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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Session.2 ヴォルテックス・ノーツ

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第22話 フェルク・レスタム① 昼前・手助け、そして両者は『邂逅』する

 水音言語。それは『魔深界』にて用いられる言語の一種。

 水音に似た発声をし、声と共に空気の壁を生み出しこれに反響させる事で特定の文字を成立させる『魔深界』に於いての常用言語である。

 空気の壁の角度や抑揚の高低で編み出す大量のパターンで文章表現、呪文詠唱を可能とする代物でもあり、『深魔族』として生まれた者が15年の期間で習熟させる基本の言葉だった。


 今現在同年代の仲間達とはぐれてしまっているタルチもまた『魔深族』故に。動揺している状況と合わさって水音言語しか喋れなくなってしまっていた。



ロ、ロポ(あ、あの)クァラパ ププ(どいてもらえませんか)?」



 ツアーの参加者達に話しかけようにも、伝わっていない為に何も起こらない。

 状況の変わらないまま時間だけが過ぎていく。タルチは焦っているのもあって、『シャニティ語』が上手く発音できないでいた。


 どうすれば。どう言えば。ロギィやユドゥが行ってしまう。

 助けを求める声すら届かない事態に、涙が込み上げてくる。うずくまろうとしたその時、彼女の腕を取る手があった。

 振り向けば、薄紫の肌をした少女が涙を浮かべるタルチへと寄り添っていた。


 その少女が、タルチより小さな体が黄色い体を抱き締める。

 突然の出来事に思考も体も固まったが。今は、一定の鼓動が聞こえる体の温もりが黄色い少女へと安心感を与えた。

 


『おちついて。だいじょうぶ…』



 意図を汲むように接する紫の少女は、タルチに冷静さを取り戻させる。例え、そのように誘導されていたとしても、黄色い少女には親しみやすい味方が居る事実が何より心強かった。

 黒と白に分かれた髪の少年と、焦げ茶の髪の少女が2人に近付くのはこの後の事だった。





 ジンとシノは結華が抱き締めた事で落ち着きつつある黄色い少女の様子を伺う。

 数秒経った事で、離れた結華と黄色い少女は見つめ合った。肌と同じ黄色い口が開き、何を言うのかを一同が待った直後。



「あ、あの。……ありがとう」



 聞き慣れた言葉に、ジンが驚く。

 


「!? 喋れるのか!?」


「ひぇ、ひゃい!!」


 

 島の共通言語(シャニティ語)を喋れるのか、という問いだったが急でもあった為に、落ち着いたばかりの少女を驚かせてしまった。

 「あッ、すまん……」と逸ったのを彼は直ぐ様詫びた。シノが目を細めて彼の胴を肘で突くのを甘んじて受け入れる。

 結華と再び目が合った事で、仕切り直しとなった。



「…私はタルチ。タルチャーナ・クラフィニカ、です…。それで、貴方達はいったい…」



 タルチと名乗る黄色い少女の視線が右へ左へ忙しなく動く。状況が飲み込めないのも無理からぬ事であり、まずは結華が名乗り出る。

 


「ななお ゆいか。ゆいかって呼んで」


「オレァ屍守 ジンだ」


「箕早 シノだよ」


「えっと、ジンさんにシノさん。それから、ユイカちゃん。…助けてくれるの…ですか?」



 明らかな戸惑いに、今度はジンが答える。先程驚かせた手前、気不味さを感じつつも。



「困ってただろ、アンタ。ずっと独りって訳でも無さそうだし、放っておけねェなと思ってさ」


「うん。タルチ、れつの向こうに行きたがってた。…向こうに何か、あるでしょ?」



 今の状況も、動揺のあまり出てしまっていた水音言語も彼らには届いていた。その事実がタルチの感じていた孤独を拭う。



「……友達とはぐれたんです。向こうに居るのに、行けなくて」



 タルチが語る今の状況に、ジン達は口々に意見を出しあう。

 


「この行列じゃ、もう暫くはかかるな。迂回するしかねェか?」


「そうかも。でも、そのともだちがいるばしょが分からないと」


「列の中にお爺ちゃんお婆ちゃんも見えるね。ジンくんの案が良いと思うけど、ユイカちゃんの懸念もあるね。タルチちゃん、何か連絡する手段とかある?」


「えっと。これなら……」



 肩紐で提げていたバッグから取り出したのは、水色の二枚貝。これを開くと上下に分かれた液晶らしき画面が露わになった。

 画面をタップし、タルチがその二枚貝の画面を操作すると通話呼び出し画面に切り替わり、彼女は貝の上側を耳に当てる。

 冷や汗を掻きつつ相手の応答を待つと、直ぐ様耳に響く大音量が返ってきた。



『遅い! 何してたのよタルチ!!』


「ぴゃう! ごめん、ロギィ……」



 動揺してばかりの少女に怒鳴るのも如何なものか、とジンは思ったが声に心配の色があった事で黙っておく。

 


『それで。今、何処に居るの?』


「行列の手前側。慌ててて、はぐれた所から動けてないの…」


『誰かに見つかったりしてない?』


「ん、と。助けてくれる人になら……」


『何ですって? 私に見せて』



「分かった」と短い返事と共に、更に画面操作をする。それからタルチは待機していたジン達に画面を見せた。

 画面を見ると、マゼンタ色の少女が中央に、青い少女が画面を覗き込む形で映っている。訝しげな表情はジン達を見定めるかのよう。



『――アンタ達がタルチを助けたの?』


「あァ。そうだが」


『…そう。じゃあタルチを連れてきてくれる? ワタシからもお願いするわ』


「こんな祭日に災難だったな…」


『それほどでも。怪物に襲われたでも無いなら安心だわ』



 さらっと言われた発言が気になるが、合流してからでも遅くは無いと思い、ジンはマゼンタ少女に落ち合う場所を尋ねる。



「…それで、何処に行けば良いんだ?」


『そうねぇ…。アンタ達の居る場所の先――大通りの自販機建ち並ぶところで落ち合いましょ。そこならあまり悪目立ちはしない筈だわ』


「迂回すればすぐだな。分かった、待っててくれ」


『あんまり遅いトォ、ロギィが駄々こねちゃうから早くしてネェ。タルチと一緒にご飯食べたいッテェさっきかラァ――』


『ああもううるさいわね! とにかくタルチを頼んだわよ!!』



 ニヤけ面で急に割り込んできた青い少女を押し退けるようにして通話を終了する。

 ジンは唖然としたが、声だけを聞いていたタルチは少しの沈黙の後、笑みを零した。



「…そっか、ロギィ心配してくれてたんだ。ごめん、とありがとう、って伝えなきゃ」


「まァ、そうだな。…連れてきてくれ、と頼まれはしたが」


「お願い、します。あんまり目立たないでほしい、って頼まれてるから……」



 既に目立つような外見をしているが、ジンは繁華街にある電子掲示板の数々の方を見やる。

 人だかりは多少落ち着いてきたようだが、中にちらほらと目立つ服装の人物が見受けられる。そこには更に、タルチのように肌の色を大胆に変えた人物も。

 所謂コスプレイヤー、なる人々だと後でシノから聞くが。この時点でのジンはタルチがあまり目立っていない理由に合点がいった。



「囲む形だと目立っちゃうかな?」


「怪しいとまではいかなくても訳ありです、って言ってるモンだぞそれ…」


「じゃあ、お兄ちゃんが先を行って。わたしたちは後からついてく」


「それで行くか。タルチも良いな?」


「はい!」



 落ち込んでいた彼女に段々と明るい表情が戻ってきた事で、ジン達もまた嬉しさを見せるのだった。





 行列で通れないルートを避けた道順は、指定の場所へ向かうのに数分を要した。それでも10分かからず辿り着けたのは十分と言えようか。

 自動販売機の並ぶ休憩スポットにて、待ち人であろうマゼンタ少女と青の少女、付き添う赤髪の畏まった服装の男を見つけ、タルチが駆け寄っていく。



「あっ、タルチ!」


「ごめんねー! ロギィ!!」


「わっ、と、いきなり抱きつかないでよ!!」


「心配したよね。お詫びにおごらせて~」



 大きな腕で抱き締められながら、タルチが奢ると聞いてつい、視線の先にあった料理店に目が行く。

 よだれが出そうになったのを堪え、顔を赤らめつつ返事をする。

 


「…ま。そういうなら、許すけど……」


「おふたりさんお熱いネェ。混ざっても良イ?」



 返答を待たずして青い少女も2人の更に外から抱き締める。マゼンタ少女の顔がますます赤くなった。

 


「ちょっとユドゥも! やめてよっ! 目立つな、って言われてるじゃないの!!」


「もう十分目立ってます……」



 既に手遅れ、と言った様子で付き添いの男は言う。休憩エリアの更に外では何人かが3人の少女に注目していた。

 色彩豊か且つ可愛らしい姿がとても様になるようで。『フェルク・レスタム』の熱気に負けない話題を呼んだ。


 そして、そこへジン達も合流する。マゼンタ少女の強がりな目と、ジンの異質さを宿す目が合った。

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