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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Opening ジェック・ベッタ アノイマレオル

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第4話 異界から現れた『ヤツら』

「よるをほどく、あわいひかりが。ねむるこどう、そっとっ、つつむ」



 意気揚々と駆け回りながら、結華は歌詞を口ずさむ。その歌詞とは今朝聞いた『ルミナス・ウェイブ』のものだった。

 (ひと)()が少ないのを良い事にバッグを振り回し、勢いのまま川沿いの柵へ飛ぶ。

 転落防止の為、高く設けられた柵にも関わらず、それらは軽快な足取りで回る少女の足場になった。


 バッグを抱えながら柵の上を駆けていく。忙しない足取りの反面、バランスは非常に優れたものであった。

 表情こそ変わらないものの、楽しそうに振る舞う彼女は柵の上に立ったまま川の向こうを見渡す。



「ほしのしずく、ひとみにうつして――」 



 日が昇って間もない内の市街地、規則的に並ぶ建造物の数々が少女の視界へ流れるように映り込んでいく。

 緩やかな回転が加わった彼女の体はやがて青空へと向き直って自由落下を始めた。

 敷き詰められたタイルに背中が触れた途端、タイルは柔らかく結華を受け止め、()()()()()


 再び浮かび上がった少女はその軽やかさで以て着地を決めた。柵へ飛ぶ前の状態に戻った少女は首を傾げる。



「…少し、ちがう?」



 1度聞いてそれきりの楽曲故に、うろ覚え。

 記憶が告げる違和感に対する正しい答えが出ないが、彼女の中でとあるリズムが、口ずさんだものと入れ替わる形で響き続けている。


 『ルミナス・ウェイブ』と全く異なり聞き覚えの無いものだが、不快感も無い。

 


「よくひびく……これは何?」



 熱いものが心に宿る。何か掴めそうでもう一押しの足りないもどかしさを結華は感じた。

 悩ましくもあるが、考えていても何も進展しない。



「…こんな時、お姉ちゃんならどうするかな」



 少し前まで魔法の手解きを懇切丁寧にしてくれた、笑顔の眩しい青の少女の姿を思い浮かべる。

 教わった魔法を実践しようとしてよく失敗し、その度に励ましとして言われた言葉を反芻する。



「『知ろうとする事が大事』だったよね。お姉ちゃん」



 意を決したその時、丁度重低音が聞こえてきた。

 微かに聞こえるそれを頼りに、結華はバッグを抱えて音の方へ向かう。


 徐々に大きくなる音から方向が合っている事を確信しつつ40メートル程進んだ先、彼女は見つけた。

 重低音を鳴らしていたもの、それはガラス張りの店外に備えられた音響システムだった。

 近付いた事で重低音以外も聞こえるようになり、1つの曲だとようやく認識出来た。


『ラ・ダ・リーシェ』の曲とは全く異なる音楽ではあるが、結華にはとても興味深いものでもあり、立ち止まって聞き入り始める。

 特に、最初に聞こえた重低音が気に入りそのリズムに沿って踵を上げ下げする。


 聞き入っていると、彼女の背後より1つの人影が近付いて――――。



「――聞き入ってるようね。私も気に入ってるの、この『ラッキー・パンチ』って曲」


 

 結華に声を掛け、キャップのつばと黒紫の目が振り向くと元気な笑顔を見せた。

 後ろ髪を上向きに束ねたオレンジヘアーをし、動きやすそうな服装の上にエプロンを付けた妙齢の女性が結華に視線を合わせるべく屈む。



「いらっしゃいお嬢ちゃん。どこから来たの?」


「あっちの方、だった気がする」



 結華が指差したのは東側の方角であり、少し思案した様子の女性は次の言葉を紡ぐ。



「そこって『魔女の料亭』があるところだよね。あそこの料理結構評判良いからいつか行ってみたいんだよね~」


「その『まじょのりょうてい』からあるいてきた。はしっても…いた気がする」


「えっ、そうなの?」



 リズムに沿った首肯に対し、エプロンの女性は悩む素振りを見せた後、表情の変わらない結華へ顔を近付ける。

 まるで他者の視線を――誰かが見ている訳でも無いが――意識しているような様子に結華は少し首を傾げた。



「ねぇ、あのおばあちゃんに掛け合っておすすめメニュー教えてもらうって出来る?」


「? おいしいごはんを食べたいってこと?」


「そ。そうなのよ、メニュー選びしくじって悲しい思いしたくないからね。あと良い席が何処か、ってのも」


「伝えてみる」


「ありがと~」



 脱線していたが、話は音響システムより流れる音楽『ラッキー・パンチ』に戻る。



「んで、『ラッキー・パンチ』の何処が好き?」


「この、ずん、ずん、ずん、ずんって響く音」


「へぇ意外。重低音のビートを気に入るなんて」


「びぃと?」


「拍、もしくは拍子ってやつ。規則的…リズムを作るように鳴ってるでしょ。耳澄まして聞いてごらん」



 エプロンの女性の言葉に従いもう一度重低音を意識して聞いてみる。彼女の言う通り、根幹のリズムを形成するようにその音は鳴っていた。

 そして、これがもう一押しだと結華は確信する。



「知らなかった。ビートがリズムを作ってるって」


「音楽ってさ。知れば知るほど面白くなるし、味わい深くなるんだ。同じものでも理解してるのとしてないのとで、印象が大分違う。……ってこれ音楽に限った話じゃ無いか」



 照れ隠しに笑う女性を余所に、自分の中で響いていたリズムに対しての理解を深める。

 何故、『ルミナス・ウェイブ』を初めて聞いてあの姿になったのか、分かった気がした結華は微笑んだ。



「ありがと、お姉さん。もっと音楽を調べてみる」


「…うん? まぁ、何か解決出来たなら何より」


「ところで、このお店はどういうお店?」



 自分の問題が解決したところで、結華の興味は店そのものに向く。ガラス張りの向こう側には様々な衣服や小物類が並んでいた。

 規則正しい配置のされ方をしているそれらを屋内に収めた店を、こちらに来て日の浅い結華は知らなかった。


 この質問を聞き、エプロンの女性は待ってましたとばかりに答える。



「ここはね、アパレルショップ。オープンしてまだ2ヶ月だけどそれなりに賑わってるの。私はここの店主」


「服いっぱい。服を売ってるの?」


「そんな感じね。お嬢ちゃんは何か気に入りそうなものある? …ってまだ開いてないけど」


「うーん…」



 ガラス張り越しから店内に並ぶ服の数々を見る。ある程度見たところで1箇所を指差した。



「あの服。ぷわぷわしていい感じ」


「ああいうの好きなの?」


「うん。やわらかそうなの、好き」


「柔らかい系かぁ。それなら店の中にも色々あると思うわ。開いたら確かめてみる?」


「そうする。……?」


「なに? どうしたの?」



 会話の途中、結華は何も無い方向に顔を向けて、アパレル店主は少し困惑する。

 視線の先には景観以外何も見えないが、結華は感じ取っていた。



「来る」


「えっ?」



 庇うように結華が前に立つと、それは突如姿を現した。

 景観の一部に罅割れが生じ、これが内側より砕け散る。粗雑に空いた穴からは灰色を軸としたマーブル色の粘体が流れ出て来る。



「な、なに、何なの…?」



 只事で無いと理解したアパレル店主の声を聞き流しつつ結華は粘体の様子を伺う。

 やがて灰色の表面から目が浮かび上がり、この目がアパレルショップを見ると粘体がその場で暴れ出す。


 沸騰に似た挙動を見せた後、粘体は分裂してそれぞれが浮遊しながら各々の姿を形成し始める。

 アパレル店主も結華もよく知る形状になっていくそれらは形成を完了すると表面上にあった余分な粘体を弾き飛ばした。


 正しく被服の姿をした怪物。規格に沿った物でなくそれらを歪め貶めた冒涜の存在の数々が、その鋭い牙に満ちた口を開く。



 『『『■■■■■ーーーッッ!!』』』



 言葉で表せないような独特の絶叫。あまりの耳障りさにアパレル店主は耳を塞ぐが、結華は体勢を変えないままじっと見る。

 怪物達は次に何をするのか。それを探り当てるのは姿形が多大なヒントとなる。



 (ここをねらってる。止めないと)



 結華のよく知る怪物、これと同じ目の前のそれらは非常に攻撃性が高い。

 それを示すように、被服姿の異形の数々がアパレルショップへと突撃する。



「な、何する気!?」



 初めて遭遇する状況故に、店主はすぐに身動き出来なかった。

 代わりに結華が動き、軌道の予測先にタンバリンの数々を形成する。

 丈夫に張った膜に星型を描くそれらが異形達それぞれへぶつかり後ろへ弾き飛ばす。


 時間を稼いだ。短く判断した結華は続いてマイクのような水晶の杖を取り出す。



「お姉さん。あぶないからはなれてて」



 突然の一言に戸惑うも、先程までと雰囲気が大きく異なる視線を見て、店主は彼女の言葉に従う。

 初めてとは思えない手つきで、結華は杖を振り回し()()を整えた。

 


「リズムに、ぷわぷわとビートをまぜる。今なら、いけるはず」


始めてよ(ジェック・ベッタ)DJマレオル(アノイマレオル)



 杖の球体部…マイクヘッドに向け呪文を唱える。

 すると結華の足元よりライトが点灯しスモークが立ち昇り始める。



「えっ、えぇ?」



 混乱要素に更に混乱要素が加わる現実離れした光景に、見ていたアパレル店主が間抜けな声を漏らす。

 スモークが晴れた途端、マイク状の杖だけが残りライトに照らされ輝いている。

 数秒経つと再びスモークが噴射され、その中を突っ切り結華が跳躍しながら登場した。


 杖を掴み取り、体勢を立て直した異形の数々を見る彼女の姿は大きく様変わりしていた。

 肌の色素が少し強まった、衣服の上からスライム状の物体を着る可愛らしいDJがそこにいたのだった。

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