き通す意志もない。どうせ信念も薄っぺらいものなのだろう。続けてみろ。」
俺は委縮してしまい何も言えなかった。グレイスさんが俺に突きつけていた剣を地面に刺した。そして俺の胸倉をつかんだ。
「私は魔物と悪党が嫌いだ。だが、覚悟も信念もプライドもないやつが大嫌いだ!貴様はさっきから私が言い返さないと思って口答えしていたが、少し牙を見せるだけですぐこれだ。どうせあの男と別れたのも貴様に自信がないからだ。」
グレイスさんが俺の胸倉から手を放して背を向ける。
「貴様にもう修行はつけない。さらばだ」
そんなの分かってる。自分のダメな部分なんてとっくの昔に分かってる。グレイスさんの言う通り俺には信念も覚悟もない。ただ周りがそうしたから俺もそうする。自分が格下だと思ったものは見下すようなクズ。自分に都合の悪いことは明日の自分に任せる。自分の嫌いなことなんていくらでもある。異世界に来て何かが変わると思ってた。なのにレオンに合わせたつもりでレオンを突き放した。結局俺は異世界に来ても中身は何も変わっていない。このままじゃダメだって、そんなのはとっくの昔に分かってる。でも自分は勝手に変わるものじゃない。俺が、自分自身が自分を変えるものだと俺は思う。
「待ってください。」
「見苦しいぞ」
グレイズが振り返ると、クロムは頭を下げていた。
「そんな俺を変えるためにここに来たんだ。俺の信念は自分を変えることだ!」
グレイズはクロムを見てさっきとは違い、覚悟の決まった眼をしていることに気が付いた。
「見違えたな。さっきはすまなかった。昔のことを思い出してしまった。」
「つまり修行に付き合ってくれると?」
「仕方ない。まずは殴ることに慣れないとな。」
いろいろあったが何とか修行は始められそうだった。
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魔王城にて二人の男が何か話していた。片方は円卓の王座に座っている。おそらく魔王。
「言われた通り魔女村は潰しておきましたよ。」
もう片方は口ぶりからして爆弾魔。爆弾魔は王座の反対にある円卓に座った。
「よくやった。まさか人間ごときが一人で成し遂げるとはな。仕方ない、約束通り貴様の提案は受けてやろう。」
「それは良かったです。これで私も魔王軍幹部ってことでいいでしょうかね。」
爆弾魔は敬語を使っていながら、相手をバカにしたような態度だ。
「黙れ。そもそも貴様の立場は、貴様の殺したバニアの穴埋めだ。その戦力に免じて生かしておいたが、次また私の部下を殺すようなことがあれば、分かっているな。」
「フフフ、仲間割れなんてご冗談を。ではこれからは魔王軍幹部クラトル、と名乗らせていただきます。」
そう言ってクラトルは姿を消した。魔王は得体の知れないクラトルを警戒しているようだった。




