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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Session.3 弾けろスパーク・エイトビート

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第51話 『心構え』の重要性

「まッ…間に合った……」



 包囲網を敷いての質問攻めは思いの外時間を食ったらしく、教室に辿り着いた頃には始業時間ギリギリになっていた。

 注意されない程度の早歩きで、それでも神経を尖らせつつ最短ルートを通った2人は授業が始まる前から疲労を露わにする。


 自分の机に着席してから少し休む。休んでからようやくシノが口を開いた。



「もう! ジンくんったら生真面目過ぎ! あんなのテキトーにあしらっておけば良いじゃん!!」


「あ、あァ…悪ィ……」



 叱られている理由がしっくりこないが、それに抗議する気も元より無い。疲れているから、というのもあるが。

 一方のシノはジンの目の色を伺うように、声の怒気を調整する。



「…それにしても、何であんな状況になったの?」


「マレオルトフィ…話題になってるDJ少女居るだろ。アイツ、ユイカなんだ……」


「え、初めて聞いたけど」


「こんな騒ぎになるとは思って無かったからな…」



 祭りの前から予兆こそはあったが、『フェルク・レスタム』当時に目撃されたという情報の新鮮さと影響力が加わる事で凄まじいものとなった。

 ジンからすればそう言う他無い。同学年どころか先輩後輩も混じって個人に詰め寄られれば誰だって参る。


 シノは考えた後、再び尋ねた。



「ユイカちゃんはこの事知ってるの?」


「それとなくは、だろ。アイツが事の大きさ理解してるとは思えねェが」


 

 ジンのこうした返答を聞くと、シノはまたも黙考した。

 まだ担任教師は来ないが、沈黙の時間が長く感じる。

 荷物を取り出そうとしたところで、シノが口を開く。

 


「……うーん、困ったな」


「困る?」


「だって、ユイカちゃんの目的はお姉さん探す事でしょ? こんなに目立って良いのかな、って」


「それは、そうだな……マレオルトフィが目当てで人探しは手伝わないヤツも出てくるか」


「ユイカちゃん、(そと)()(ある)くタイプ?」


「直接は見てねェが、恐らくそうだな。街歩き回るの嫌じゃねェみてェだから」


「じゃあ、もし。外でマレオルトフィってバレたら?」


「…もみくちゃにされる。起こり得るな……」


「でしょ?」



 そして、結華の目的は進展が無いのも想像に難くない。こんなあり得る状況に結華自身が耐えられるのか。

 疲労感こそ抜けたが、ジンの顔から血の気が引く。



「ひょっとしなくても、オレマズい事言ったか?」


「今になって気付いた? ジンくん駆け引きヘタ過ぎだよ」


「うぐ」


「こんなんじゃユイカちゃんがあの少女だって、すぐバレちゃうかも…」


「どうすりゃ良いんだ…?」


「落ち着くまでは余計な事言わない方が良いかもね。…でも」


「でも?」


「これって、防げた事なのかな」


「……」



 そもそもが、『サン・トゥ・ラトール』で撮影された写真が発端となる。

 この時点では店と彼女だけに注目が集まっていたが、『フェルク・レスタム』でのバッジ配布の瞬間を撮影され拡散。件の少女の隣に写るジンとの関係性を深堀りしたがる野次馬根性が芽生え、今の状況へと膨れ上がった。

 後者だけ撮影禁止を当時に命じたところで焼け石に水。どうあっても結華とジンは目立つ容姿であるからだ。

 

 未然に防ぐ為を考えれば誂向きの能力を、『オヒメサマ』の同行者が持っていたなど知る由もなく。


 シノとジンは、手の打ちようが無い事を思い知るのだった。



「それでも、ジンくんのは余計だったからね? たまたま出会ったとか言い様あったでしょ?」


「う…そりゃそうだが……」



 「釘を差さなくても良いのに」と抗議したかったが時間切れ。

 担任教師の「お前ら席に着け」の一言により、彼らは会話を切り上げ朝礼の準備に入った。

 

 塞ぎ込んでいたツケが来た。ジンはどうしようも無さを感じつつも会話下手な自分を呪うのだった。

 一方のシノは。彼の疲労は何も校舎付近での出来事に留まらない、と会話の最中に感じ取った。


 

 

 ◇◆◇




「朝があんだけ騒がしかったのが嘘みてェだな」



 授業と授業の合間に挟まる休憩時間中に他の生徒が押しかけて来ないか心配だったが、誰も話しかけてこないまま時は昼休憩に。

 食堂のいつもの席で弁当箱の包みを広げていると、いつものようにシノが自分の昼食を持って対面の席に座る。



「ねー。何か気になるニュースでもあったのかな?」


「ニュース、ねェ…」



 まだ弁当箱の蓋を開けていないと、ジンはスマホを取り出す。

 ネットニュースを調べていると、マレオルとの関係性への興味が消え失せる程のビッグニュースが見出しに映っていた。



「『ラ・ダ・リーシェ』が島の各所でライブツアーする、ってさ」


「『フェルク・レスタム』が終わって間も無いのに? どうして?」


「さァな。ファン感謝祭も兼ねてで、次の日曜かららしい。ミュジ市で始まって、そっからぐるぐる回るんだと」



 鉄は熱いうちに打て、とはこの事か。『ラ・ダ・リーシェ』のプロデューサーは敏腕か、あるいは余程の恐れ知らずなのだろう。

 祭りの主役、そのまた更に大トリであったアーティストのニュースならば、見かけた程度しか情報が無い、アーティストですらない新参者が敵う道理など皆無だ。

 何らかの作為を感じるものの。失言の可能性が大きく減った事に、ジンは心の中で感謝するのだった。

 

 

「大胆な事するねー。よくあの人達了承したね」


「結構な大舞台だったが、あれだけでへバるようじゃ島1のアーティストなんて名乗れねェだろうしな」


「そういうものなんだ…」


芸術家(アーティスト)ってのはそういうモンだ」



 物事を思い通りに動かせる程の凄まじい実力の裏には、困難と葛藤が伴う。

 

 定番曲の数々を評価の1番高いライブで聞いたからこそ、ジンはこれを確信していた。

 スマホを仕舞い、「一体どんな努力をしてきたのやら…」と呟いていると、対面のシノの悪戯心をくすぐったらしく。

 意地悪な問いが投げかけられた。



「じゃあ、ジンくんも負けてられないよねぇ?」


「そのつもりだが?」


「…へ」


「――そのつもりだが?」

 


 興味本位への即答。シノへと向けられた至って真剣な眼差しには、強い眼力が宿る。

 スイッチが入ったジンは、固まるシノを気にせず続ける。



「負けられねェつっても別にオレはバンド組むワケじゃねェが。『ラ・ダ・リーシェ』には『ラ・ダ・リーシェ』の、オレにはオレの探求する〝芸術性〟がある。それは音楽にだけ見出だせるワケじゃねェんだ。『ラ・ダ・リーシェ』は音楽に、オレは絵画に、ってだけだ。裏で何十、何百…あるいは何千回か? まァ幾度と無く繰り返してきたんだろうな。自分らが納得するまで。オレもそれに倣えば良い。――してこなかったワケじゃねェが。コンクールまではまだ時間があるから、新しい事も取り入れるべきだろうなァ。そういやキョウカ先輩やコルネンのヤツがライブドローイングしてたな。アナログイラストでもあそこまで描けるのか、って感心したんだ。オレもアナログの可能性追求してみるか。デジタルも悪くねェんだがな、まだちょっと液晶で描くってのに慣れねェな。AI生成ってのもあるがオレが手ェ出すと腕鈍りそうなんだよなァ。パッと見は整ってんだが細部がどうしても気になっちまう。オレああいうの無視できねェんだよ。思い付くだけザッと上げてみたが、どうしてもあれこれ理由付けちまうな。ケチ付けてェワケじゃねェのに。……大きな方針転換はまだ早ェか?」


「――わ、分かったから! ご飯食べよ。ね?」



 気付くと、シノは参った様子を見せていた。

 昼食の時間は10分程経過しており、周囲を見ればもうすぐ完食する者がちらほらと出てきている。



「…あァ、そうだな」



 彼女の様子に疑問を抱きつつも、ジンは弁当箱の蓋を開け、ようやく手を付けるのだった。


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