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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Session.1 熱き骨太スラッピング

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第16話 請負人と『引き立て役』

 魔導警備隊がジン達を保護した同時刻。

 ミュジ市市役所という名の箱物内部は様々な部署の人間が慌ただしく動いていた。

 

 いよいよ明日に控えた一大イベント『フェルク・レスタム』絡みの作業は終わったものの、ここに来て次々と報告が上がる事例への対応に追われているのだ。

 市役所の最高決定機関である市長室とて例外では無い。警察署所属の人員も何名か出席しており、部屋の内部が騒がしくなっていた。内容は主に、ここ数日で発生している異変に関するものである。



「魔導警備隊からの報告! 上がってる?!」


「レン・サネ岬、およびサロロイ湾に『べモン・ベルス』襲来による被害報告が3件程! 駆除は魔導警備隊12番隊指導の下完了したそうです!」


「カルミュレット湾に出てこなかったのが幸いね。復旧作業は25日の正午から始めると関係各所へ連絡して!」



 レン・サネ岬とサロロイ湾は島の北東に位置する海岸線であり、音楽に関する逸話を幾つか有している。

 ポップカルチャー…主に音楽へ強い反応を示す『べモン・ベルス』こと異変により出現する怪生物が出没しやすい区域だと、市役所と警察署は前々から目星を付けていた。

 結果、そこに配備されていた警察機関と初動段階で衝突。少なくない損害が生じたがどうにか怪生物の駆除に成功していた。


 一方のカルミュレット湾は島の西側、『フェルク・レスタム』参加アーティスト並びに観光客を島外から迎え入れる為の海岸線であり、こちらも最優先警備対象だった。

 予測困難且つ不定期発生の事象に見舞われなかった事に一同安堵を浮かべた。

 

 

「警備隊2番隊からの報告です。『べモン・ベルス』及び空間の亀裂事象に動きあり。『フェルク・レスタム』当日の夜に襲撃を受ける可能性が濃厚との事です」


「それは1日目? 2日目?」


「2日目、だそうで」


「1日目だったらヤバかったわね……参加アーティストには2日目夜の外出は控えるよう連絡して貰える? 国外からのアーティストが2日目の夕方までに帰国するって言うなら話は別だけれど」

 


 2日目、それも夜になれば大トリである『ラ・ダ・リーシェ』の番が回ってくる。「市長のお気に入りに期待しましょ」という補足に、納得する者と腑に落ちない顔を浮かべる者に反応が分かれた。


 『ラ・ダ・リーシェ』。国内に於いて最も注目を集める7ピースバンド。彼らの持つ()()()()()こそが『フェルク・レスタム』を開催する最大の理由であり、そこに大トリに据えられた理由も含まれている。

 だが、全員が全員この理由に納得している訳ではない。それを、警察署側の人間の浮かない顔が示している。


 会議が続く最中、自分達の番がまだ回ってこず、これといった意見提案も無いので痺れを切らした市長室職員が隣り合う職員へ声を掛ける。



「市長はまだ、かかるかい?」


「あの人、気まぐれな所があるからなぁ……業務はちゃんとこなす人でもあるんだけど」



 頭の後ろで手を組む男が椅子の背もたれを揺らしていると、部屋の扉が豪快な音を立てて開け放たれた。

 会議を中断させ、注目を集めるのは十分で。睨む視線すらあったそれらは、開け放った男の姿を見て納得した。


 縞柄のブラウンスーツを着用し、角張った装飾のある黄金のリングを両手の指全てにはめた派手な様相。

 極めつけはこれ見よがしの立派な黒いリーゼントと、四角いサングラス。少しサングラスを外した事で見える深緑色の目が静まった面々を見る。



「よォ。――この様子じゃ大分待たせたみてェだなァ」


「皆様、申し訳ありません。『コグスネ楽器』社長との会食が長引いてしまいまして」



 ずかずかと上がり込むリーゼントの男に代わって、後から入ってきた褐色肌のプラチナブロンドの女性が頭を下げる。

 灰色のスーツ越しでも大まかに把握出来る、すらっとしながらも魅力的な膨らみを持つ彼女は同時に、角張ったメガネ越しに映るマゼンタの炯眼の持ち主でもあった。

 市長と秘書官。居るべき人員がようやく全員揃った事で場の空気が引き締まる。


 

「んで? 話は何処まで進んでんだ?」



 市長の椅子に踏ん反り返った男――3代目市長であるバレク・セン・羽島=ジェーオ・ミンドリンは会議の進捗を尋ねる。

 それに市長室職員の1人――会議の中心に居た女性が答えた。



「『フェルク・レスタム』当日に『べモン・ベルス』が襲撃してくる可能性が高い、という話までは」


「第4から第8までの警備隊を外に配備させときゃ良い。ヤワな鍛え方してねェし『ラ・ダ・リーシェ』の番まで時間稼ぐのは容易だろ」


「それなのですが……」



 警察署への提案へ、挙手し起立する男が1人。ミュジ市警察署の警視正の壮年男性だった。

 老けた体の彼は無知を恥じつつもバレクへと問うた。

 


「その、『ラ・ダ・リーシェ』というバンドに、本当に任せてよろしいのですか? ……彼らは正体不明、とは言え民間人です。公務員で無い彼らに作戦の要を担わせるというのは、酷ではありませんか?」


「……」



 首を左右へ動かして少し間を起きつつ。気味の悪ささえ覚える静寂の後バレクは返答した。



「警視正殿の言い分はよく分かる。市民を守る立場なら当然の意見だわな」


「では……」


「――だが、作戦は変わんねェ。警備隊に『ラ・ダ・リーシェ』のライブが始まるまで時間を稼いで貰い、後は『ラ・ダ・リーシェ』に委ねる。ドーム外のスピーカーを最大音量まで上げる手伝いはするけどな」


「……!!」



 バレクの提示する、簡略化された作戦内容に警視正は確かな驚愕を返した。「お前は正気で言っているのか?」と言わんばかりの眼差しにバレクは理解を示す様子を見せる。

 しかし、地位のある人間の疑心を目の当たりにして尚、速やかな快諾を返してくれた『ラ・ダ・リーシェ』メンバーへの信頼は揺るがない。

 姿勢を変え、前傾姿勢となりつつ白い歯を剥き出しにする微笑みを見せた。



「論より証拠、ってなァ。当日になりゃアンタも納得行く筈だ。アイツらに任せて良かった、と」


「せめて。せめて、彼らの正体を内密にお聞かせ願えますか…」


(わり)ィな。……内密だろうと()()、ダメだ」



 会議はそれから少しして終了となり、部屋にはバレクと秘書だけが残った。

 騒がしさが嘘だったかのように静かになった部屋で、市長は鼻歌交じりにノートパソコンの入力作業を行っている。

 その合間にミュジ市内での過去のニュースを見漁っていた。



「…んァ? 『サン・トゥ・ラトール』の救世主? 誰だコイツ?」



 サングラスに反射する画面には、1人の紫色のDJの写真が映る。一瞬、別種族の可能性が過ぎったが、市長であるバレクであっても見覚えが無かった。

 間抜けた声を上げた彼に、秘書が近付いて答えた。

 


「ああ、それ。最近話題になっている美少女DJ、という人物ですね」


「コイツ本人の情報量が無さすぎるなァ……店主すら名前聞いて無いのかよ」


「アノイマレオル、なる言葉は聞いたそうですね。彼女の名前かどうかまでは」


「『オヒメサマ』達に尋ねても収穫無しか? 『深魔族』と特徴が一致しねェし」


「確かに。肌の色は近しいですが海洋生物の特徴がありませんね」


「流石にこれを警察にぶん投げるのは気が引けるなァ……」



 行方不明者の捜索もまた警察署の管轄である。だが、明らかに地上人の()()では無い彼女の捜索願を出す事自体、今は容認し難い事であった。

 メリットが霞む程にリスクが大きい。厄ネタを抱えてばかりな立場だからこそ、留保を決断せざるを得なかった。



「アノイマレオルと言えば。『サン・トゥ・ラトール』が新シリーズを立ち上げるそうです。その名も『アノイーズ・マレ』」


「勝手に拝借したのかよ、救世主の言葉から……。んで、その『アノイーズ・マレ』とやらは何なんだ?」


「ご存知ありませんか。『アノイーズ・マレ』とは――」

 

 

 アパレルショップ『サン・トゥ・ラトール』と被服専門工房『グニャッカ・グルッセ』のタッグにより実現した、新シリーズ『アノイーズ・マレ』。

 謎の美少女DJ――小さな菓子店『モシュロ・クペン』近辺でも報告例が上がっている――をモチーフとした、ジェンダーレス衣装・衣類・アクセサリーであり。『グニャッカ・グルッセ』が製作し、『サン・トゥ・ラトール』が取り扱う。


 黒と紫を基調としつつ、両腕両足に備わっていたスライム状の物体も忠実に再現するという挑戦的なデザインをしているが、反響は彼女達の想定以上の物となった。

 

 謎の美少女DJは、写真を添付したニュース記事が上がってから時間経過と共に人気が高まり、今やミュジ・シャニティ内だけでも大量のファンが付く程の人気となっている。

 そんな彼女をモチーフとした商品、事実上のファングッズが出回るとなれば飛び付くというもの。

 商品予約は苛烈と言える程の競争と化しており、工房(グニャッカ・グルッセ)販売店(サン・トゥ・ラトール)も嬉しい悲鳴を上げている、との事だ。



「――第1弾は9月の販売を予定している、だそうです。……いかがなさいました?」


「聞いてて頭が痛くなってくるなァ。どんどん話が膨れ上がってるじゃねェか。収拾付くのかよ、コレ」


「そこは彼女達の腕の見せ所でしょう。それに、このような話は嫌いで無いのでは?」


「まァな。こういうテンションに振り切ったニュースはニュースで嫌いじゃねェよ。寧ろ、こういうのを引き起こす為に地固めしたまである。面目躍如ってところか?」



 バレクとの会話中、秘書は自身のスマートフォンを取り出し操作し始める。

 少しの確認の後、再び懐へとしまった。

 


「どしたァ?」


「いえ、妹から連絡がありましたので」


「急用だったのか?」


「…まあ、そのようなものですね。妹が近々こちらに来るそうです。何でも、探し人がこの地に居るのを見たとか」



 褐色秘書の発言を吉報と見て、バレクの顔も明るくなる。



「そうか。無事会えるのを祈っとくぜ」


「バレク様の祈りであれば、あの子にとっても頼もしい事でしょう」



 会話に花を咲かせつつ、バレクは引き立て役として、請負人達がベストコンディションで事を成せるように仕上げに取り掛かるのだった。

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