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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Session.3 弾けろスパーク・エイトビート

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第65話 COOL DOWN & 『INTERMISSION』

 決着は着いた。この事実を爆風の勢いで放り出された破片の数々が物語る。

 鎧人形の残骸であるそれらは直ちに自壊し、砂粒のように分解され吹き飛んで消えていく。

 『べモン・ベルス』が居た痕跡は消えたが、ステージの破損具合が激闘の事実を証明していた。



「……ぐぅ」



 着地までは鮮明だったソウタの視界が、急にぼやけだす。

 緊張が緩んだのだろう、彼は真横に倒れかかる己を静止する事が出来ないでいた。

 が、直ぐ様彼の体を数多の伸びた腕が抱き止める。観客でありながらも、彼の戦いに助太刀した少女達のものだ。

 彼女達は彼の体調が良くない事を察し、優しく彼を寝かせる。


 堰を切ったように、口々に声を掛け始めるのはその後の事だった。


 

「…セラナァ、やっぱりさっきの攻撃ガ……」

 

「《エイド》って、効くよね…? あれの直撃食らってよくあんなに動けたね……」



 ユドゥはその緑の目をうるわせてソウタの身を案じ、ペルシェンカは不安がりつつも淀みの無い動きで『ギフト』の1つを変形させ《エイド》の透明な膜を彼の体へ被せる。

 ミントに似た爽やかな香りと共に僅かにはためく膜へ包まれると、《エイド》が内包する癒やしの魔力が直ちに作用する。

 その作用は、『ヴェノムキャノン』の魔力が含む毒によって生じていた倦怠感と体の震え――アドレナリンの効果が消えて今更ぶり返してきた――を少し和らげた。


 一方で、タルチと結華はソウタの活躍ぶりの余韻に浸り、彼に向け励ますような笑みを浮かべた。

 


「とっても、かっこよかったよ。セラナ!」


「すばやくて、びゅんびゅんとびまわって、まほうもきれいで。見ごたえがあった」



 褒められているのもあるが、彼女達が無事である事もソウタにとって吉報であった。

 仮面蜂セラナ以前に、ショースタッフの一員である為、避難誘導を任せきりだった事を申し訳無く思いつつも。


《エイド》の癒やしの魔力で体が楽になってきた事で、ソウタは彼女達に応対を始める。



「…そういえば。他のお客さん、達は……」


「――皆会場外でスタッフさんに手当してもらっています。警察が間もなく到着しますし、救急も手配しましたので、ご安心を!」


 

 応急手当をする彼女達の代わりに返答したのは若い青年の声。スマホを腰ポケットに仕舞いながら駆け寄るヨウヘイだった。

 その後をロギィが続く。会場に残った面々――スーズメッズの演者達は気絶したままだが――が揃った為に、ソウタは上体を起こす。


 ヒーローショーの演目と大きく異なる即興劇が終わり。現実に引き戻されたからこそ、起きた諸問題を直視しなくてはならない。

 『べモン・ベルス』の凶行だったとは言え、ヴエス伯爵役セイジが突如自身の魔力を暴走させ、数多くの観客に怪我を負わせた事実に変わりは無い。

 ステージの復旧作業も加味して、今日の予定のショー全てが中止は確定。下手をすれば損害賠償とセイジの逮捕さえあり得る。

 当然、このミュジ・シャニティにも魔法運用に関する法律が定められている。抵触すれば実刑はまず免れない。


 更には、セイジに後遺症が残る可能性がある。

 あれだけの膨大な魔力を使わされた影響で、目を覚ました後に身体機能に何らかの異常が起こると見て間違いは無い。

 鎧人形が伸ばしていた糸が消えた今、ペルシェンカが《エイド》を使って一応の治療を施してはいるが。

 

 喜べる要素と、喜べない要素とが混在し。ソウタは拳を握り震わせた。

 仮面の向こうに複雑な感情を滲ませながら、ヨウヘイに問う。



「そう、でしたか。……それで、スーズメッズの彼らはどうなるんですか?」


「警察が到着しない事には、どうにも。――ただ」


「ただ?」


「今回は『べモン・ベルス』絡みの案件ですよね。魔法の使用痕跡等でこれを立証する事が出来れば、『魔獣災害保険』の適用と心神喪失の証明が可能かと思われます」



『魔獣災害保険』とはミュジ・シャニティで起きたある事件を切っ掛けに導入された、比較的新しい保険制度の事だ。

 似たような名称として『魔()災害制度』もあるが、内容は大きく異なる。こちらは責任能力の有無に関わらず魔法や魔導具の運用で発生した災害の規模と損害額に応じた補償が行われる。

 対して、『魔獣災害保険』は責任能力を持たずに魔法行使が可能な生物あるいは無生物――通称を『魔獣』とする存在の介入、もしくは直接的な暴走による災害の補償を行う保険だ。

 当然のように『べモン・ベルス』も『魔獣』に定義される。この保険の適用要件は満たしていた。

 そして、『ハニュラト・ガーデン』は魔獣災害の方も魔法災害の方も開業当時より加入してある。


 ヨウヘイの言わんとしている事を理解したソウタは、市役所職員であるヨウヘイより先に発言する。



「では、『魔獣』絡みの災害である証拠があれば良いんですね……」


「そうなりますね。あの怪生物は消えて無くなってしまいましたけれど…」



 居心地の悪い沈黙になりかけたその時、近くで聞いていたユドゥがバッグからヒラメ型カメラを取り出す。

 数度操作した後、彼らの会話に混ざった。



「持ってるヨォ、何枚カ。あの『べモン・ベルス』に操られてタ、って証拠があれば良いんだよネェ?」


「ええ」


「んジャ、全部セラナにあげル。また見に行きたいシ」


 

 「どーゾ」の一言と共にヒーローの黒い手のひらへ5枚の写真を渡す。

 画角は違えど鎧人形から伸びる糸がヴエス役のセイジの背中に繋がっている状態と、そのセイジを鎧人形が操っている様子がブレなく写っていた。


 それと同時に、現存していたフグ型物体を萎ませ、表面に沈み込んだままだったスーズメッズ構成員達を解放する。

 彼らは比較的ダメージが少なく、体が自由になると同時にすぐに起き上がるのだった。


 穏便に済む解決策を提示され、策を成功させる為の補助も受け、後はセイジの回復と警察の到着を待つのみ。

 一筋の光が差し込んでくるのを感じる。そんなソウタに、少女達が励ましの言葉を伝える。



「上手く行くのを祈ってるからネ、最高のヒーロー」


「ヴエスの人も早い内に復帰出来たら良いね」


「これでおわってほしくない。すえ長く、つづけてほしい」


「そーそー。ユイカちゃんもあーしも見れなかったからね。正念場だよ、セラナ!」


「…ユイカ達の言う通りね。ヒーローなんだから、頑張りなさい!」



 本来ならば、観客席を埋め尽くす程のものだっただろう。だが、5人分の声援であってもソウタの励みになった。

 まだ回復しきれてはいないが、彼女達の声へ、力強いガッツポーズで答える。



「――ああ! これからも応援、よろしくな!!」



 ショーとして満足の行くものを見せられなかったが、それでも彼にはやりきった感覚が宿った。




 ◇◆◇

 



 時は流れて、時刻は13時を過ぎる。

 常夏の島は快適に過ごせるよう整備されたリゾート地であっても、昼間が1番の暑い時間になる。

 また、正午前後は食欲の湧く時刻でもある。故に、冷房が効いていて料理にありつける場所で避暑をするのが望ましい。

 

 警察からの事情聴取の末、解放された結華達一行は『ハニュラト・ガーデン』内にある飲食店、『ハニーミートハウス』に立ち寄っていた。

 大人2人、子供4人の体で6人席に案内され、疲れた様子を見せながらも微かに漂う心地の良い匂いをまずは味わう。

 数秒程くつろいだ後、結華達はようやく姿勢を正すのだった。



「やー、遊んだし、疲れたね~」



 最初に口を開いたのはペルシェンカだ。彼女は同意を求めるように首を左右に振っては他の面々の様子を伺う。

 『オヒメサマ』達はその間に深呼吸をする。腹部を意識した呼吸法によって、疲れを吹き飛ばしたようだった。

 結華は大きな背伸びの後、いつも通りの無表情に戻る。そこにテーマパークへ来た当初の暗い顔は既に無かった。

 ヨウヘイは『オヒメサマ』達の呼吸法を見様見真似で行い、多少なりと疲労が拭えたようだった。


 それから、それぞれが口を開く。



「これぐらいなら平気よ。まだ遊び足りないくらいだわ」


「まあ、私達は、ね……」


「あっちこっち行き過ぎテ、ヨウヘイを振り回さないようにしないとネェ?」


「あはは……みなさん、お手柔らかに頼みます……」



『オヒメサマ』達とヨウヘイとの談笑が返答として返ってくるも、結華だけが会話に混ざらない。

 沈黙を貫く彼女は、考え事をしていた。この『ハニュラト・ガーデン』で体験した事、それからこれからの事を。


 彼女が視線を動かすと、結華の顔を一同がまじまじ見つめていた。

 それからロギィが彼女へと問いかける。



「それで、ユイカ。アンタの気は晴れたかしら?」


「うん。あそんで、たたかって。そうしてたらスッキリした」


「……まあ、良かった、のかしら?」



 前者だけなら納得したかもしれないが、後者は偶然発生したアクシデントによるものだ。

 だが、結華は連れてきてくれた『オヒメサマ』達に感謝している。流れ着いた為にこの島に明るくないから尚の事。

 感謝の言葉は、あっさりと口から出てきた。



「ありがとう、みんな」


「うん、どういたしまして」

 

「ユイカも楽しめたんなラ、良かったヨォ」



 タルチとユドゥが答え、朗らかな雰囲気となる。

 少しでも長く堪能したいところだが、食事に来たからにはメリハリは付けなくてはならない。

 切り替えるべく、ヨウヘイが割り込む。



「それで、今後は皆さんどういたしますか?」


「どう、って」


「昼食を済ませた後の事もですが、息抜きばかりでもいられません。なので、早い内に決めておこうかと思うのですが……」



 女性陣が顔を見合わせる。が、揃って空腹の状況では上手い事頭が回らない。

 示し合わせるように、彼女達は口元を緩ませながら彼へ答えた。



「後にしなイ? お腹減っちゃってサァ」


「私も…」


「考えるのはお店出た後にしましょうよ、ヨウヘイ」


「ロギィ達にさんせー」


「おいしいもの、たべたい」



 メリハリよりも食欲を優先した物言いではあるが、自身も空腹である為か、ヨウヘイは引き締めていた顔を緩める。



「そうですね。では注文しましょう、皆さん。僕が奢りますよ」



 高給取りでは無いものの、それでも格好つけるくらいには懐事情に余裕がある。

 これを示すように、彼女らの空腹へ、更なるスパイスを加える物言いをするのだった。

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