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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Session.3 弾けろスパーク・エイトビート

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第64話 仮面を被るは『何』が為に?

 戦線復帰したソウタの動きは一瞬と見紛う程に素早い。少なからず負傷した身であれど。

 スズメバチの大群を追いつかせず、『ヴェノムキャノン』すら完全に回避し翻弄し続ける彼の速度は段階的に上がっていく。


 やがて、鎧人形が行わせる激しき攻撃の嵐を掻い潜り、徐々に鎧人形そのものへ反撃を当てるようになった。



「……!!」


 

 1発2発程度なら、無視出来ただろう。だが、5回も6回も当てられるようになっては意識せざるを得ない。

 スピードが乗り、更に魔力を帯びた拳打と足技によって自身のペースを乱されるのは不愉快らしく。ヴエスを操る動きに決定的な乱れが生じ始める。

 その結果、どうなるか。その身にノイズが走るようになったスズメバチの大群が、これを証明していた。

『ヴェノムキャノン』も3回に1回が不発するようになり、明らかな隙が露わになる。


 

「おおォ!!」



 当然、これを見逃す筈が無い。ソウタの反撃の手は一層強まった。

 一方の鎧人形は、忌々しげに手を震わせる。その後、飛び蹴りの体勢になっているソウタへ、セイジを向けさせた。



「しまッ…」



 これではセイジに当たってしまう。彼1人では軌道修正のしようが無かった。

 そう、彼1人だけでは。

 


「『ヴェのム――――』」


「――させないっ!」



 セイジに右手を伸ばさせた鎧人形に、横から強打を叩きつける存在が1人。

 黄色い少女、タルチであり。彼女の与えた衝撃によって、発射された毒砲は大きく逸れて空を切る。

 同時に、ソウタの飛び蹴りも無事鎧人形へ命中する事となった。鎧人形の凹みが一層大きくなる。



「ありがとう!」


「セラナも頑張って!」



 空中でのサムズアップに、タルチは笑顔で応対する。

 危険な状況で、本来は褒められた行いでは無いが。今こうしてヒーローとの共闘を楽しんでさえ見せている彼女に水を差したくも無い。

 『スリルある体験型アトラクションをしている』のだと己に言い聞かせ、ソウタはヴエス、もといセイジの救出作戦を続行した。


 スピードを乗せた連撃でヴエスを暴れさせる隙を与えず、また、卑劣にもヴエスを人質に取ろうとする行動を、タルチが妨害する。

 完全に役割分担がパターン化した事で、ソウタの心的負担が軽くなっていく。ヒーローを演じている高揚感と湧き立つアドレナリンが彼の行いを後押しした。

 

 

 

 ◇◆◇




「すっ、すっごい……!!」



 2人がかりで『べモン・ベルス』を翻弄していく事で、迎撃の隙を一切与えない。

 これによって結華達は最早防御行動を取る必要が無くなり。ただただ、圧倒されていた。


 フリーズに似た硬直から数秒、結華は大きく首を振って我に返る。

 突然の行動に、隣に居たユドゥとペルシェンカが驚いた。



「うわっ、どうしたの?」


「興奮しすぎタ?」


「――見てるだけじゃダメ、って思って」



 対象が居なくなった事で演奏をしているだけになっているオート操作を解除し、結華は再び手元へDJシステムを引き寄せる。

 初めての操作になるが、それを感じさせない指捌きでシステムにある『プレイリスト』を閲覧する。

 そうしていると、とある事実に気が付いた。



「いっぱいある。――聞いたことのある曲が」



 彼女のその言葉に、ユドゥとペルシェンカも顔を覗かせる。

 


「ヘェ。…おオ、『フェルク・レスタム』で生演奏披露されたものばっかりじゃン」


「…うーん、知らないアーティストばっかり…」


「『ラ・ダ・リーシェ』もたくさん。…だったら、()()を」



 スワイプ操作でその曲名を表示させ、迷わずタップする。

 主の操作指示に従い、奏で出すのは、『ラ・ダ・リーシェ』4回目のヒットチャート1位を獲得させた名曲――――。




 聞き覚えのある曲が耳に入り、ソウタのボルテージは更に上がる。

 景気良く噴き出す噴水になぞらえて、アッパーな曲調に仕上がり、命名されたその曲は――。



(――『ソーダ・ファウンテン』! 誰だか知らないが、お気に入りを掛けてくれてありがとう!!)



 ただ原曲を流すだけに留まらず。時折DJの各種アクションが組み込まれていく。

 だが、『恐れ知らず』も側面である名曲『ソーダ・ファウンテン』の魅力はその程度では損なわれない。


 寧ろ、曲調に沿って徐々にタイミングが整っていくアクションは更なる魅力を引き出すに至った。

 

 それと同時に、ソウタは状況の変化を目の当たりにする。


 

「……!!」



 鎧人形が両手で耳を塞ぐような行動をし、苦しみだしているのだ。

 先程まではあり得なかった光景。原因はすぐに導き出せる。



(…音楽か! あいつ、音楽が嫌いなのか!)



 ヴエスどころでは無い、といった様子で悶え苦しむ鎧人形に胸のすく思いさえ抱く。

 だが、それがセラナとして相応しい態度なのかと言われれば、そうでは無い。ソウタはすぐに邪念を振り払った。



「――そうだ、落ち着け! 倒す理由が()()であっちゃいけない!」



 『個人的な報復』では無く、『人々を襲う不条理に立ち向かう』為。

 それが、自身も誰も彼もが信じ培ってきた仮面蜂セラナの姿である。見ている人々が居なくても、汚す真似はあってはならない。

 

 

「ヴエス! 今助けてやる! 痛かったよな! 苦しかったよな!! ――もう大丈夫だぞ!!」



 可能な限り、スーズメッズにもその手を差し伸べてきたのが、仮面蜂セラナなのだ。


 今のソウタは作中のセラナと己を照らし合わせ、セラナを演じて見せている。

 故に、そのアクションは本物と遜色無いキレとなり、未熟さが未だ残る普段からは信じられない程、舌もよく回る。

 この間にタルチ共々攻撃の手を緩めず、また、虎視眈々とセイジと鎧人形を引き離す事を狙う。

 

 流れ出した音楽に明確な嫌悪感を露わにしていた鎧人形も、この大きな隙を狙われ続けては不利と判断したか。

 セイジを結華達の方へ向けさせ、一斉攻撃を命じる。



「う゛っ、があ゛あ゛ぁ゛ぁっ!!」



 接続させる糸の本数が多くなった影響からか、今度は一切の淀みが無い。

 スズメバチの大放出と、両手から交互に放たれる『ヴェノムキャノン』が次々結華達に襲いかかる。


 DJアクションをしつつ、再度結界を展開し、一斉攻撃を防ぐ結華。

 だが、それでも攻撃の手は一切緩まらず。鎧人形が糸を伝って流し込むオーラの黒みが一層強まる。



「やめろぉ!!」



 ソウタの静止を呼び掛ける声を合図に、ソウタとタルチも負けじと鎧人形への集中攻撃を行う。

 が、鎧人形は止まらない。どころか、直撃であるはずの打撃の数々に手応えを感じない。



「まさか、強度を上げているのか…!!」



 今まで使ってこなかったのは、これが奥の手であるからなのだろう。

 ソウタはそう判断しつつも、僅かな可能性に縋って攻撃し続ける他無かった。

 そうしている間に、ヴエスの両手は『ヴェノムキャノン』の更に上の魔法攻撃の準備を整えていた。


 

「『ヴェのムバすタ()』」



 本来、このヒーローショーでは予定されていない魔法。だが、セイジは使う事が出来る。

 作中の性能通りならば、『ヴェノムキャノン』を遥かに上回る威力と強毒性を併せ持っている。


 これを、手加減無しで用いたならば。結界で直撃を防げたとしても、結華達の身が危うい。


 そして、発射体勢に入っていた『ヴェノムバスター』は撃ち出されてしまった。

 ここまでか。ヒーローらしからぬ弱音が喉から出かかった矢先。


 夕焼けのように明るい光線の数々が、球体状の死毒砲を熱し貫く。

 瞬間、威力も毒性も無力化させた大爆発が巻き起こる。

 これにより結界を攻撃していたスズメバチの大群が消し飛び。同時に、ソウタは察した。


 『ヒーローに敗北はあり得ない』、のだと。


 観客席から、マゼンタ色の少女が大きな声で叫ぶ。



「勝って! セラナーっ!! そんな奴に負けないで!!」



 少女の周りでは、光線の残滓を煌めかせる鱗のような刃が宙に浮かんでいる。

 ソウタは意を決し、鎧人形から距離を取る。そして、助走をつけて迫った。



「うおおっ!!」



 ショーで本来使う予定の無い技を解禁する。ヴエスを解放するにはそれしか無い。

 ベルトにあるホルダーから、1本のナイフを抜き取る。これこそが「プリュームエッジ」…のレプリカ。

 刃の部分が分厚く、当然切れ味は見込めないが。

 必殺技を用いる為には、この形状で十分だった。


 ナイフに風の魔力を込め、魔力の充填した刃を一気に突き出す。

 これにより、如何な防御をも貫通させて見せる絶対勝利の刺突技となるのだ。



「『スパイラル・ショット』!!」



 雷鳴に似た音と共に、強度を上げていた鎧人形の表面を刺し貫く。

 深々と突き刺さったナイフは、この威力を物語る。



「……!!!」



 瞬間、鎧人形は大きく暴れ出した。振りほどくような両手の動きに当たらないよう、ソウタは咄嗟に避ける。

 避けたと同時に、隙を縫ってタルチが前へ出た。

 強度さえ上がっていなければ、彼女の持つ火山のようなハンマーでも十分威力が通る。

 


「ユイカちゃん!」



 振り抜き、そして、鎧人形を結華達の方へ弾き飛ばす。

 飛ばされた鎧人形は両手を前へ持ってくるが。



「斬って、撃つ!」



《エッジ》から飛ぶ斬撃に容易く弾かれ、《シューター》から放たれる光線で体勢を崩される。

 そこへ直ぐ様、ユドゥが海藻のような髪を伸ばし、鎧人形本体と両手に巻き付かせた。



「切っテ、ペルシェンカ!」


「うん!」



 景気の良い切断音と共に、結華が飛び出す。

 身動きの取れなくなった鎧人形は、一身にその一撃を受けた。



 『BEAT!』



 鎧人形を結華は左腕のアッパーで大きく殴り飛ばす。

 腕を大きく振り上げたまま、結華は真上へ飛び上がったソウタに叫んだ。



「決めて、セラナ!」


『セラナーッ!!』



 ユドゥも、タルチも、ペルシェンカも叫ぶ。

 少なくも力強い声援は、ヒーローに勇気を与えた。



「『スティング・シュート』!!」



 繰り出すのは、本来ショーでも見せる予定だった方の、必殺技。

 風の魔力を突き出した右足に纏わせ、魔力ごと相手へぶつける。

 

 これさえ決まれば勝利は目前――――だったが。



「!!!」



 案の定と言うべきか、鎧人形は己の強度を上げる。

 どんなに強い必殺技でも、防ぎきられては意味を成さない。


 しかし、決めの段階である以上、それは余計な抵抗に過ぎない。

 強度の上がった表面を、横から無数のレーザーが焼いていく。


 観客席から、少女の怒号が飛んでくる。



「――いい加減、しつこいのよ、アンタ!!」



 レーザーで焼き尽くされるか、蹴り技を食らって敗北するか。

 究極の二者択一の末。鎧人形は自ら己の強度を下げ、風の魔力を一身に食らい爆散するのであった。


 同時に、本体が消滅した事で、糸は消滅しヴエスは解放された。

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