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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Opening ジェック・ベッタ アノイマレオル

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第2話 『奇抜』なる日常

 屈折階段を降り、折り返しの地点から1階が見えてきたところで結華は頭から飛び込む。

 1階の床に背中が接触すると同時に、少女の体は大きく弾んだ。床に突如現れたタンバリンによって。

 その勢いで壁に当たるも、またも星型マークを描くタンバリンが弾き、体勢を整え結華は綺麗に着地する。



「『ルミナス・ウェイブ』のリズム。すごくいい」



 白を基調とした外行きの服――所謂ストリートスタイルに着替えご機嫌な足取りで廊下を歩いていると、丁度洗面所の引き戸を開け出てくる人影が姿を現した。

 先程の起きるきっかけとなった指人形、そのモデルである白と黒の髪が半分ずつ分かれている少年だった。

 膝丈の深緑のズボン、赤の独特な模様が描かれた白いTシャツと目線を上げていく内に、眉毛も睫毛も白黒に分かれている顔が見え、灰色の目と合う。



「やっぱオマエか()()()。タンタカうっせェ思ったら」


「おはよ。お兄ちゃん」



 結華が兄と呼び慕う少年は(しか)(もり) ジン。今現在、真面で奇行に走る()妹に呆れ気味な視線を投げていた。

 そんな態度を気にも留めず、結華は軽快な身振りで挨拶をする。が、その表情は顔を合わせる前から何も変わっていない。



「バアさん怒んねェけど程々にしとけよな。良い曲聞いたかもしれねェが感化されすぎなんだよ」


「いい曲…うん、いい曲。『ラ・ダ・リーシェ』のあたらしい曲」


「浮かれてんなァ……当初の目的、忘れた訳じゃねェだろ?」



 やや心配気味の問いに対し、結華はゆっくりと直立姿勢に戻る。やはりと言うべきか表情は変わっていないが真剣な様子ではあった。



「お姉ちゃんをさがす。さがしておかえりってする」


「覚えてんなら良いが、進展はあるのか?」


「ううん。あんまり」


「……まあ、そんなもんか」



 首元を擦るジンを見つつ、結華は此処に来るまでを振り返る。

 

 此処では無い別の世界で姉と共に暮らしていて。

 ある日起きた異変で2人は離され。

 こちらの世界に迷い込んだ結華は、屍守の家に拾われる。


 大まかに、このような経緯を送ってきた。

 両親の顔を知らない結華にとっては、掛け替えのない唯一の存在。

 忘れて、趣味にかまけるなど出来る筈も無かった。


 付け足せば、結華の名は姉から授けられたものであり、結華自身が名乗る(なな)()の姓も姉の本名から授かっている。

 つまりは、七桜 結華こそが彼女の名前となる。



「お姉ちゃん――なな()() れん()()を知ってる人はいないって分かった」


「オマエの記憶通りに作った似顔絵も成果無いのか」


「見てたらわすれようがないって色んな人が言ってた」


「確かに、そうだよな」


「あとかわいいからしょうかい? してくれって」


「それは言わなくていい…」



 首を傾げる結華を尻目にジンは似顔絵の内容を思い出す。

 黒の混じる紫色をした癖っ毛の長い髪。

 青色の、おっとりとした瞳。

 そして、体型に大凡そぐわない大きな胸。


 欲望丸出しな有象無象が寄り付いてきた報告を耳にし、ジンは渋い顔をする。

 しかし、無欲で動く人間ばかりが協力を申し出る訳も無く。

 ため息を吐きながらも少年は対策を思考していた。



()()()さん、だったな。もし見つかって、あんまりしつこく寄ってくる奴が居たらオレに言えよ。話つけてやっから」


「? 分かった」


「コイツに何でこんな話しなきゃなんねェんだか…それより、バアさんが待ってんぞ」


「おばあちゃんの料理。毎朝のたのしみ」



 姿勢を伸ばして模範的に歩く少年の背を、軽快な足取りが追う。向かう先にあるのはオープンキッチンの部屋だった。




 ◇◆◇




 彼らの住まう島、そこの近海で取れる白身魚の姿焼きを中心とした朝食が3人分、並べられる。

 敢えて、手分けをして配膳を終えた事で3人はそれぞれ席につく。

 隣に座ったジンと結華に向き合うのは料理を作った老婆。

 屍守 エツコという名の彼女は結華達と一緒に暮らす保護者である。

 弛んだ瞼に納まる、深みのある真紅の瞳には厳かながらも温もりがあった。 

 


「またグラフィティ(落書き)してるそうじゃないか。うちの店で噂になっとったよ」


「悪ィ。けど噂するくらいなら直接言いに来いって伝えてくんねェか?」


「アタシもそう言ったけどね、おっかないの一点張りだよ。うちに飯食べに来るのにさ」


「なんだそりゃ」



 黙々と魚やベーコンエッグを乗せたトーストを食べ進める結華は会話する2人に目を向ける。

 2人に同調するでもなく、ただ無表情で彼らのやり取りを見ていた眼に、エツコの眼差しが合った。



「お姉さん…レンネと言ったね。手がかりくらいは掴めたかい?」


「ここに来るまえとかわらず……」


「まあ、まだ1週間しか経ってないんだ。焦る事無いよ、居候だからって」


「ありがとう…」



 表情は然程変わらないが、結華だけが直接見ている蓮音の笑顔を思い出し、少し落ち込む。

 俯く様を咀嚼しながら見ていたジンは気休め程度でも声を掛ける事にした。



「…目には見えなくても、確かな繋がりはある。生きているなら、いつかはまた会えるだろ」


「お兄ちゃん。それはげまし、のつもり?」


「気休めしか言えなくて悪かったなァ」


「でも、うれしい。ありがとう」



 ベーコンエッグのトーストを口に詰め込み、大きく咀嚼してからジンは遠方を見る。



「オレァ許せねェよ。運命とやらはつくづく人の嫌がる事しやがる」


 


 

 朝食を済ませ、結華もジンも朝の支度を進める。

 学校指定のワイシャツと水色を基調としたズボンに着替えたジン、片や先程の服装に両手で持つバッグを加えてキッチンに戻ってきた結華の姿を目で追う老婆が1人。



「弁当、渡しとくよ」


「ああ」


「あんまり遠くに行くんじゃないよ」


「あぶないところにもいかない。ちゃんと守る」



 中身の詰まった2段の弁当箱の包みをジンに、普段から聞かせている忠告を結華に与えて見送る姿を背に、少女達は家を出る。

 敷地内から歩道に出て早々、ジンと結華は真逆の方向に駆け出していく。



「じゃ、また後でな」


「お兄ちゃんも、ガッコウがんばって」



 徐々に小さくなる背中2つを、高台に建てられた料亭――それも魔女が経営する料亭が見下ろす。

 彼らの進む先には音楽や絵画、ゲームに文学と様々な娯楽で溢れかえっていた。


 かつて海に浮かんだ種が成長し、生まれた大地に大都市が築き上げられたとされる人工島『ミュジ・シャニティ』。

 上昇する気温と比例して盛り上がる喧騒に満ちた、奇抜な日常が今日も始まろうとしていた。


 

 人知れず、青空に紛れた空間の罅が徐々に大きくなりながらも。

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