第61話 見えた『希望』
「き、君達は…?」
突如として、スーズメッズの構成員達とセラナとの間に割り込んできた2人の少女。
後ろ姿しか見えずとも、その容姿はまだ幼い。避難を促すべきか、と思いセラナ役のソウタは問いかけた。
すると、彼女達は振り向く。人間の物とは程遠い肌色をしたその顔を露わにしつつ。
「助けに来たよ、セラナ!」
「手が足りないでショ? 手伝うヨ」
孤軍奮闘では無い、というのを示す申し出。だが、当のソウタは素直に喜べないで居た。
勿論、まだ幼い彼女達を危険に晒すのを許可出来ない良心もあるが。
彼らを退けたところで、根本的解決に至らない。その現実を突き付けられているのもあり。
「…気持ちはありがたい。だけど、君達を巻き込む訳には……」
「もう巻き込まれてるヨォ。加勢したって変わらないでショ?」
「……確かに。だけど、彼らをやっつけるだけではいけない、というのは分かるかな?」
この言葉を聞き、少女2人は気抜けた顔をする。ソウタは構わず続けた。
セラナ役のソウタ、ではなくセラナとして語らうのを意識しつつ。
「スーズメッズは確かに悪者だが、だからと言って彼らの全てが悪い訳では無い。…思い出してごらん、彼らが無理矢理暴れさせられた時があっただろう?」
「うーんと……あっ、37話『揺蕩うマボロシ』の回!」
仮面蜂セラナ本編の内容を思い出したタルチに、ソウタはセラナとして頷く。
「そう。俺はあの時と似たような状況だと考えてる。理知的なヴエスがああも暴れているのはおかしいからね。…俺は、ヴエス達を操る何者かが潜んでいると考えてるんだ」
「ふーム……」
1番前に立ち、殴りかからんとしていた構成員2人を海藻に似た髪を伸ばして拘束。
そこから更に前へ出ようとする抵抗力と引っ張る力を拮抗させつつ、ユドゥは注意深く観察する。
「あぁ見えるネェ。びっちり背中側に付いてるヨォ。上から伸びてる糸が何本もネ」
「…何だって!?」
「セラナにも見せてあげるネ。はい、サーモン」
『深魔族』定番の撮影合図を唱えつつ、ユドゥは自分のバッグからヒラメ型カメラを取り出し写真を撮る。
レンズ下から出てくる写真を引き抜くと、後ろ手でセラナへ渡した。
両手で受け取ったその写真に、はっきりと写っている。ヴエス達が自分達の意思で暴れている訳では無い証拠が。
「来る前から撮っておけば良かったネェ。他に出来る事が増えてたシ」
「――いや、ありがとう! やはり、俺の推測は間違って無かったようだ!」
感謝を述べるソウタの声が調子付く。彼にとっても都合の良い情報だったらしいのをユドゥは読み取った。
「オ、希望が見えた感ジ? じゃア、何をすべきかはっきりしたよネ」
「ああ。彼らを助ける。その為には、糸を切れば良いんだ」
「ついでにあの糸のサンプルを幾つか拾ウ。――タルチ、ちょっといイ?」
ユドゥは続いて向かってくる構成員達をも髪で拘束しつつ、タルチを手招きすると、彼女に耳打ちする。
ユドゥの元を離れたタルチは、頷いて応じた。
同時に、左手の方へ『ゲート』を展開する。
「分かった。じゃあ行ってくるねユドゥ」
「良い報告期待してるヨォ」
黄色い少女の体が力場の向こうへ消えた途端、『ゲート』はすぐに閉じた。
さらっとやってのけているが、かなりの芸当であると見て間違いはない。
だからこそ、セラナの仮面越しのソウタは驚いた。
「…今のは」
「転移魔法、って言えば分かるんじゃなイ?」
それから、ユドゥの視線は拘束を続けている構成員達に戻る。
彼女の視点から見ると、構成員達を操る糸のいずれもがヴエスの背中を経由して繋がっている。
恐らくは、スズメバチの幾つかにそのようにする命令を指示してあったのだろう。
タルチを不在にさせている間に、どのように対処すべきか。
髪で縛っていた構成員達を一先ず投げ飛ばす。続けざまに向かってくる構成員には足元に髪を伸ばし、足を引っ掛けて転ばせた。
この応酬の間に、待機しているスズメバチの大群はやって来ない。
これを踏まえて考えていると、ソウタが背中から声を掛けた。
「…場数を踏んでいるようだが、君達何者なんだ……?」
「ンー?」
「見た目で分からないノ?」と思うユドゥ。だが、『地上界』に於いての普段はコスプレと認識されている都合上、彼もまたそう認識しているのは無理からぬ事であった。
がっかりと感じる事も無い。ショーのセラナと本編のセラナは、同じセラナでも違うと理解している為。
「――ないショ」
ユドゥは振り向きざま、口元に人差し指を当てる。
『深魔族』である事をみだりに明かしてはならない、とヨウヘイに厳命されているというのを思い出したのもあって。
スーズメッズの観察を続けていると、見えてくる事実がある。
構成員達は突進し、近付いては殴りかかるのを基本とし、その上で都度、必要と判断したであろう行動を挟んでくる。
髪で拘束し、投げ戻した後。次に向かってくる複数人は伸ばす髪に対し、明確な回避行動を取るようになった。
それでも拘束されると、今度は髪を引き千切ろうと画策してくるようになる。
投げ飛ばすと、空中で体勢を調整し即座に復帰出来るようになる。
――見るからに一致していた。『べモン・ベルス』の学習する習性と。
「なるほどネェ……」
タルチ側の報告はまだ来ない。ユドゥは冷静に、限りなく事実に近い予測に留めておく。
首尾よくタルチが頼み事をこなせたなら、確定する事は出来るが。
ヴエスを含めたスーズメッズ構成員を助けると決めた以上、無力化は必要としても可能な限り軽傷に留めておきたい。
それでも、『べモン・ベルス』並みの学習能力を、向こう側は理性の無い状態で実現出来ているという事実を確認でき。
『生半可な対処ではかえって追い詰められる』と判断を改める他無かった。
それに加えて。ユドゥがヴエス側の状況を確認するタイミングで動きがあった。
「ゔ、あ゛あ゛ぁぁぅ」
攻めきれない構成員達にしびれを切らしたか。ヴエス側の糸が激しく動く。
待機させていたスズメバチの大群を、ユドゥとソウタへ向けて飛ばしてくるのだった。
「――来るぞ!」
「構わなくて良いヨ! 飛ばしちゃっテ!」
身構えていたソウタが、唖然とした様子で思わずユドゥの方を向く。
そうしている間にも、夥しい群れが迫りつつあった。
「ユドゥは無理だけドォ! セラナなら振り切れるでショ!? ヴエス側の糸を掻き乱しちゃってヨォ!!」
「――そうか! すまん!」
短い返事と共に、セラナは急加速しスズメバチの大群を易易と突破する。
そうなった直後、本編と遜色の無い空中機動を混じえた格闘をヴエスに向け繰り出していく。
それを遠目から、ユドゥは確認し。にっ、と笑む。
「あんまりヒーローに見せたくないんだよネェ……」
そう言いつつ、伸縮自在な海藻の髪を引き戻し、バッグに手を突っ込む。
取り出したのは、フグ型の造形物だった。これを少し揉むと、大きな放物線を描けるよう放り投げる。
「ユドゥってバ、搦め手の方が得意だからネェ……!」
スズメバチも、ヴエス以外の構成員達も、全てがユドゥへと向かってきている。
これこそ彼女の狙い通りであり。フグ型の造形物はこの好機を活かす為の策であった。
彼女はなるべく低い姿勢になれるよう、蹲る。
瞬間、落下軌道に入ったフグ型の造形物は大きく膨れ上がり。向かってきていた構成員もスズメバチも全て等しく受け止める。
受け止め、その吸着力で彼らを動けなくさせた。
その後に繰り出す、機械的な抵抗は全て空しく、それどころか造形物にその身を押し込む事になる。
構成員達とスズメバチの大群が膨らんだ造形物の表面に沈み込んでいく中、唯一動かない事を意識していたユドゥだけが造形物より押し出される。
完全に離れたタイミングで、ようやくユドゥは動いた。
造形物から2mの距離を取り、彼女はその成果を確認する。
「こんなものかナァ。さテ、援護は必要かナ?」
身に迫る危機を対処したばかりだからか、彼女の忙しなく動かす視線には余裕の色があった。




