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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Session.3 弾けろスパーク・エイトビート

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第69話 変わりゆく『事情』

 『べモン・ベルス』の新たな個体の出現。

 それをも引っくるめた『べモン・ベルス』の発生源――罅割れの更に向こう側――の存在。

 更にはこの所在が何処なのかという情報が共有された事で、一同のムードに緊張感が増す。

 中でも、これらの事実を重く見ていたのがヨウヘイだった。組んでいる手が思わず震え出す。

 

 

「……まさか、こんな事になるとは」



 元から根本的解決になる見込みは無かったが、そればかりか時間稼ぎにすらならない。

 この事実を突き付けられては項垂れずにはいられなかった。


 『結界自体は機能しているが、その検知項目に引っ掛からない存在が新たに湧いて出てきた』という事実であるから尚の事。


 深刻な顔をするヨウヘイに対し、一応の確認を兼ねてロギィは恐る恐る問うた。



「…ねえ、ヨウヘイ。今のところ『地上界』でアイツらが確認されてるって、この島だけよね?」


「少なくとも、『フェルク・レスタム』以前は……」


「じゃあ、今はどうなってるの?」


「島の研究機関が確認中ですので、報告はもう暫く先になるかと…」

 


 簡単な応対をしていると、ヨウヘイの腰ポケットが振動する。

 中のスマートフォンの待ち受けを見て、一言断ってから彼はメモ用紙を回収しつつ、そそくさと離席し店内に消えていった。


 今日はこれ以上遊びに行けそうな雰囲気では無い。

 誰もがこう確信し、お開きの宣言が出るのは時間の問題となった。



「…今日はこの辺にしましょう。ユイカとペルシェンカもそれで良いかしら?」


「うん。たのしかった、ありがとう」


「もう向こうに帰っちゃうの?」


「土産物を見て回ってからね。パパもママもうるさいから…」



 遠くを見るロギィは若干苦笑する。その顔からは気苦労が伺い知れた。

 彼女が出された飲み物を空にして席を立ち上がると、タルチもユドゥも続いた。



「じゃあ、気を付けてね。ユイカもペルシェンカも」


「また面白い映画、聞かせてヨ」


「ばいばい…」



 ヨウヘイを追うように店内へ入っていく『オヒメサマ』達の後ろ姿を手を振り見送る。

 少しして、結華の視線はペルシェンカへとスライドした。

 

 目が合った彼女はすぐに微笑みを返す。無表情のまま結華は問いかけた。



「ペルシェンカお姉ちゃんはこの後どうするの?」


「そーだね~…、此処で過ごすと決めたからには住む場所と働き口を探さないとね」


「はたらく…エツコおばあちゃんみたいに?」


「何をするにも先ずはお金が無いとね~」



 そう言いつつ彼女はバッグから、装飾の派手な財布を取り出し確認する。

 角度の都合で光を乱反射しキラキラと光るピンクのネイルで整えた指の動きは、慣れた手付きだ。

「もう1ヶ月は保つかな~」との独り言の後、彼女は財布をしまった。



「それで、目星はついてるの?」


「難しい言葉知ってるね~。まあミュジ市の歩き方教えてもらったし大丈夫っしょ!」



 爽やかな香りが仄かに香る綺麗なベージュ髪を揺らし、胸を張るペルシェンカの自信に嘘偽りは無い。

 それを横で見ていた結華からでもそう感じる程に。



「ユイカちゃんは心配しなくて良いよ。あーしはあーしで何とかするからね!」




 ◇◆◇


 

 

 カフェを後にした直後、解散となった翌日の事だった。

 時刻は朝、開店して間もない内で常連客もそんなに居ない時間帯の事であった。


 お使いを頼まれて店を訪れた結華はちょうどそれを目の当たりにする事となった。

 古風の扉を開け、店内へ入った瞬間に見覚えるのある人物が屈んでいれば誰だって驚くと言うもの。


 それが、昨日会ったばかりならば、尚の事。


 

「お願いします! 雇ってもらえませんか!!」



 綺麗な土下座で頼み込む相手は背の低い老婆。

 『魔女の料亭:アルテ・モファウ』の経営者であり、ジンと結華の保護者でもあるエツコであった。

 文字通りの平身低頭で頼む褐色少女を見る年季のある眼差しに、特に驚愕の色は無い。



「藪から棒ってのは、こういう事を言うんだね。触りはユイカからも聞いたけど」


「――私、いえ私どもは彼女の姉であるレンネより『彼女に寄り添い、支える』事を頼まれまして! その目的の為には彼女の現住所である屍守家に近いこのお店で働きつつ、依頼をこなす事が最善であると考えました!」



 聞き取りやすいようにはきはきと喋るペルシェンカの振る舞いに、悪印象を抱く事は無い。

 だが、服装とちぐはぐな様子に、如何な反応が適切であるかをエツコは決めあぐねる。



「ふぅむ……」



 考え事をする素振りの後、エツコは続ける。



「オマエさん、ここで働くと言ってもドコで寝泊まりする気だい? その様子だと住居すら決まってないんだろう?」


「えぇ、えぇと。それは追々考えようと……」



 歯切れが悪い答えに、エツコはわざとらしく嘆息する。

 

 

「こういうのは素直に言うモンだよ、まったく。まあ、自分から『ウチに泊り込みする』なんて言い出さなかったのだけは褒めてやるよ」


「えっと、じゃあ……?」


「時給1000ビュトラの5時間。連続勤務は5日までのシフト制。土日は特別手当込み。屍守家に住み込みで働く。16時からでまかないあり。…これでどうだい?」


「よ、よろしくお願いします!」



 良い返事を聞き、ペルシェンカは直ぐ様立ち上がると、エツコの方から握手を求めた。

 差し出された白く皺だらけの手を、若々しい褐色の両手が包み込むように握る。

 ペルシェンカは心の底からの明るい笑顔を浮かべたが、エツコは顔色1つ変えない。



「ただし、勤務態度は常々見させてもらうよ。多少サボってても大目に見るけど、そればっかりなら即追い出すからね」


「…分かりました、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします……!!」


「そう畏まらなくても良いけどね」



 握手したまま、エツコは褐色少女の後ろ――つまりは結華の方に目を向ける。

 立ち位置の関係もあるが、紫肌の少女は一連のやり取りを目の当たりにして固まっていた。



「…ああユイカ。見てたんだね」


「……出てた方がよかった?」


「いや、そんな事ないさ。今日からこのペルシェンカ、ってのが一緒に住まうからね」



 エツコは流れるようにペルシェンカを隣に引き寄せると、彼女を紹介する素振りを見せた。

 今しがた雇用主と従業員の関係になったからか、彼女の表情に若干の緊張が出来ていた。

 


「あっ、えっと。改めてよろしく! ユイカちゃん!」


「よろしく……」



 まさか、こんな事になるとは。

 昨日ヨウヘイが言っていた言葉を、意味は違えど心の中で引用する結華だった。

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