9.美人は筋肉男子の兄弟に会う
屋敷に戻って少しすると、アンセルの弟ウィリアムが家に着き、玄関ホールで挨拶を済ませると公爵夫妻も同席してお茶を飲みながら皆で話をすることになった。
ウィリアムは王都で学院に通っていて成績は常に上位3位に入るのだとか。とても優秀な彼もアンセルと同じ銀髪で、肩のところで綺麗に長さを揃えて切られていて清潔感がある。
「それにしても驚きました。兄様が帰って来るなんて。しかもこんな美しい方と…。」
思いっきりウィリアムと目が合って、エリーゼは少し緊張したが、その心配をよそにウィリアムはただニコッと微笑んでまた家族の方を見た。
「僕が家に戻ったのは王都の状況を伝えるためです。王都の外れにある精霊の泉は、ここ数年で急激に瘴気が濃くなり改善する見込みがありません。王女殿下が、泉を清めるとされている秘薬を使っていますが効果はなく…。このままでは国全土に瘴気が行き渡るのも時間の問題です。」
それを聞いたエイダン公爵はアンセルとエリーゼがカネリスで魔物に遭遇した事を伝え、いずれモラードでも同じ事が起こる可能性を示唆した。
「そんなっ。王都に魔物が出たら大変です!」
動揺するウィリアムの隣でアンセルは何か考えこむ仕草をしてからエリーゼに向き合った。
「エリーゼ、俺は王都に行ってみようと思う。兄上は神官だ。この国は主に精霊によって豊かになった国だから、精霊を崇拝しているんだ。何か対策を考えてるかもしれない。それにクロエ王女の秘薬も、精霊の泉の状態も気になる。」
「ええ、私も精霊の泉には行きたいと思っていました。ぜひ同行させてください。」
「よし決まりだな。」
♢♢♢
それからの行動は早かった。翌日早朝にアンセル、エリーゼ、ウィリアムの3人は王都へと出発した。
王都に着いてすぐに神殿へ向かい、ブラウシス家長男のアルフと面会することとなった。
アルフは長い銀髪を一つに纏めて結んでおり、優しげな切れ長の目をしている、これまた美丈夫だった。
ーーブラウシス家の3兄弟はみんな恐ろしいくらい美しいわね…
「おや、アンセルじゃないか。しかも美しい女性とご一緒だね」
そう言ったアルフへ挨拶をしようとした時、アンセルがエリーゼに耳打ちしてきた。
「こう見えてかなりの女たらしだ。気をつけて。」
「聞こえていますよアンセル。やぁ挨拶が遅れて申し訳ない。私はアルフ。宜しくね。」
「こちらこそ挨拶が遅れて申し訳ありません。エリーゼと申します。」
それからアルフにこれまでの経緯を話し、精霊の泉に向かいたいこと、王女が使っている秘薬について知りたいことを伝えた。
「秘薬については私も思うところがある。しかしあれは先代王の奥方、つまり王女殿下のお祖母様から生前渡されていたものらしいんだ。」
それを聞いてアンセルが腕を組みながら何か考えている。
「たしか先代王の奥方が亡くなったのは1年ほど前だったか?ウィリアム、精霊の泉は何年前から瘴気が発生したんだ?」
ウィリアムがまさか、という表情になって答えた。
「……1年前です。」
「では、徐々に瘴気が範囲を広げてコンラード領、そして隣国との国境付近まで広がったと考えられますね。」
アルフがそう言えば皆が頷いた。
エリーゼは王族となるべく関わらない方が良いと思いつつ、王女殿下には会う必要があるだろうと覚悟を決めた。
「あの、まず精霊の泉に行くことは可能ですか?」
「あぁ、私が許可します。神官の許可があれば行けるので。王族は許可不要ですけどね。」
「ありがとう兄上。エリーゼ、ウィリアム、早速向かおう。」
「「はい。」」
3人は再び馬車に乗り、精霊の泉へと向かった。