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6.美人は筋肉男子と国を出る

魔物が目の前に飛びかかって来て、もうダメだとエリーゼは目を瞑りその場に蹲った。しかし次に耳にしたのは剣が風を切る音と魔物の叫び声だった。


まさかと思い目を開くと、自分と魔物の間に大きな身体が立ち塞がっていて、魔物は苦しそうに呻きながら消滅するところだった。

「大丈夫か⁈」

「アンセルっ!」

エリーゼはアンセルに飛びついた。それをアンセルもしっかり受け止めた。本当は不安だった。想像と違った辺境の地で一生を暮らせるのだろうかと。でもアンセルはただの護衛で、任務が終わればそれで別れるだけの人。そのはずだったのに、エリーゼはもうそれで終われないことを自覚した。

ーー離れたくない…


エリーゼに必死にしがみつかれて、アンセルは少し考えてからエリーゼに一つ提案をしてみた。

「ここの状況は異常だ。何か原因があるはず。ギルドに報告した後、俺はこのままモラードに行き、実家にこのことを報告してみるよ。だから、エリーゼも一緒に来てくれないか?」

エリーゼは目を大きく開いてアンセルを見上げた。そしてどこかホッとした表情になり、ついて行くことを了承した。

「もちろん行くわ。あ、その前にマグダリアさんに伝えなくちゃ…」

「俺も行こう」

そうして2人は修道院の中へ入り、マグダリアを探して急いだ。



彼女は奥の小さなホールのようなところに、他の修道女達と一緒に小さくまとまって座っていた。エリーゼ達に気づくと安心したように立ち上がって駆け寄ってくれた。そこで魔物が出没したこと、ギルドに報告して護衛を派遣してもらうこと、エリーゼは隣国へ行くことを伝えた。


「来たばかりなのに申し訳ありません。」

「あなたは何も悪くありません。こんな状態ですもの。ただここに居る彼女たちは既に行く宛がないので、護衛の件どうぞよろしくお願い致します。」

マグダリアは深々とお辞儀をした後、エリーゼから渡されていた小さな鞄を返そうとした。だがエリーゼはそれを断った。

「マグダリア様、それはこの院のために使ってください。」

「あぁ、ありがとうございます。貴女はやはりトゥーリア様のお孫様…。そうだわ、渡すものがあるのです!」


そう言ってマグダリアは一度ホールから出て、暫くしてからまた戻ってきた。その手には小箱が抱えられていた。そしてエリーゼの前まで来てその箱の蓋を開けてみせた。中には紫水晶が入っていて、強い何かを感じる代物だった。


「トゥーリア様からお預かりしていました。本当はあなたのお母様が戻られたら渡してくれと頼まれていたのですが…」

「お祖母様の形見…ですか」

「大切なものだそうです。お受け取り下さい。」

エリーゼはしっかりと小箱を受け取りお礼を言った。

「ありがとうございます。」

紫水晶はキラキラと内側から紫色の光を放ちながら輝いていた。



♢♢♢

エリーゼとアンセルは修道院を出て、モラードへ向かうために出発した。イメルに跨り手綱を握るアンセルの腕の中にエリーゼがすっぽり入る形で進む。後ろに修道院が小さく見える。エリーゼはマグダリアから最後に聞いたお祖母様の話を思い返す。


「トゥーリア様はモラードからカネリスのこの辺境の地へ来られて、暫くして主人を亡くされて、まだ幼い子どもと共に修道院に身を寄せました。私は当時まだ子どもでしたが、トゥーリア様がよく遊んで下さいました。文字の読み書きや計算も教えてもらい、彼女のおかげで寂れかけていた修道院も周りの環境もどんどん良くなっていって…。だからまだ若いのに早くに亡くなったのが残念で悲しくて。亡くなる少し前に、お嬢さんのミリヤが王都に行って助ける方法を探してくると言って出て行きました。手紙で亡くなったことを伝えたあと、何通か手紙のやり取りをしてからはもう音沙汰も無くなりました。だから貴方にまたこうして会えたこと、きっと何か大いなるもののお導きなのでしょう。本当に嬉しく思います。ありがとう。どうかお元気でーーー」


エリーゼはきゅっと胸に抱いた紫水晶が入った小箱を抱きしめる。

アンセルと共にトゥーリアの故郷であるモラードへと向かうことが、マグダリアも言ったように何か大きな力に導かれているような気がしてならなかった。



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