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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Session.3 弾けろスパーク・エイトビート

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第63話 せめて『本物』たらんことを

 朦朧としていた意識が戻って来る。同時にくぐもり聞こえていなかった音も戻ってきた。

 『何が起きたか』は否が応でも理解している。近付いたタイミングでヴエスの不意打ちを食らったのだ。



「ぐっ……げほッ」



 ソウタは横倒しになっていた体を起こす。追撃の来ない事に安堵している己を呪いつつ。

 そして、この間を利用しつつ状況を確認する。


 観客席に居た観客の大半が既に避難済み。ペルシェンカと結華はこれを確認した上でステージに来ている。

 先にステージに居たユドゥの方は安全。今現在褐色少女が履いたローラーブーツの機動力でヴエスの攻撃が来ないよう誘導している。

 転移魔法を使ったタルチは現在進行形で頼まれ事を請け負っている。この状況を打開できるだけの何かを。

 

 そして――――ソウタが食らったヴエスからの攻撃は先の1回のみ。

 だが、その1回が問題だった。『ヴェノムキャノン』はただ威力が強いだけの必殺技に留まらない。



「……!」



 手足が震え、強い倦怠感に見舞われる。当人の意思に関係無く威力を引き上げたそれは強い毒性で以ってソウタを苦しめている。

 念の為深呼吸をするが、この程度で感じる症状が和らぐ威力では最初から無い。


 動かずに居るとつい、弱音が出そうになる。ソウタは気を紛らわせるように立ち上がって、一歩ずつ進む。

 不格好ではある。だが、彼はこの様を恥とは思わない。

 今はソウタである以前に、仮面蜂セラナだ。

 守るべき人々を見捨てて、逃げる訳にはいかない。

 

 己を奮い立たせるには、それで十分だった。



「…やるだけ、やってみよう」



 ヴエスの注意が向いていない今だからこそ出来る事。彼は舞台袖に向かった。

 


 



 一方で、ペルシェンカは結華を抱えたまま『ギフト』の形態の1つである《スピーダー》――今現在装着しているローラーブーツでステージ上を走り回る。

 そんな彼女達をスズメバチの大群が陣形を組んで突撃し、ヴエスが『ヴェノムキャノン』を次々繰り出して猛追する。



「ヤバッ! めっちゃ追われてるし! ちょっとぐらい休んだらどーなの!?」


「たぶん、聞く耳もたない……」



 結界を維持しつつ、結華はDJシステムを手元に寄せる。

 ペルシェンカに移動を優先してもらうべく、その為にも追撃への対処に移る。


 左右を問わないスクラッチと、パッド操作による衝撃波。

 荒れた状況だからこそ、リズムを重んじた適切な行動を。


 生じた2種類の魔法弾でスズメバチの陣形を大きく崩させ、毒砲を相殺する。

 撃ち漏らした分を結界で防ぎ切り、どうにかヴエス達の注意を引き付けられている。

 いるが、それだけで。

 


「…けっていだがほしい」


「確かにねー…、ヴエスを倒してはいおしまい、にはならないし」 


「あの糸をきれれば…」


「えっ、糸って何?」



 思わず結華は、見下ろすペルシェンカに顔を向ける。

 直後、まだ彼女は糸の存在を知らないという現状に気が付いた。

 間もなく冷静に戻った結華は、解決の糸口を告げる。



「ヴエスからのびてる糸があるの。上からのびてるのが」


「それホント? 《ゴーグル》!」



 急ブレーキと共に急旋回。その上でペルシェンカは他の『ギフト』に呪文を唱える。

 スポーツ用品のそれに近しいデザインへ変形したと同時に、ペルシェンカの目へと装着される。



「…あぁ、確かに。見えない糸って事はあれ魔法で出来てるの?」


「かくしょうはない。けど、かのうせいはたかい」


「じゃあ、簡単な話か。あれ魔法で切ったら良いんだね?」


「……」


 

 本当にそうなのか?

 結華は引っ掛かりを覚え、今一度、自身の目で()()

 魔力反応をより繊細に感知出来るようになったからこそ、警戒を払う。


 先程、セラナがしてやられたばかりに。

 

 現在、糸には見る事にすら嫌悪感を覚えるどす黒いオーラが纏わり付いている。

 問題はそのオーラでは無く、その奥にある糸そのもの。

 ヴエスの背中側に何本も付いている糸は、ヴエスが大きく暴れて尚も真上へ伸びている。


 伸びているならば、その糸の繋がっている先が、真上に居る筈。

 つまり、糸は罠であり、何らかの切断対策を仕組まれていると見て間違い無い。

 

 少しの沈黙の後、《シューター》と変形する『ギフト』を追加した事で握っている《エッジ》をそれぞれに持ち、進もうとするペルシェンカを紫スライムの手が引き止めた。



「――まって。今あの糸を切るのはダメ」


「何か分かったカンジ? その様子だと」


「うん。あばれてるヴエスはおとり。本体は上にいる」



 DJシステムのオート操作による弾幕形成と、展開し続ける結界でヴエス側の猛攻を阻みつつ、ペルシェンカと結華は見上げる。

 ステージの屋根にある丸い隙間を丁度通り抜けるそれらの先に、糸を操る存在が居ると結華は訴えていた。

 《ゴーグル》越しにこれを見ているペルシェンカに、驚きの色は無い。

 

 

「上。上かぁ……ああもまっすぐに伸びてるって事はそうだよね」


「どうにかしていける?」


「うーん、あーしじゃ無理かも…」



 ペルシェンカはステージに視線を戻すと、すぐに左右を見回しだす。



「…って、あれ? タルチちゃんはドコ?」


「かくにん、してみる」



 オーラを無視して糸だけを見たのと同じ要領で、今度はタルチの魔力反応を探り出す結華。

 その前に、観客席側にロギィとヨウヘイ、ステージ上にユドゥの反応を確認する。

『深魔族』には人間の物とは異なる、独特な魔力反応があるのを把握し、その上で彼女達と似た反応がもう1つ無いかを調べる。

 だが、この付近の地上には無い。早々に地上へ見切りを付け、再び空を見ると。


 丁度、降下を開始するタルチの反応を見た。



「――いた」


「今ドコに!?」


「おちてくる。――おおきいのといっしょに」



 ペルシェンカが驚愕するより先に、それはステージへ強く叩きつけられた。

 生じた衝撃と土煙は結界が自動的に阻む。故に、結華は目を覆う必要すら無い。

 数秒後、煙が晴れ視界が明瞭になると、正体が判明する。


 それは、甲殻類に似た鎧人形であった。

 この上に、タルチが火山を彷彿とさせる形状のハンマーを押し付け、伸し掛かっている。

 この場に居る全員に姿がはっきりと見えるようになった瞬間、黄色の少女は叫んだ。



「みんな、お待たせ! ユドゥの言う通り居たよ! 『べモン・ベルス』が!!」



 結華とペルシェンカは驚く。――同時に、突破口が見えた。

 床が砕ける程の強い衝撃で叩きつけられた人形は、その大きな両手で起き上がろうとする。

 これに素早く反応したタルチは再度押さえつけにかかった。



「こいつさえ倒せば…きゃあ!」


「タルチちゃん!」



 しかし、鎧人形のが有利だったか、タルチの小柄な体はすぐに振り落とされてしまう。

 床に落ちるタイミングで、タルチは『ゲート』を落下位置に展開し、その力場の中へ落ちる。

 

 接続先は――鎧人形の真上。出てきた彼女の体勢はハンマーをいつでも振り下ろせる状態となっていた。



「このぉ…えいっ!!」


「!!!」



 凄まじく、鈍い音がステージに響く。それから空中で回転しつつタルチは華麗な着地を決めた。

 打撃が如何な威力であったかは、鎧人形の大きく凹んだ表面が物語っている。



「す、凄いね…タルチちゃん……」


「あそこまでできるんだ…」



 並外れた戦闘センスは、天性のものなのか、はたまた培ってきたものか。

 一方の鎧人形は2度に渡る強い衝撃を受けてか、ステージからの離脱を諦める。

 選択肢を狭める事は出来たが、まだ終わりでは無い。


 鎧人形は最早自身の存在を隠す気は無いらしく、ヴエスを引っ張り出して前へ置く。

 そして、またも彼の状態を顧みない魔法の行使を行わせた。



「ゔぐっ、あ゛あ゛ぁ゛ぁあぁっ!!?」



 悲痛な叫びが木霊する。彼を中心にスズメバチの大群を弾幕のように発生させながら。

 先程の比で無い大きな陣形を組ませ、結華達へ、タルチへ、隠れているユドゥへ次々飛ばしていく。

 結華とペルシェンカは押されつつも結界でどうにか受け切り、タルチはその身体能力と『ゲート』の活用で回避し続けるも。

 膨張するフグ型物体が限界を迎えつつあり、遠目から見ても彼女の苦しそうな顔が見えた。



「ああっ、ユドゥ!」


「ユドゥちゃん!!」

 

 

 不用意に近づけない、その状況を押し付けられてタルチもペルシェンカもユドゥの身を案じる他無くなる。

 どうすれば。少し悩むが、悩む時間が惜しい程に余裕が無い。

 こんな時に、助けてくれる存在が居てくれたら。無い物ねだりではあれど、そんな願いすら頭に浮かんでくる。

 

 やがて、フグ型物体が破裂した瞬間、ユドゥの姿は大群が成す奔流に呑み込まれた――――筈だった。

 結華は視認する。このステージ上を圧倒的な速度で移動する存在を。

 

 そして、その存在の両腕に抱えられているユドゥの反応を。


 この事実から得られる希望が、結華を中心に希望を与える。

 同時に、今一度彼女達に思い出させる。


 此処は、ヒーローショーの舞台であると。

 安全地帯と判断したか結華の近くへ、その青年はユドゥと共に姿を現す。



「……はぁ、どうにか、間に合ったようだね…」



 荒い息をしながら、()は抱き抱えるユドゥへ呼び掛ける。

 天高く昇った太陽の光を一身に受ける彼は、この場に於いての本来の主役。

 全身に着用するスーツはボロボロで、体も少し震えている。

 だが、頼りなさを感じない。今しがた、ユドゥの危機を救ってみせたのだから。


 一方のユドゥの緑の目は、珍しく熱を帯びていた。

 それは恐怖からでは無く、目の前にある横顔を見た感動から。

 彼女は別人である筈の彼から、本物と寸分違わぬものを感じ取っていた。



「――あぁ、ごめんね、長々と。立てるかい?」



 弱った体であれど、労るようにユドゥの幼い体を下ろすソウタ。

 ユドゥは彼にあまり負担をかけないよう、成されるままに両の足で立って見せ、無事だとアピールする。

 だが、傷ついた彼の体を見て涙が込み上げてきた。



「う、うぅ。セラナ……」


「…俺は、へっちゃら、さ。君は早く、その中へ。……友達、の為にも、ね」


「……うん」



 涙を拭い去り、ユドゥは結界内へ急いで入り込む。

 これをソウタが見届けるまでの間、時が止まったかのような状況が再び動き出す。


 ヴエスと顔を合わせた途端に、ソウタはセラナの決めポーズを取った。



「…勝負、だ。……彼女達も、スーズメッズも、俺が救って、みせる……!!」


「…!」



 鎧人形はその宣言を不愉快と判断したか、スーズメッズ構成員達へ伸ばしていた糸も、再度ヴエスへ接続する。



「があ゛ぁ゛っ!?」



 糸が更に繋がると、痙攣しながらセイジが悲痛な叫びを上げる。

 こうして両者準備が整い、ショーの最終局面が開始するのだった。

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