4話 練習の成果
「ところでどのくらい上達したんだ?」
レオンが俺に聞いてきた。
「魔力を感じること自体は3回くらいで完璧に掴んだよ。けどそこから詠唱の省略とか身体強化とか知ってることいろいろやってみたんだけど結局できなかった。」
「そりゃそうだろ。一朝一夕で出来るようなもんじゃない。魔法ってのは正確なイメージが重要なんだ。例えば治癒魔法の場合。切断された腕を治そうとしても自分の腕の骨、血管、筋肉、皮膚を正確に把握してないと腕が治らない。そのイメージの補助をしてくれるのが詠唱。だから魔法を使う時は基本詠唱が必要になる。昨日君が魔法を使えたのは詠唱が理由だ。」
思ったより魔法って難しいんだな。簡単に無詠唱や大魔法をできるものだと思っていた千之は、魔法の難しさに少し落ち込んだ。
「徹夜の意味なかったじゃん。」
「だから、昨日は魔力を感じる修行だと言っただろう。」
レオンは困ったように言った。
「ドルームまではまだ2日かかる。それまでにゴブリンぐらいは倒せるようになってるさ。」
ゴブリンってゲームじゃスライムの次に弱い敵だぞ。だが千之にとってはそれでも十分やる気につながった。
「そうだ。今日やる予定の魔力を操作する修行は歩きながらでもできるぞ。」
「どうやるんだ?」
「魔力を拳や足に集中させるんだ。それが出来たら指、それが出来たら全身の魔力をその場に留める。魔力の操作は人によって上達速度が違う。早ければドルームに着くまでにゴブリン3体は倒せるかもね。」
そう言われ、俺は体の魔力を拳に集中させるイメージをした。
1時間ほどしてコツをつかみ手、足に集中させることに成功した。レオンによると平均よりは上達速度が速いらしい。そのまま指に魔力を集中させることにも成功し、後は体全体の魔力を留める修行に入った。だがこれが意外と難しく、うまく体に留めないとすぐ魔素になってしまう。先ほどと違い体全体の魔力を操作するのは至難の業だった。
「レオン、そういえば俺の魔力は無限って言ってたけど俺から漂う魔力はそこまで大きくないのは何でなんだ?」
「君の魔力が無限になっている理屈は、いろんなところから魔力をパックって俺の亜空間収納にしまっているんだ。それを僕がちょくちょく君に分ける仕組みなんだ。君が成長したら君に管理させるね。」
どこからその無限に近い魔力をパクったのかは聞かないでおこう。とりあえず俺は魔力操作の練習に集中した。
空が赤くなったところでやっと全身の魔力を留めることに成功した。
「これで魔力操作は身に着けた。次は魔法だ。」
やっとお待ちかねの魔法だ。俺たちは野宿の準備をして、飯を食べた後、魔法の習得に移った。
「まず魔法には大きく分けて7つの属性に分けられる。火、水、土、風、雷、闇、光だ。ちなみにヒールは光属性に分類される。とりあえず明日までに一つ習得することが目標だ。何を習得するか考えたか?」
「実は昼にもう思いついてたんだ。俺は身体強化を習得するぜ!敵を殴って傷ついた拳を回復魔法で癒す。そしてまた敵を殴る。こうすれば絶対に倒れない最強の矛と盾だ。」
我ながらこれが一番いいということに気付いてしまった。それに魔法よりも拳の方が漢って感じがしてかっこいいし。
「確かにいいかもね。それじゃあ回復魔法はもう覚えたから身体強化を教えるか。」
「押忍!」
「じゃあ今から身体強化のやり方を教えよう。まず全身を魔力で覆う。次に全身に魔力を残しながら拳に魔力を集中させる。殴る。これが身体強化だ。」
そう言いながらレオンは手本のように身体強化をして木に向けて殴った。すると木の幹の半分が吹っ飛び木が折れた。
思ったより簡単ですぐに俺も同じように試した。
「拳に魔力を込めて殴る!」
するとレオンほどではないが木の皮が弾け、木の中身が見えるくらいには威力が出た。つい興奮してまた徹夜しそうになったが、さすがに眠かったので木をもう一回殴ってから眠りについた。
翌日の朝、レオンの大声で目が覚めた。テントを出るともう太陽は真上にあった。どうやら二日ぶりの睡眠でぐっすり寝過ぎていたようだ。
「もう昼だ。流石に起きてくれ。」
レオンがやれやれと頭を抱える。流石に申し訳なさがあり、急いでテントを片付けすぐに出発の用意をした。
「寝坊してすいませんでした。急ぎましょう。」
俺は覚えたばかりの身体強化を足に付け、急いで森を進んだ。
「君は身体強化の上達が早いな。そうだ、ドルームに行く前にゴブリンと戦ってみるか?」
「え?いいのか。間に合わなくなるんじゃ。」
「それだけ身体強化が使いこなせれば暗くなる前にはドルームにつくよ。」
自分が寝坊したおかげでもう一泊野宿になったらどうしようなどと考えていた千之だがそうはならなそうでホッとした。
「じゃあドルームに行く前に一狩り行くか!」
10分ほど進むとちょうど2体のゴブリンが見えた。俺は二体の前に立ち、拳を構えた。2体のゴブリンはそれぞれが持っているこん棒とナイフを構える。こん棒を持ったゴブリンが俺に向かって走ってきた。千之はまだ全体の強化をできないため動体視力をあげ敵の攻撃に対応するために目に、素早く動くために足の二か所に身体強化を付与した。こん棒を持ったゴブリンが飛び、俺にめがけて振り下ろした。それを俺は強化した目で捉え、右に避ける。避けた俺をこん棒を持ったゴブリンが追撃に来る。俺は一度ゴブリンたちから大きく距離をとって落ち着く。
「こん棒のゴブリンに集中させて、ナイフが死角を突くって感じか。」
戦闘経験はないが、アニメやゲームの知識でなんとなく予想をつけた。こういう場合はわざと隙を見せて敵を誘い込んで倒してた記憶がある。敵の能力を逆に利用するってやつだ。さっそく作戦を決めた俺は再びゴブリンたちに立ち向かった。
こん棒を持ったゴブリンはさっきと同じように俺にひたすらこん棒を振り回してくる。覚悟を決めたところで俺は常に視界に入れていたナイフを持ったゴブリンを視界から外し、こん棒を持ったゴブリンと追いかけっこをはじめた。
千之の作戦はこん棒を持ったゴブリンから逃げる途中で転んだふりをし、そこで隙を見せ、ナイフを持ったゴブリンをおびき出すという作戦だ。
俺は少し広めの場所に出て、木の根に自分の足を引っ掛けた。転んで地面に体がつく直前、千之は自分の体を180度回転させ、あおむけで倒れた。千之の作戦ではここで突っ込んできたナイフを持ったゴブリンを倒すというものだった。だが千之の視界にはナイフを持ったゴブリンは映らなかった。千之は急いで体お起こしてまた距離をとった。
「ナイフを持ったゴブリンはとどめの役じゃない。なのに俺は今ナイフを持ったゴブリンを見失ってしまった。」
気づけばレオンもいなくなっていた。その頃視界にナイフを持ったゴブリンが入った。その横には弓を持ったゴブリンが立っていた。こん棒を持ったゴブリンはおとりではなく仲間を連れてくるための時間稼ぎ。状況は3対1で圧倒的不利なうえ、頼みの綱のレオンが居なくなった。千之は自分の死を感じてしまい、先ほどのアドレナリンも消え、「助けて」の声も出ず、ただ尻餅をつくことしかできなかった。
「なさけない。」
そんな時、誰かの軽蔑の声が聞こえた。気づけば目の前のゴブリンたちは簡単に上下真っ二つに切られいた。自分の前に銀色の鎧を着た金髪の女が立っている。
「遊びで魔物と戦うな。」
初対面なのになぜか怒られた。いや、当たり前か。俺が魔物をゲーム感覚で甘く見ていたのが悪い。不思議とその人を見ると余計自分がみじめに思えてきた。
「助けていただきありがとうございました。重ねて失礼ですが銀髪の男性を見ませんでした?」
結局俺はレオンに頼んないと何にもできない事がみじめに思えた。
「ああそれなら先ほど拘束した。あと貴様も拘束するからな。」
「え?なんで?」
「当たり前だろう。ここは魔王領と人間領の境界、ディバルド山脈。ここに居るものが怪しくないわけないじゃないか。」
その後俺とレオンは再会し、手錠をしたままドルーム城塞都市に到着したのであった。




