第57話 『蜜』は甘いか
ポップカルチャーの最先端たる人工島ミュジ・シャニティ、その都市圏に位置するミュジ市。
島の中心部たるその地域の更に中央部には当然のようにテーマパークも存在する。その内の1つが『ハニュラト・ガーデン』。
『オヒメサマ』達と結華、付き添いとなるヨウヘイの一行に新たにペルシェンカを迎え、向かう先がそこである。
ミツバチを主なモチーフとし、関連要素としてハチミツとハニカム構造を採用したテーマパークで、黄色を主軸とした配色を採用している。
正門前へ辿り着いた瞬間、ペルシェンカが目を輝かせた。
「すごっ! 全部黄色いじゃん!」
「それなりの規模らしくて、いつ来てもわくわくするわ」
ペルシェンカに同調するロギィの声の調子も明るいものになっており、どの程度胸が躍っているのか読み取れる。
ユドゥとタルチの様子を見てもロギィと同じ様で。ヨウヘイも釣られるように笑っている。
唯一、真顔のままであった結華は尋ねる。
「それで、バレルドームのように手つづきするの?」
「ええ、そうよ。入場券を買うの。ついて来て」
正門をくぐった次にあるのはパークの受付。
見慣れない光景に結華は忙しなく左右を見ながら、ロギィ達に続くと。
ミツバチを模した帽子やカチューシャを身に付け、袋を両手に抱えて幸せそうにパークを去る親子連れとすれ違った。
「……あれくらい、楽しめるかな」
ふとした結華の呟きはロギィ達の談笑で掻き消されるが、彼女は気にしない。
ロギィよりそれぞれへ入場券と場内マップが配られ、正式に入場が認められる。
受付から更に歩いた先にある蜜花広場と呼ばれる、中央の花を模したオブジェが目立つエリアに辿り着くと同時に、ロギィが振り向く。
当然のように、彼女は結華へと尋ねた。
「それで、何処から見て回る?」
「うーん…」
様々な視線を受けながらに、結華は周囲を見渡す。
蜜花広場は正門に隣接したエリアなだけあって、他のエリアの主要アトラクションの殆どをこの場所から視認出来る。
立っている位置を変えないまま、数種類のジェットコースター、観覧車、メリーゴーラウンドに屋敷を模した施設と定番のアトラクションの姿を結華は目の当たりにした。
当然の如く、ミツバチと関連する物の要素が盛り込まれているその姿を。
確認した上で、結華はある一方を指差す。指し示した先を一同が目で追った。
「あそこ。あそこに行きたい」
その先にあるのは初心者向けのジェットコースター、『アピス先生の花園探訪』だ。
名称にあるアピス先生とは『ハニュラト・ガーデン』の名物キャラクターであり、デフォルメされたオオミツバチに教師の服装を着せた容姿をしている。
場内マップや『ハニュラト・ガーデン』の各アトラクションにも様々なイラストが描かれていて、慣れ親しむのに難くない。
閑話休題になるが、『アピス先生の花園探訪』はアピス先生に習う生徒ミツバチの群れを模したコースターに乗り、それなりのスピードで緩やかなカーブにちょっとしたサプライズ要素を加えた短めのコースを1周する。
刺激のあまり強くない絶叫系アトラクションだが、だからこそ初心者向けと呼べるアトラクションでもある。
入場して間も無い内に、最初に向かう場所が決まり、ロギィは快く応じる。
「アピス先生の所ね。じゃ、早速行きましょう」
向かう道中、『ハニュラト・ガーデン』初心者の結華とペルシェンカへ、ロギィは懇切丁寧にルートの取り方、マップの見方とマップそのものに搭載されているギミックを教えるのだった。
その後、アトラクション内部にて。
入場口から先導する場内スタッフの案内により、ロギィとユドゥ、結華とペルシェンカ、タルチとヨウヘイの順でコースターへ搭乗する。
そして、スタッフの安全確認の後それぞれのラップバーが下りて発進準備が整うのだった。
「間もなく開校です! それでは、花園巡りをお楽しみ下さい!」
台本通りであろうと、快活で大きい声にそう言われれば想像力を掻き立てられると言うもの。
初心者向けであろうと、世界観の構築と維持に抜かり無く。
学校のチャイムを模したジングルと同時に、徐々に前進し始め、程良い加速で外へと進んでいった。
◇◆◇
20分後、一同の姿はアトラクションの出口の先にあった。
にこやかな顔をする『オヒメサマ』達とヨウヘイ。ある程度歩いてからロギィは後続する結華達に問いかけた。
「どうだった? 初めてのコースターは?」
振り向き見る先にあるは褐色肌と紫肌。
彼女達は目を合わせるまでもなく、上機嫌を露わにした。
片や上気した顔で、片や大人びた色気を含ませつつ。
「とってもおもしろかった。アピス先生、すきになった」
「ストーリー仕立てで見飽きない構成だったね~。絶叫系あんまり好きじゃなかったけど、これなら全然あり」
目を輝かせる結華の姿は年相応に見え、無邪気な印象を与える。
笑顔を浮かべながらも冷静に振り返るペルシェンカは、聡明な印象を与えた。
彼女達の感想を聞き、ロギィは一層笑みを浮かべた。
「気に入ったようね。最初に来て正解だったかしら?」
「うん。ありがとう、ロギィにみんな」
「ふふ、元気になってくれて良かった」
結華自身も自分を見直してみれば、気が晴れたのを感じ取る。
ぶつかった問題への根本的な解決では無いものの、悪い気はしなかった。
気持ちが切り替わった事で、結華はロギィに尋ねてみる。
「……ロギィたちって、このパークに何回行ったことあるの?」
「これで5回目になるわね。ペルシェンカも言ったように、見てて飽きないのよココ」
「そうだネェ。『魔深界』のとはまた別の味わい深さがあるよネェ」
ユドゥの同意を聞き、ペルシェンカも会話に混ざった。
彼女もまた『オヒメサマ』の事情をそれとなく把握しており、『魔深界』の存在を踏まえた上で話を続ける。
「へー。アッチはアッチでこういうテーマパークあるんだ?」
「クラゲとかイルカとかのがあるわね。――それでも、1番印象に残ってるのはサメのヤツ、かしら」
「サメ? B級映画みたいな?」
「そのビーキュー映画とやらを知らないけど……ゾッとする感じだったわよ。被捕食者の気分を味わえるスリル満点のアトラクションがいっぱいあるの」
「それは怖いなぁ。やっぱB級映画みたいかも」
「『地上界』っテェ、サメが暴れる映画があるんダ?」
「そーだよ。人食いサメが平和なビーチにやってきて……みんな食べちゃうぞー! ってカンジ」
「面白そうだネェ。どうやったら見れるノ?」
「DVDとかの記録媒体で見るって手段もあるけど、ストリーミングで見るってのもあるよ?」
「ヘェ。もっと教えてヨ」
「いいよ。うーんとね――――」
会話はごく自然な流れでサメ映画の話題に移り、興味を示したユドゥに、スマホを操作しながら映画を見る方法を教えるペルシェンカという状況となった。
そんな2人の後ろ姿を見ながら、ロギィとタルチ、結華が目を合わせる。
「ユドゥがあそこまで興味を持つなんてね……」
「めずらしい?」
「ええ、あの子のお兄さんや親戚の人が技術屋だから、テクノロジーに興味を持つのは不思議じゃないけど……よりにもよってサメよ? サメが暴れる映画なのよ?」
「むこうだと、サメはどんなあつかいなの?」
「序盤で出てきてはやられる敵役がもっぱら、ね。メインに据えるなんて聞いた事が無いわ」
「じゃあ、どんなてきがメイン?」
「……ワタシ、そこまでは……」
「じゃあ、私が。ここ最近だとタコやイカのパターンが殆どだよ。後、昔の映画では海底火山を背にした巨大カメとかエビとかが居たよ」
「タルチ、アンタ詳しいのね…」
「お爺ちゃんが映画コレクターだから、1ヶ月に1回、家で上映会してるんだ。お父さんお母さんも欠かさず来てくれるんだよ?」
「たのしそう…」
結華が感想を呟いた頃に、ストリーミングサービスの紹介が終わったペルシェンカとユドゥも再び一同へ戻ってくるのだった。




