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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Session.3 弾けろスパーク・エイトビート

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第58話 『本番』が近い

 『アピス先生の楽園探訪』を楽しんでから40分後。結華達の姿はメリーゴーラウンド『ハニカムサイクル』にあった。

 『ハニカムサイクル』はその名の通り広い六角形の台座の上をミツバチ型の座席に乗って3周する。

 子どもも大人も乗りやすいように設計された座席は、大学生のペルシェンカはもちろん、最年少である結華も安定した体勢で乗り込む事が出来た。

 ハニカムだからか、台座からはほんのりと蜂蜜の甘い香りが漂う。


 乗ったのは女性陣だけで、ヨウヘイのみ遊具の外から自分のスマホを横向きにして構えている。



「みなさん、こっち向いて下さーい!」


 

 ヨウヘイの声を合図に、近い座席の配置で固まっていた他の一同が笑顔で手を振る。

 ベストタイミングで撮影されたその写真は、テーマパークを満喫している様そのものだった。


 楽しい時間というものは、あっという間に過ぎていく。

 既に入場から1時間以上経過しており、時刻は11時を迎える。

 観覧車や屋敷型アトラクションをも堪能した一同は、ロギィの先導でとある場所へ向かう。


 ご機嫌な様子で歩くロギィへ、結華が問うた。

 

 

「次はどこへ行くの?」


「ヒーローショー。そろそろ開演時間になるからね」


「仮面蜂セラナだネ。幾つかシリーズがあって確か4作目だっケ」


「今回はヴエス伯爵との対決を描いたものらしいのよ。物語の佳境にあたる所だから凄いアクションが見れる筈だわ」


「見たことないけど…楽しめる?」



 結華の不安げな問いに、『オヒメサマ』達は堰を切ったように答え始める。

 


「ええ、保証するわ」


「盛り上がる場面から見ても良いシィ、それぞれが独立したストーリーだから、シリーズを順繰りに見なくても良いんだよネェ」


「オムニバスって言うんだよねあのエピソード形式。だから、途中から見ても面白いよ」


「そうなんだ」



 続いて、結華の顔は聞き耳を立てていたペルシェンカへと向く。

 話の流れからして何を聞かれるかを予想した彼女は、たじろいだ様子を見せた。



「ペルシェンカお姉ちゃんは…」


「あーし詳しくないんだよね……友達も知らないかも」


「お姉ちゃんも、ともだちも、せんもんがい?」


「うーん…そーいう事にしてくんない?」


「分かった」



 深い溜め息を吐きながら、ペルシェンカは続ける。



「…アニメならそれとなくは分かるんだけど、多分特撮? だよね」


「トクサツ?」


「番組の1種、なんだって」


「そんなばんぐみ、あるんだ」



 情報量の乏しい会話に、見かねてかロギィが加わる。

 


「会場に行けばパンフレットが貰えるはずよ。ほら、急ぎましょう」



 百聞は一見に如かず、であるべきか。

 刻一刻と近付く開演時間に間に合うよう、一同は少し急ぐペースで会場に向かった。




 その一方で。

 ショー会場の楽屋内にて、今回の出演者達が最後のリハーサルに取り掛かっていた。

 1人と、複数人が向かい合う形で。

 

 1人側は、黄色と白の配色を施されたミツバチモチーフのヒーロー、今回の主役である仮面蜂セラナ。

 作中に於いては孤高に戦うヒーローであり、彼の確固たる信念はミュジ・シャニティを始め様々な国の子供達を勇気付けている。

 

 複数人側――つまり、ヒーローと敵対する勢力の軍団側は当然ヴィランとなる。黄色と黒の配色を成されスズメバチをモチーフとする悪の組織スーズメッズである。

 装飾のそれなりに、いかにも強そうには見えないデザインの複数人はスーズメッズの軍団員だ。

 その数人の中に1人だけ、貴族然とした強そうな装いの存在が居る。

 それこそが、今回のショーを盛り上げる宿敵、ヴエス伯爵である。


 彼らは本番用のスーツを頭部以外着用し、本番同然の間隔で台本片手に通しをする。

 本番で使用する魔法こそ端折るものの、ヴエス率いるスーズメッズの軍団とセラナの戦いには熱が入っていた。


 そして、戦いは終わりに近付く。

 ヴエス役の男は大袈裟にマントを翻した。

 


「貴様との因縁、此処で断ち切ってやろうぞ! そして世界は我々スーズメッズが支配するのだ!!」


「そうはさせるか! 生きとし生ける人々の笑顔を奪わせやしない! この仮面蜂セラナが守ってみせる!」



 実際には戦ってはいない。だが、スーツアクター達の演技力には確かな臨場感があり、それを遠巻きに見るスタッフ達の想像力をも掻き立てさせる。


 戦っているという様子の、身振り手振りの応酬が終わると、セラナ役の男が叫んだ。



「ヴエス! お前の野望を打ち砕いてやる!」


「ふん! 返り討ちにしてくれるわ!」


「『スティング・シュート』!」


「『ヴェノムキャノン』!!」



 セラナは跳躍の素振りを、ヴエスは右手を前へ掲げ、両者は少し腰を落とした。

 お互いが踏ん張る様子を見せた後、雌雄は決した。



「バ、バカな! ありえん、これ程の力とは!」


「うおおおおおっ!!」


「――ぐわああああッ!!」



 迫真の叫び声とヴエス役の仰け反りを合図に、控えていたスタッフが前に出る。

 それが意味するのは、演者達にとっての朗報であり。



「――はいっ! オッケーです!! バッチリですよ皆さん!」



 スタッフ――つまり、第三者が介入する事で、先程までの臨場感と緊張が嘘だったかのように消え失せる。

 これによって、セラナとスーズメッズの軍団は彼らを演じる者達に戻ったのだ。



「セイジさん、ヴエス役がすっかり板につきましたね! 本物かと思っちゃいました!!」


「ソウタさんこそ、セラナ役似合ってますよ。まだこっちに来てから1年も経ってないのに。…今度やる新作のオーディション、受けてみたらいかがです?」



 敵対しているのはあくまで物語の中での話。

 セラナ役のソウタと、ヴエス役のセイジは仲の良い演者同士であり、彼らがメインのスーツアクターをやる日は決まって好評を博していた。

 

 

「いやー、僕じゃあ本家のヒーロー役はとてもとても。あそこの競争率、どれだけ高いか知ってます?」


「厳しいとは聞きますが、そんなに? てっきり都市伝説の類かと」


「若手の登竜門という側面もありますからねー。若い子って運動は勿論魔法のセンスも良いですから、どうしたって勝てませんよ」


「そうは言っても。ソウタさんも充分お若いのでは?」

 

「アラサーはおっさん呼ばわりされるのがここ最近のムーブメントなんで……」


「そこまで? …じゃあ私はおっさん通り越してジジイという訳ですかね?」

 

「セイジさんが? ……そうは見えませんけど」



 少しの沈黙の後、ソウタとセイジは笑い出した。



「――ふふ、冗談ですよ。まだまだ老けるつもりはありません。心も体も」


「そうですね。10代の頃の無茶は出来ませんけど、お互いエネルギッシュに頑張りましょう!」

 

「ええ、その意気で」



 話を切り上げ、演者達は続々舞台袖へ向かい始める。

 ヴエス役のセイジも、先に行くソウタと同じ様にヴエスの頭部を着用する。

 本番への準備が整った、その時。



「――――?」



 ふと、後頭部に静電気のような違和感を感じ取る。

 だが、一瞬の出来事だった為に、それ以上の違和感は起こらない。



「…気のせいか」



 合理的解釈を呟き、違和感をそのままにしておいた。



 ……()()が、異変の前兆だと気付けぬまま。

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