第68話 手繰り寄せる『情報』
「話を整理しましょう」
ロギィのその一言で、話し合いの場は引き締まる。
14時を過ぎた頃合いに、一同は『ハニュラト・ガーデン』を出て最寄りのカフェへと来ていた。
隣り合わせの2つの机にそれぞれ3人ずつ座る形となり、『オヒメサマ』達と、他の3人に分かれる。
ユドゥに対しタルチとロギィが向かい合う席順で、落ち着いたものの暗い顔をするユドゥが俯きながらロギィの言葉に耳を傾ける。
「アンタだけはレンネさんから色々言伝を預かっていた。『べモン・ベルス』が何処から来てるのか、とかソイツらを送り込んでる奴の存在とか」
「そウ」
「…で、アンタはワタシ達やユイカに伝える筈だったんだけど、さっきまでそれらの事を忘れていた」
「頭にあった靄が晴れテ、ようやく思い出せたんだヨ」
「じゃあ、ここまでは合ってるのね。…一応聞くけど、ユドゥはその靄について心当たりある?」
ユドゥの体の色に似て青いソーダフロートを少し飲み、彼女は返答する。
「…分からなイ。『べモン・ベルス』に何かされたんなラ、その切っ掛けがあった筈だシ」
「そのもやもや、わたしにもある」
やり取りを聞いている内に、結華が会話に混ざる。
少しずつ、糸を手繰り寄せるように彼女は言葉を紡いだ。
「さっきユドゥが同じ、って言ったもの。お姉ちゃんとはぐれた理由が、おもいだせないの」
「少し時間経ったのニ?」
「うん。…どうにかおもいだそうとしても、できないしあたまがいたくなる……」
「そうなんだネ…」
互いに同じ苦悩がある故に、同情を示す。
その間にタルチが引っかかりを覚えた様子で結華に尋ねた。
「ぐるぐるに巻き込まれた、って言ってたよね。それは理由じゃないの?」
「理由は他にある。まきこまれる前になにかがあった。それがおもいだせない」
聞きながらに、腕を組みつつロギィは思考する。
一方でペルシェンカとヨウヘイは取り出したメモに協力しながら簡単な図を描き込んでいた。
少しの間の後、ロギィが口を開く。
「そのぐるぐるって、転移魔法の類いよね。確かにそれだけを理由とするのは不自然だわ。レンネさんもユイカも自ら飛び込んだ訳じゃ無いんでしょ?」
「うん。すいこまれた、っていうのが正しい」
「なるほどね。…話は変わるけど、ユイカはレンネさんと一緒に居た頃の記憶ははっきりあるのよね? 居た場所がどんな景色だったか、覚えてる?」
ロギィの問いに、結華は遠い場所を見るように自らの記憶を辿る。
ぐるぐる――今も鮮明に覚えている渦巻きに呑み込まれる直前まで居た場所は、濁った空をし暗色に満ちていた。
「くらいせかい、だった気がする。よごれたかんじの」
「それじゃあ『魔深界』でも『地上界』でも無さそうね……」
「うん。そこなしの穴が大きくあいてたから。…せかいをすっぽりのみこめるような穴があったから、たぶんちがう」
結華の言葉には僅かに恐れの色があった。試しに覗いてみた時に抱いた感情に由来するが、彼女自身はそれだけではない、と直感的に思う。
「『地上界』って、この世界…っていうか地球の事だよね。地球にそんな場所無いよ」
結華の発言に対し、このように返すペルシェンカ。
「『魔深界』にも無いわ。そんな極大の穴があるならワタシ達がこうしてる暇なんて無くなるわよ……」
続いて、ロギィも答えてタルチやユドゥが頷く。
彼女達の反応と結華の言葉から、『結華が居たのはどちらの世界でも無い』という結論に至った。
同時に、ユドゥが思い出した言伝に出てきたワードが結びつく可能性がある事も。
「レンネさんが言っていた『間擦界』って、ユイカと一緒に居た世界の事かしら。どちらでも無い世界……」
「2つの世界に挟まっている、もう1つの世界」
ロギィの独り言にタルチが補足する。珍しい言動に、ロギィが目を丸くした。
知っている物言いに一同の注目が集まると、タルチはその岩肌に似た両腕を慌てて振った。
「――って、伯父さん達が言ってたのを聞いたの! 私そんなに知らないから!」
「…まぁ、そんな事だと思ったわ。――で、あの騎士団長はなんて言ってたの?」
「え、えぇっと…ユドゥの言った通り『べモン・ベルス』が生まれる世界で、『地上界』と『魔深界』の狭間にあるって。そこからポータルを繋いで他の世界に『べモン・ベルス』を送り込む……らしいの」
「送り込む存在が居ると言うのハ?」
「そこまでは……」
「じゃア、偉い人達は『間擦界』まで知ってた訳だネ」
「レンネさんが知らせてた、のもあるかしらね」
『オヒメサマ』達が話を進めていると、ロギィは輪切りの付いたレモネードを飲みつつもう1つのワードについて疑問を浮かべる。
「…『間擦界』は分かったけれど、『雫果』は何かしら。ユドゥは何か聞いてる?」
「いヤ、詳しく聞こうと思ったタイミングで『べモン・ベルス』が襲撃してきてサ。そこまでは聞けてないヨ」
「そう。じゃあ、ユイカは?」
「しらない」
「どんなヤツなのか分からないのに、どう注意しろってのよ……。レンネさんも無茶を言うわね」
呆れつつこの場に居ない蓮音へ恨み言を呟くロギィ。
一方で、さらりと流した結華だったが改めて聞いた『雫果』という単語に、ぞわりと短い寒気を感じ取る。
「……?」
理由は分からない。いや、思い出せないだけなのかもしれない。
蓮音の言う通り、注意を払うに越した事は無いと結華は考えるのだった。
そうした後、話の整理は締めの段階に入る。
「とにかく。『地上界』と『魔深界』の2つの世界に、『間擦界』は繋がっていて、そこから『べモン・ベルス』が送り込まれている、って事で良いのよね」
「そうなるネ。そして『べモン・ベルス』を送り込んでるヤツも居ル」
「何の目的で……はアイツらの習性を見れば何となく分かるわ。文化の破壊でしょうね」
「色んな姿形になって、色んな場所を襲ってる。…ヴエスを操っていたのもそうだった」
「人をあやつるこたい。……気をつけた方がいいかも」
「ええ、そうね。今後は怪生物だけでなく魔法使いとも戦う可能性が考えられるわ。『地上界』でも『魔深界』でもね」
直接襲撃してくる個体とは別の、人を操る能力を持った個体。
操る対象が魔法使いであれば、対象の持つ魔法をも行使出来る、今までより強力な個体。
今回はそれが襲撃してきた事で、ヴエスの演者を人質にヒーローショーを荒らし回った。
1体のみであったが、それでも脅威である事に変わりは無い。
「……考えたくないわね、あんなのがウジャウジャ出てくるなんて」
「数もそうだけド、強い人が操られたラ……頭が痛くなるヨ」
戦闘能力は対象の魔法のセンスに比例する。1度戦っただけでもこれは誰もが確信した。
操る対象の事を一切考慮していない魔法の暴力によって、大規模な破壊工作を仕掛けてくるからには、今まで以上の対策が要求される。
島全域に張られた大結界の影響で、今後の怪生物が全てそうなる……その事実も踏まえると頭を抱えたくなるのは必然であった。
「結界張ってあるのに、何で出てこれてるのよ……」
それと同時に浮かび上がる疑問を、ロギィは虚空へと投げかけた。




