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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Session.3 弾けろスパーク・エイトビート

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第50話 祭りの『後』に

 過去の事と割り切って考えないようにするのは、難しい。

 昔に刻まれ、今も尚抱える心の傷の原因となった光景ならば尚の事。


 結華に悪気は無かった。それは心得ている。得てはいるが。

 出来る事ならば、放っておいて欲しかった。


 登校中のジンは、辛気臭さを露わに校門前へ辿り着く。

 まだ、思い出した悲しみが拭える程落ち着けてはいない。

 せめてもの形で、ジンは表情だけは取り繕う事にし、校門手前に立つ男性教師へと挨拶する。



「…おはようございます」


「うん、おはよう」



 朝から朗らかな声色で挨拶を返される。

 少々申し訳無さを覚えるが、それを意識して直ぐ様改善出来るなら過去に囚われてなどいない。

 気まずい時間が流れるが、男性教師――白髪の目立つ初老の男は然程気にしていない様子だった。

 どころか、気が晴れないジンを気遣うような素振りすら見せる。



「眠れなかったかい?」


「まァ、そんなところですかね。居眠りしないよう気を付けます…」


「昨日までの祭りには行ったかい?」

 

「ええ。楽しかったです、けど?」


「そうか。それは何よりだ」

 


 そこまで親しい間柄では無いが、今日は会話が続く。

 何処となく引っ掛かりを覚えたが、ジンは『フェルク・レスタム』が終わったばかりだから、と判じて詮索はしないようにする。



「…引き止めてしまって悪かった。ではまた」


「えっと、はい…」



 通り過ぎて数秒後、ジンは振り返る。

 初老の男性教師は登校してきた生徒達とも挨拶を交わしているが、ジンみたいに長めに引き止めている様子は見られない。

 疑問に思いつつ、ジンは彼の名前を思い出す。

 名前は初川 クニトシと言い、数学教師である。

 そして。



「あの人って、新学期になってからこっちに来た人だったっけか」



 年度を跨ぐ前はこの中学校に不在であった事も。

 

 ジンは向き直って再び歩き出す。

 校舎へ向かう道中を彼は日頃から退屈に感じている。

 ジンの左右に分かれた頭髪と灰色の目はよく目立つらしく、堂々と歩いているだけで注目の的になる。

 通り過ぎるまで無視を続けるか、仲間内での談笑に集中していれば良いものを、ぶつ切りにして目で追われていては誰だって嫌気が差す。


 噂話の1つでも耳にしていたなら、もう少し気が楽になったかもしれない。


 噂を流した本人を突き止めるかと言われれば、する可能性が高いが。

 何時も通り、教室に向かうまでの辛抱だ、とジンは身構える。

 周囲の視線を通り過ぎる。過ぎている間に、違和感を覚えた。


 その視線に棘を感じなかったからだ。

 シノが普段向ける視線の感情――をもっと極端にした感情ばかりが通りかかる彼を見ている。

 しかし、ジンに思い当たる節は無い。

 祭りに行って、それが明けただけ。


 ジンからすればその程度の認識。

 だが、周囲にとってはそうではない。


 意外にもそれは、あっさりと突き付けられた。

 突如として、男子生徒が3人。ジンの進行方向を塞ぐ形で姿を現す。

 これを無視出来る程の横柄さは持ち合わせて無いので、ジンは必然的に足を止める。



「…そこ、退いてくれよ」



 数秒経っても進展が見られず、埒が明かないと感じたジンは沈黙を破る。

 見たところ同学年のようだが、面識は無い。

 気に障る事をした覚えも無く――そもそも1年前まで塞ぎ込んでいたから当然だが――、一声掛けただけでは変わらない状況に居心地の悪さを感じた。


 待っていると、男子生徒達はようやく口を開く。

 堰を切ったかの如く。



「おい、屍守! 何でオマエとマレオルちゃんが一緒に写ってんだよ!!」


「そうだそうだ! 羨ましいぞコンチクショー!!」


「1年前まで陰気なヤツだったクセによー!!」


「な、何…??」



 まくし立てられながら見せられた写真には見覚えがある。そして、彼らの言う「マレオルちゃん」にも心当たりが。

 前日の夜に観光客の誘導を行うべく、バッジを配っていた様子は思い出すのに容易だ。

 そして、マレオルの名前は彼女本人から聞いている。結華の魔法少女としての名前であるマレオルトフィで間違い無い。


 周囲がざわつく。謎のDJ少女(マレオルトフィ)は最近のホットワードで、この市立中央中学校も例外では無い。

 発見報告が『サン・トゥ・ラトール』の1回と、『フェルク・レスタム』2日目の夜のみの、紫の装いをした少女の話題となれば、野次馬が増えてくる。

 


「屍守が何か知ってるってー?」


「何処に居るか教えてくれよぉ!」


「どんな関係なの??」


「何処で知り合ったんだよ?」


「あの子の好きな物なにー?」



 矢継ぎ早に来る質問に対し、ジンは唖然とする。

 しながらに、外野達は話しかける切っ掛けが欲しかったのだろう、と推察した。

 見るからに興味はマレオルトフィ――結華の方へ向いており、そこにジンに対する意識は見られない。



 (まァ、そんなモンか)



 興味が、恐怖を上回っている。ただ、それだけの事なのだ。

 ジンの事――そもそも関係性からしてジンに触れざるを得ないが――を極力避けての質問ばかりで、次第に落ち着いていく。

 だが、そうだとして。ジンに意地悪をする気は無かった。



「さぁ屍守、白状してもらうぜ! マレオルちゃんはオマエの何なんだ!?」


「――義妹だよ、オレの」


「「「「えっ」」」」



 騒がしさが一瞬で収まる。

「知りたがってたのはオマエらだろ…」とぼやきつつこの状況に頭を掻く。


 再び数秒沈黙するのを見て「もう行っていいか?」と尋ねた途端。

 堰は再び切られた。



「妹なんて話初めて聞いたぞ!!?」


「屍守って妹居たの!?」


「家行ったら会えるのか!?」



 矢継ぎ早の質問が再開し辟易としていると。

 後ろから手を取る人物が現れ、彼の右手を引っ張って「行くよ!」と声を掛ける。

 焦茶のポニーテール少女、箕早 シノだった。



「あッ、シノ!?」


「ジンくん困ってるじゃん! ほら、朝礼始まるから早く早く!」



 この状況をどうやって解決すべきか悩んでいたジンにとっては、彼女の存在は渡りに船だった。

 ジンを包囲網から引き離し、下駄箱へと急いで連れて行く。


 そんな2人に大声が投げかけられた。



「――待ってくれー! シノはこの事知ってたのか!?」



 これを聞いたシノが急に足を止める。

 ジンが困惑すると、彼女の後ろ顔に怒りの色が見えた。

 ジンは苗字呼びなのに対し、シノへは下の名を呼ぶその態度が気に食わなかったらしく。


 振り向いた彼女はあっかんべーをした。



「んべっ! 教えてあげない!」



 それから再びジンを下駄箱へと連れて行った。

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