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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Session.3 弾けろスパーク・エイトビート

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第59話 荒ぶる『スズメバチ』

 ヒーローショーを行う会場もまた、主張の強い装飾が満遍なく施されている。

 ショーの主役たる登場人物達が立つステージを中心に、そこから扇状へと観客席が配置されていた。

 バレルドームのそれを先に見た為に多少見劣りはするも。豪華なステージである事に変わりはない。


 到着した頃には、結華達一行だけでない団体の観客が既に数グループ集まってきている。

 ターゲット層に刺さっているのか親子連れの観客が多く、同性の友達同士で来ている客は少なかった。

 ……その来客の中でも一際目立つのが結華達なのだが。


 現在はヨウヘイの隠密魔法が作用し、目立つ姿の『オヒメサマ』達と結華の姿を誤魔化せてはいる。

 が、やはりと言うべきか、ペルシェンカには効き目が無い。

 それでも、日焼けかもしくは地肌なのか、褐色肌の客は複数人見受けられる。

 彼女だけにヨウヘイの魔法が適用されずとも、特に悪目立ちをする事は無かった。


 唯1人、場違いに映るスーツ姿のヨウヘイを除いて。



「ヨウヘイ、ワタシ達と居る時くらいカジュアルな服にした方が良いわよ…」


「でも、これが僕の特別業務なんで……あんまりラフにするとサボってるとか言われますよ……」


「悲哀を感じるネェ…」



 実態としては、急な業務を増やしてしまっている。

 周囲からは正装で子ども達に同行する変人に思われているかもしれない、と思った『オヒメサマ』達は、申し訳無さを覚えるのだった。


 そんなやり取りをしている内にブザーが鳴り出す。

 開演が近いらしく、観客の注目はまだ誰も居ないステージに集まった。


 すると、舞台袖からミツバチをモチーフとした配色の制服に身を包んだ女性が姿を現す。

 被るハット帽からは、蜂の触覚を模した装飾が伸びていた。

 装着しているマイク越しに、快活な声が響き渡る。

 


「みなさん、こんにちは~!」


『こんにちはー!!』



 程良いソプラノボイスでの昼の挨拶へ、直ぐ様大勢のレスポンスが返ってくる。

 何となく予想の付いたペルシェンカは合わせられたが、結華は完全に出遅れた。

 紫肌の少女だけが返事出来ていないが、制服の女性は気にせず続ける。



「はい、良いお返事ですね! ヒーローショー『仮面蜂セラナ ~宿命の対決!! ヴエス伯爵襲来~』にようこそ! 皆さんはこのステージに来るまでに他のアトラクションを楽しんでこられましたか~?」


『は~い!!』


「うん、楽しんできた…」



 定型文での返事では無いものの、今度こそ反応出来た。

 結華は隣に座るペルシェンカやロギィに確認を取る。彼女達は微笑みながら頷いた。



「元気いっぱいのお返事、ありがとうございます! 面白いアトラクションや、思い出に残るアトラクションがありましたでしょうか。皆さんの『好き』が見つかったなら幸いです! アトラクションの他にも楽しいステージやイベントが盛り沢山ですので、そちらも是非楽しんでいって下さいね〜!」



 大きな拍手が湧き起こった後、制服の女性はタイミングを見計らって続ける。



「――さて! 間もなくヒーローショー『仮面蜂セラナ ~宿命の対決!! ヴエス伯爵襲来~』が始まります! 皆さん、元気な声で仮面蜂セラナを呼んでみましょう! せーのっ――」


『セラナーッ!!』



 声を張り上げるよう促すジェスチャーに合わせ、観客席の誰もが今回の主役たるヒーローの名を叫ぶ。

 その声に応じて、舞台袖から1つの人影が飛び出した。

 颯爽と現れた、ヒロイックなビジュアル。

 彼こそが、仮面蜂セラナであった。



「やあ、みんな! 今日は来てくれてありがとう!!」



 仮面越しに聞こえるその爽やかな青年の声に、くぐもった様子は無い。

 それもその筈、スーツアクターを兼任する演者から発せられる声には魔法による補正がかかっているからだ。


 セラナの姿を見た途端、会場が沸き立つ。

 主に幼い子ども達のはしゃぐ声が強く。明るくない結華やペルシェンカから見ても、人気の高さを伺い知れる。



「うん、良い元気だ! 今日も君達の笑顔と明日を守る為に戦うぞ! よろしくな!!」



 セラナの観客席に負けない声量と快活さに耳にしつつ、ペルシェンカは隣に座るユドゥへ尋ねる。

 初めて見るヒーローの姿にどうにも、違和感が拭えなかった為に。



「ねー、作中のセラナってこんなカンジなの?」


「大分改変されてるネェ。活発と言うより凛々しい性格だよセラナはサ」


「あー、やっぱり? なんかヘンな気がしてさー……。でも、ツッコむの野暮だよね」


「そうだネェ。コレぐらいなら充分許容範囲だヨォ」



 会話を打ち切り、2人の視線はステージに戻る。

 セラナ本来のイメージから少し離れているが、それでもヒーローショーのセラナである事に変わりは無い。

 懐疑的な目で見るのは今しがたショーを楽しんでいるロギィやタルチ、結華に失礼だと思い、慎む事とする。

 


「――世界征服を目論む軍団、『スーズメッズ』は危険な組織だ。人々の営みを壊し、幸せを奪い、悲しみや怒りの絶えない世界にしようとしている。…そんな組織の好きにさせてはならない。だから俺は立ち向かう。皆の応援を胸に!」


「がんばってー! セラナー!!」


「まけるなー! セラナ!!」


「――応援ありがとう! 君達の笑顔と元気が、俺に勇気と力を与えてくれる! いつもありがとうな!」


 

 唐突な応援に、セラナはしっかりと反応を示す。

 アドリブなのだろうが、ファンサービスを欠かさない。仮面蜂セラナと関連シリーズのブランドは勿論、ヒーローショーが人気を維持できている理由がこれなのだろう。

 

 和やかな応対の最中、急に耳障りな警報音が鳴り響き出す。

 流れていたBGMも緊張感の高まる物に切り替わり、場面転換が起こったのは一目瞭然であった。



「! この音は!」



 セラナが大袈裟に左右を見渡すと、セラナの居る位置とは真逆――左側の舞台袖より、荒々しい動きでとある集団が乱入してくる。

 彼らこそが、セラナと敵対する悪の組織、スーズメッズ。名前の通りスズメバチをモチーフとする異形の戦闘服で、害をなさんとするのは見て取れた。



「出たな、『スーズメッズ』! という事は――――!」



 そして、先に出てきた集団は構成員に過ぎない。

 この構成員達を束ねる存在も、当然の如く存在する。

 彼らの背後より闊歩して現れる存在こそ、今回のメインヴィラン。ヴエス伯爵であった。


 ある程度前に出た後、相対するセラナが臨戦体勢に入った。

 


「ヴエス! この『ハニュラト・ガーデン』に何をしに来たんだ!!」



 セラナの発言からして、対面するヴエスが決められた台詞で返す……というのが本来の流れなのだろう。

 しかし、今回ばかりは違った。



「…………」



 ヴエスは立ち止まった途端、首を小刻みに左右に振ってばかりで、何も返事をしない。

 その姿には、異形軍団のリーダー格に相応しい、異質感こそあるも。

 即興劇では無い、決められた流れに沿ったショーである為に、妙な間が空く。



「ヴエス! 聞いているのか…?」



 本来の流れで無いのか、セラナ役の声に若干の困惑が混じる。

『スーズメッズ』構成員達も首を傾げだし、困惑は観客席にも移った。



「…何?」


「どうしたのかしら?」



 親子連れの父親も母親もざわつきだす。

 結華はその一部始終を見てから、『オヒメサマ』達の反応を伺う。彼女達も眉をひそめていた。


 ヴエスの小刻みの動きが止まった、その瞬間。

 彼の背中より、大量の物体が溢れ出た。



「う…うゔぁああああぅッ!!!」



 流れているBGMに負けないレベルの騒音と共に、大量出現したのは本物と遜色ないスズメバチ。

 数百どころか数千に上る夥しい数のそれがヴエスのマントを翻した背中より解き放たれ、これらが無差別に飛来する。


『スーズメッズ』構成員へ。セラナへ。ステージ舞台袖へ。そして、観客席すら例外ではなく。

 あまりの事態に、ステージからも観客席からも悲鳴が上がった。



「きゃああああッ!!」


「うわあああぁッ!!」


「なにこれ、なにこれ、なにこれええぇぇッ!!!」


「ハチだぁぁぁッ!!!」



 阿鼻叫喚。楽しく眺める筈のショーが、生き地獄と化した。

 飛び交うスズメバチの全てが凶暴性が増しており、突き刺しにかかる針には毒こそ無いものの激痛が伴う。


 1匹が止まった瞬間、数十匹単位でスズメバチが纏わり付く。あまりの痛みに刺された人々は呻くばかりでその場から動けずに居た。

 そして、動けなくなった途端、更なる激痛が襲いかかる。



「痛ッ! 痛いぃぃ!!」


「刺さないでぐれッ」


「おがーさ゛ん! おか゛ーさ゛ぁぁん!!」


「うわぁぁぁ!!」



 そして、凶暴なスズメバチの群れは逃げ遅れた他の観客を刺すだけに留まらず。

 結華達一行にも襲いかからんとする。

 ヨウヘイを庇うべくロギィ、タルチ、ユドゥが固まる一方で。

 結華とペルシェンカだけは、平然と座っていた。



「なっ、何してんのよ!!」



 悠長な振る舞いに思わず、ロギィが裏返る程の声で叫ぶ。

 当の結華は彼女の必死そうな様子に、首を傾げた。



「…えっ?」


「えっ、じゃ無いわよ! 早く、避難なさい!!」


「ショーのいっかん、じゃないの?」


「何処に観客虐めるショーがあんのよ!!」


「へっ…そうなの?」


「あ、危ないよペルシェンカ!!」



 タルチの悲鳴に、ペルシェンカが視線を戻した瞬間、目の前より大量のスズメバチが迫りきていた。

 それに対し、彼女は髪飾りのキューブを1個、引き抜く。そして――――。



「《シューター》」



 放たれた光線が、それらを爆ぜ飛ばした。無力化されたスズメバチは散らばり、動かなくなる。

 何が起きたのか、と確認を取る『オヒメサマ』達とヨウヘイの目にもようやく視認される。

 確かにペルシェンカの手に握られた、光線銃の姿を。



始めてよ(ジェック・ベッタ)DJマレオル(アノイマレオル)



 一方の結華はマイクを握り、マレオルトフィへの変身を完了させるべく。

 焚かれたスモークの中、背後に開いた空間へその身を放り出すのだった。

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