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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Session.3 弾けろスパーク・エイトビート

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第49話 『彩り』と装いの意味は

 鼻歌混じりに軽快なスキップをする結華。

 貰ったクーポン券の内2枚を使って購入した2品の衣類を揺らす紙袋に納め、履き慣れてきた子供用靴で刻む一定のリズムで向かうは繁華街エリア。今日も店で昼食にする。

 一昨日にも来たその場所は、比べるまでも無く人通りが落ち着いていた。正午辺りでも平日、だからではあるが。



「どこにしようかな」



 以前行った店。定番の店。知る人ぞ知る店。

 真昼はまだ始まったばかりで、ある程度は現地で選ぶ時間もある。何処へ行っても待つ必要はあまり無い。

 飲食店の建ち並ぶ街の一角は、店名のロゴや看板の配置配色等、店それぞれの工夫が為されている。

 重要なのは形状と色合い。自然に馴染む様にして、下品でくどいものにしない。

 

 改めて見渡してみると、ジンの描いた作品や、バレルドームの各種設備やエリアの事を思い出す。


 

「いろどりって、おもしろい」



 『アノイーズ・マレ』が忠実なデザインだからこそ、客観的に魔法少女としての自分がどんな姿であるか見れる。

 黒と紫を基調としながらも所謂ヒロイックに仕上がっている。

 何故、そうなったのかを考えても今の彼女には分からないが。


 街の景観。マレオルトフィとしての容姿。それらを纏めて出た感想がこれだった。

 興味深さを感じて上機嫌になっていると、結華はふと立ち止まる。

 惹きつける物に計算、意識されたデザインがあると言うならば。

 『べモン・ベルス』もそうだったのではないのか。

 


「ふく。クリーム。それから、がっきのかいぶつ。……どうして、かんけいのあるものばかり?」



 アパレルショップに被服を。ケーキ店にクリームを。『フェルク・レスタム』に楽器を。

 差し向けてきた怪物はいずれも攻撃対象へ姿を寄せてきている。



「おそいかかるだけなら、どんなすがたでも良いはず」

 


 それこそ、灰色の粘体のままでも構わないだろう。

 しかし、ひと手間を加えてから襲い来るのが『べモン・ベルス』だった。



「『べモン・ベルス』はせいちょうする、だったよね」



 何処から侵攻するのかを問わず。例え世界が違えども。

 姿形を、能力をより洗練したものへと変えていく。


 ならば、海を経由せず直接送り込んできたのも、姿形を寄せてきたのも意味がある筈。

 そして、『フェルク・レスタム』の2日目の夜に大群をけしかけた事にも。


 結華が考え事をしていると、露出の多い姿をしたまだ若い女性2人組が目の前を通りかかる。

 彼女達は食べ歩きながら談笑しており、立ち止まったままの奇抜な肌の少女に気付かなかった。



「聞いた通り、空気中の魔力が落ち着いてきたよね~。ピリピリした感じが無いし」


「昨日まではこんな露出の多いカッコ、出来なかったよね。肌がちくちくしてさー」


「そーそー。ここって丸一年暑いからあんな日が多いと参っちゃうよね」


「日焼けは結界が遮断してくれるし。あっついけど楽園サイコー!!」



 何気無い会話だが、結華にとっては初耳の情報。

 そして、それは盲点だった。


 

「!」

 


 気付いた素振りを示した結華は急ぎ魔力を調べる為に念じる。

 その直前に彼女は両の袖を捲り上げた。



「ぴりぴりしたかんじ……はない。けど、()()()



 そよ風が吹き抜けていくような、大気の独特の流れ。

 この繁華街にも上空にもあるそれらは、意識し集中すればはっきりと視認出来るようになる。



「おまつりの時にもあった気がする。…これがいつも、なんだ」



 より正確に言えば、昨日までより落ち着いた状態だが。

 振り返ってみれば、シノの服装からして肌の露出を極力抑えていた。

 島外から来ていた観光客も長袖長裾は当たり前であった。


 温暖な気候である事を踏まえれば、この状況だったのはおかしい。



「おはだがちくちくするなんて、考えなかった」



 そもそも、あの世界に居た時にも、この島に来てからもそのような感覚を抱いた事は無い。

 普段から長袖長裾ではあるものの、顔や手に何らかの違和感を抱く筈。だが、その違和感は無かった。



「『べモン・ベルス』はどうだったかな。平気にしていたような」



 これまでに遭遇した怪生物の数々は、音楽以外に嫌悪感を示した試しが無い。

 数度遭遇すれど、姿形の異なるいずれもがそうだった。

 最初に遭遇した、鮟鱇型の怪生物ですらも。

 つまり、大気中の魔力濃度が高まったとしても問題が無いという事。


 ――――そして、結華の体質と一致している。



「……」



 共通点が浮かび上がった事に結華は口を噤む。

 人の姿をしていても、この薄紫の肌は誤魔化せない。

 マレオルトフィになってみれば、寧ろ肌の紫は濃くなる。


 疎外感。日常に戻ってきて、結華は薄々と感じていた認識を突き付けられる。

 地肌として、紫色をした肌を持っているのはこの島の中で結華唯1人。

 そこまで極端な異色肌は、〝コスプレ〟と認識するのがこの島、及びこの世界の一般常識だ。

 

 もう1つの世界、『魔深界』ならばどうだろう。

 確かに青や黄色、赤と言った異色肌を備えている。直接尋ねた訳では無いが、聞いたならばあの3人は地肌と答えるだろう。

 だが、彼女達――恐らくは深魔族全般にあって、結華に無いものがある。


 それは、『地上界』の人間と異なる、肌の色以外の特徴があるという事だ。



「……わたしって、なにもの?」





 ◇◆◇





「あっ。おーい、ユイカちゃーん!」



 昼過ぎ、気さくな男性の声が通りかかる結華へとかけられる。

 昼食を食べ終えた――結局、定番となる島料理店にした――彼女はその声への反応を少し遅らせる。

 落ち込んでいる自分の顔を見られたくなかったから。2度会った程度ながらも、彼女が平調子で無い事を男性、小さなケーキ屋の男店員は見抜く。



「どうしたんだい? 何か困り事でも?」



 困り事、ではある。しかし、身内でも無い男店員へ相談を持ちかけて良いのか悩む。

 ばつの悪い顔をしながら黙考。数秒後に彼女はようやく返事をした。



「……はっきり、しないの」


「うん?」


「わたしって、なんなんだろうって」



 七桜 結華は何者なのか?

 店を選んだ時も、頼む料理を選んだ時も、勘定をした時も、ずっとその疑問が頭を過ぎっている。

 だが、彼女はそれに提示出来る納得の行く答えを出せず仕舞いでいた。


 こんな曖昧な悩みでは言われた側を困らせてしまうだけだろう。

 

 恐る恐る、結華は店員の様子を伺うと。

 彼は困るどころか、真剣に考えている様子だった。



「ユイカちゃんはさ、魔法少女になりたかったんだよね?」


「えっ?」



 突拍子も無いようで、店員側が見てきた姿を踏まえれば当然の問いかけ。

 目を見開く結華に対し、男店員は続ける。



「いや、さ。初めて会った時の君は、魔法少女として助けてくれたから。てっきりなりたかったものになれたのかなぁ、って」



 魔法少女としての姿は願望から来るものだったのか?

 この答えを見つけるべく今一度、結華は過去を辿る。辿りつつ、彼女は質問する。

 


「……おはだがむらさきのまほうしょうじょって、へんじゃない?」


「それは分からないかな。ほら僕、忙しくてさ。あんまりアニメとか見れないんだよね……」


「うでにぷよぷよとしたの、ついてても?」


「可愛らしい、と思うなぁ。ケーキに苺やチョコレート、甘いものを乗っけてる感じだよ」


「じゃあ、DJやってるのは?」


「面白い、と思うよ。何て言うか、凄い事するよ、って感じで!」


「……!」


「実際、君は凄い事してくれて、助けてくれたじゃないか。だから、ユイカちゃんは魔法少女マレオルトフィ、だよ」



 質問の傍ら、結華は蓮音の後ろ姿を思い出す。あの世界で見た、姉の頼れる姿を。

 様々な物を形成し、それらを最大限駆使して戦う。不利な状況であっても出来る限りを尽くす彼女の姿を。


 それから、ジンの後ろ姿を思い出す。この島に来て間も無い内に見た、兄の不屈の姿を。

 体格差による圧倒的不利であっても。何度倒れても立ち上がり、再び立ち向かって脅威を退けようとする。諦め悪く生きるを体現する彼の姿を。

 

 魔法少女になりたかったかどうか。これを記憶の数々が証明していた。


 辿っていく内に、彼女の不安も悩みも消え去っていた。

 俯いた彼女が再び店員に見せた顔には、晴れやかさが宿る。



「…そうか。まほうしょうじょでいいんだ、わたし」


「ユイカちゃん?」


「ありがとう、お兄さん。おかげで、楽になった」


「――そっか、助けになれて良かったよ」



 人間で無くとも。深魔族で無くとも。魔法少女にはなれる。

 あの時、蓮音から名前と魔法の使い方を授かった時から、七桜 結華は七桜 結華なのだ。


 自信が付いたからこそ、結華は自然に笑みを浮かべていた。

 平調子に戻った事を察して、男店員もまた笑顔を浮かべる。



「それで、何か買っていくかい?」


「うん。おすすめ、教えて」


「分かった。今日のおすすめは、これと、これと、これかな」



 大結界の構築により、『べモン・ベルス』が消え去った事で平穏の戻ったミュジ・シャニティ。

 朗らかな営みこそが、この島の本来の姿だと言うように、太陽が照らし鳥達が囀る。

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