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祭響夢幻のセプテット  作者: Gno00
Session.1 熱き骨太スラッピング

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第12話 見て見ぬフリ、なんざ『出来る訳ねェ』

「せんせーさようならー」


「さようならー」


「おう、ここ最近物騒になってるからな、気を付けて帰れよ」



 6時限目の後の夕方のHRが終わり、荷物をまとめて速やかに帰ろうとする生徒4人を、担任教師は手を振りつつ見送る。

 まだ、教室から出ていない生徒も幾人かおり、その中にジンもシノも含まれている。



「お前達も、遅くない内に帰れよ」


「あーい」


「はぁい」



 席に居座る生徒達が口々に返事をする中、ジンは「グラフィティ案」を見返しており。その中に記憶に無い案が少しあった。

 特に気になったのは、揺らめく炎を眼に宿した骨で象られた蛾の案である。

 一部のみが描かれた翅すらも、炎が揺らめいて見えている。



「いつ描いたか、覚えてねェなこれ…」



 頭を掻きながら凝視するも、描いた記憶は無い。が、()()()()()()()

 この絵に沿った外見の存在を知っている。葬儀の日、霊柩車に両親の棺桶が収められていくその時に電柱の上に止まっていた存在だ。

 思い出していく内に。両親が亡くなる更にその前から、骨と炎の蛾を見た記憶が朧げながら浮かんでくる。



 (コイツと最初に会ったのは、()()だったか……)



 とても小さな頃だった筈だ、島料理の専門店に一家総出で行った時だったか、と断片程度の記憶を辿っていく内に、少女の声が聞こえてくる。



「――ジンくーん。ねぇ、聞こえる?」


「…ん? ――あァ、シノか。どうした?」



 返事をした事で、視線の先はシノへと移る。何か分かった訳でも無い為、不満を感じる事は無い。

 一先ずはこれぐらいにして、ジンは彼女への応対を優先した。



「いっしょに帰ろうよ。部活動、今日は無いんでしょ?」


「良いが、オマエも部活しねェのか? 図書部はこの時期忙しいだろ?」


「それが、先生がね、今日中にやるべき事は全部やっておくから、って」


「そうか、なら問題無いな」


 

 立ち上がると、ふと先程まで見ていた絵が気になり、視線を移す。すると、その絵が焼印を押したような質感に見えた。

 





 今日出された宿題を含めた、荷物を纏めたカバンをそれぞれが持ち。夕暮れ時の河川敷を歩いていく。

 主にシノが先を歩く形となり。楽しそうに歩く様を見るシノを見てジンもまた微笑みを浮かべていた。


 その間にも右へ左へ、視線を移していく。映るのは風景ばかりで、絵の通りの蛾は見当たらない。

 


 (ある時を境にあの蛾を見なくなった。だから、今まで忘れていたんだな)



 記憶が蘇ったのは、下校前にあの絵を見たからである。

 カナの提示した、「『骸骨』と『魂』は生涯を掛けて追求するに値するテーマである」。これへの認識を深める為に自分の過去の案を見返していたら、あの絵が丁度目に留まり今に至る。

 

 過去の己自身が備忘録として描いた――などと言う都合の良い解釈は出来ない。かと言って、他に描いた人物に心当たりは無かった。

 直近ではカナがスケッチブックを見たものの、彼女があの絵の蛾を知る由は無い。そもそも、両親にすら骨と炎の蛾は()()()()()()のだから。


 謎が謎を呼ぶ。歩きながら考え耽っていると、少し目を離した内に顔を覗き込むシノと目が合った。



「どゥわァ!!?」



 顔を赤くしながら飛び退く。この前も気まずい思いをしたが、反省を踏まえて咄嗟のケアが出来る程ジンは器用では無かった。



「も~、呼んだのに返事してよ。ぶつかりそうでこっちもヒヤヒヤしたんだけど!」


「わ、悪ィ……」



 今日は一段とぎこちなさを見せる彼へ、シノは心配そうに問う。



「ねぇ、何かあったの? 今日は考え事が多いみたいだけど…」


「……」



 顔色を戻し、少し悩んだ末。ジンは口を開く。



「…まァ個人的な悩みなんだが。言って良いか?」

 

「良いよ。…役に立てるかは分かんないけど」


「オレはどうも、最近焦ってるんだ。オレ自身でも何がしたいのか分からなくなってきてる。もう少しで掴めそうなモンに手が届かない…そんな感じだ」



『骸骨』と『魂』。グラフィティの新作を描いたその日に感覚を掴めた気はするも、絵を描く技術以外に変化は無い。

 結華が新たな姿と力を手に入れ、日々異変に対処出来るよう実力を磨いている一方で、ジンにはそのブレイクスルーが起こらないまま。

 


 (このままで良いのか? 今後も異変が起こった時に、全部アイツやバアさんに対処を任せっきりにするのか?)



 高名な魔法使いと伝え聞いているエツコでも、異形の数々を対処するのは容易だろう。だが、それ以前に曽祖母は手広く日銭を稼いでいる。

 養って貰っている身としては、彼女にも出向いてもらう旨を相談するのは気が引ける。ならば、必然的に、結華が出動する事が多くなる。


 彼女の話からして、初期対応を間違えれば甚大な被害が生じる可能性がある以上、彼女の負担は大きくなる。今のこの状況で結華が動けなくなった時が来ればどうなるか。考えたくも無い最悪の場合は嫌でも頭を過ぎる。


 置いていかれる事よりも、何も出来ないまま過ごすしか無い今が嫌だ。


 簡潔に言ってしまえば、ジンの悩みはこのようなものだ。



「うーん……それって、前の魔力検査の事を言ってる?」


「あァ、そうだ」


「確か、魔力は十分。どころか、持て余す程の量なんだけど。これを行使する手段がまだ見当たらないんだっけ……」



 魔力を巧みに操作出来る、魔法使いが世に定着して久しい現代社会では、身体検査の一覧に魔力検査が含まれている。


 端的に魔法への適性があるかどうかを調べる検査であり、ジンはその項目に於いて高い適性を示していた。いたのだが、その適性を引き出す手段が現状無く、検査に携わった医師も教師も当人すらも手を(こまね)いている状況にある。

 

 専門家が言うには、『魔法は、魔力量と行使手段の両方が備わってこその才能となる』との事。つまり、社会に於いて今のジンは魔法の才能があると見做されていない。


 これが、物心付いた時から続いている。ジンの焦りは一朝一夕のものでは無い。



「…私としては、適性があって羨ましいな~って思ってたけど。そっか、ジンくん思い悩んでたんだね……」

 


 慎重に、言葉を紡いでいくシノは、少し間を置いてから続けた。



「ねぇ、ジンくん。ジンくんってなりたいものとかある?」


「なりたいもの、か。そうだな、いざという時頼りになる奴になりてェよ」


「それに魔法って、必要かな?」


「……」



 ジンは瞑目する。僅かな時間で考えを纏めてから再度口を開いた。

 とても悩む事をしたと思えない間隔に、シノが冷や汗を浮かべているのを一瞥し。



「あれば使う。無ければ――それまでだ」


「…え」


「使える手段は使う、って意味だ。オマエが重く受け止める(こた)ァねェさ」



 立ち止まり、その場で体の向きを変えながら。先を歩いていくジンを目で追うシノ。

 その途端、微かに悲鳴らしき絶叫が聞こえた。丁度、彼らの向かう方向からだ。



「ジンくん……」


「行ってみるか」



 大凡、想定した光景が待ち受けている。ジンは決意を胸に駆けていく。

 そんな背中を、シノは増々不安を募らせながら追いかけるしか無かった。



 30m程先に進んでみれば、土手の開けた場所にて固まってじりじりと後退りをする3人の子ども達の姿が。

 恐怖と涙に滲んだ顔の向く先には、3体の大型物体が浮遊しながら少しずつ距離を詰めてきている。



「な、なにあれ……!」



 シノの驚く声と共に、ジンはその物体達を凝視する。

 しっかりと見た姿は、古いゲームから飛び出してきたかのような、ブロック状の細かな物体で構成された人型の存在であった。

 ブロックの配色からして、それぞれを勇者、魔法使い、戦士と呼称すべきか。細い線を引いただけの無表情も暴力的な大きさとなれば威圧感を宿す。

 

 誰がどう見ても、異常事態だ。怯える子ども達の手足に赤く染まった傷の数々を視認し、ジンは駆け出そうとする。

 その腕を、シノは掴んで引き止めた。



「……ま、待ってよジンくん……」


「見りゃ分かる! 異常事態だろ!」


「――そうじゃなくっ、てぇ!!」



 珍しくシノが叫ぶ。一瞬だが、ジンを驚かせるには十分だった。

 荒い息をしながら、食い入るように彼の顔を見る。今度は、ジンも目が離せなかった。



「さっき、『頼りになる奴になる』って言ってたよね、それって今の事じゃ無いよね!?」



 消え入りそうな声で「今じゃ無くても良いよね……」と続けるシノへ、ジンは瞳の奥に宿る意志を変えないまま次の発言を促した。



「…ねぇ、逃げよう。あの子達連れて、いっしょに。大人の人に任せれば良いよ。…キミが、立ち向かう事、無いじゃん……」



 彼女の茶色の目が涙ぐむ。このままジンを行かせればどうなるか、を想像した為に。

 シノの言葉が響かない訳では無い。然るべき組織に任せるのは一個人として妥当な判断だから。

 だが、彼も意志を曲げるつもりは無い。今朝の事を踏まえると、彼女に従って逃げたとして安全を確保出来るとは考え難い。


 それこそ、小さな子ども達の家が襲撃を受けようものなら。一時の後悔は一生の後悔になってしまう。



「…手を離してくれ、シノ」



 分かってくれた、と思ったのだろう。シノは彼に従い手を離す。

 俯き、再び上げた顔が出した答えは。



「――どうしても。……どうしても此処は、譲れねェのさ」



 振り向くと同時に突き進む。「…すまねェな」と小さな詫びを、遠くなる少女へと添えながら。


 分かってくれ、と懇願するつもりは無い。

 殿を務めよう、などと負けを承知で挑むつもりも無い。


 彼の目に一瞬、灰色の炎が宿り、揺らめいた。

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